げんなり、と言った感じで思わず溜め息を吐いてしまった。
もう呆れるしかない。
頭が痛くすらなってもくる。
街中じゃなかったら、頭を抱えてしゃがみ込んでしまいたいぐらいに、うんざりとしてしまった。


(……いや、それにしたって寝過ぎだろ、俺)
『何回も声を掛けたと言うのに、起きなかったのはリアンではないか』


まさしくその通りのことをレイラに言われ、居たたまれなさからルークは側に寄り添うレイラの頭に嫌がらせも兼ねてぼすっとミュウを乗せてやった。
明らかにバランスが悪過ぎる、と言うよりも絶対に無理な体勢に、みゅうぅ〜と何だか妙な声を上げてミュウが落ちたが、まあ気にしないとそのまま放っておくことにする(一応拾い上げてやったけど)。

コーラル城でいつの間にやら手に入れてた音譜盤とやらをケセドニアの代表であるアスターの邸で解析させてもらったり、その他いろいろと用があったからルーク達は一度、連絡船キャツベルトから降りケセドニアの街を歩いていた。
とは言えほとんど夢の中に近いものがあったからこそ、気が付いたら音譜盤の解析が済んでいたりとこればっかりはルークも自分自身に呆れ返ってしまったのだが、もう仕方あるまい。
アスターの邸の中で寝入ったりしなかったのは万々歳なのだが、この異常なまでの眠気は身体的な問題よりもどちらかと言えば目の前の黒い犬のせいかもしれないとルークは薄々感付いていた。
と言うか、十中八九レイラが何かやっているのだろう。
確かに自分は体が丈夫な部類ではないが、普段からこんなにも寝てばかりいるわけではない。
それでいてよくもいけしゃあしゃあと言えるな、だとかお前、俺になにしてんだよこの過保護が、と無言で訴えるべくミュウを使ってぐりぐりと頭に擦り付けているのだが、レイラから返事はなかった。


「ルーク?どうかしたのか?」


レイラに嫌がらせをするにしても少々時間を掛け過ぎたせいか、すぐ前を歩くガイがふと振り返ってこう聞いたから、ルークは慌てて視線をレイラから外した。
なんでもねぇよ、と返すべき言葉はそちら。
ぶっきらぼうに言おうと口を開こうとしたのだが、その背後に迫った見知った緑に、そんな言葉などどこかへ消えた。


「ガイ!!」


思っていたよりもずっと悲痛な声になってしまったけれど、見えた緑の名を呼ぶわけにもいかず、ただ必死にガイの名を叫ぶしか出来なかった。
人混みを掻き分けて、一瞬の隙をついて飛び出して来たその存在は、一切の躊躇いなくガイの右腕に攻撃を仕掛ける。
咄嗟のことに避けることも出来なかったガイの腕に、何かの紋様が浮かび上がった気がしたが、判断は出来なかった。
それを施した人物が、シンクだと、わかるだけで。


「皆さん急いで船へ!早く!」


一番最初に状況が把握出来たのか、目の前を過ぎったシンクに警戒しつつ、ジェイドが背後にイオンを庇うようにしながらそう言った。
その姿を確認した後、アニスが巨大化させたトクナガにイオンを乗せ、キャツベルトへ向かって走らせる。
何をされたのかよくわからないが、傷口は痛むだろうに、それでも腕を引いて連れて行こうとしてくれるガイの姿に、ルークは密かに顔をしかめた。
レイラが居るから大丈夫、と答えるにはあんまりにも間違っているとはわかっていて、自分で思っているよりも大分混乱している頭を、恨めしくも思う。

シンクの意図が、ルークには全くわからなかった。
場所がケセドニアとは言え、マルクトの名代とキムラスカの王族の一行に危害を加えることが、何に繋がるかシンクだってわかっている筈なのに(これはきっと、イオンだって困惑してるに違いない)。
わからないことばかりだった。
唯一わかることと言えば、このまま逃げるように連絡船に乗れば、本当に行き場がなくなってしまうこと、だけ。


(後込みする余地など、何もなかった、筈なのに。)


足を止めることなんて許されていなかった。

終わりに向かって、進むだけ。


(どうか、そこから先へ、繋がって行くように。)



−−−預言の時は、近い。




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