「何体も何体も作ったみたいだけど、全部形にもならなかったんだってね」
「…うん。生まれてたら、レイラに頼んで、絶対に助けてた」
「レイラ?」
「あ、ローレライの名前だよ。みんなの前で呼ぶわけにもいかなかったから、レイラって」
「ローレライのレイラ、ね。ふーん、ま、いいけどさ。にしても髭もほんと馬鹿。なんで気付かないんだろ。少し考えたらわかるだろうに。所詮あの頭は飾りでしかないってことだね」


さらりと平気な顔をして毒づくシンクに苦く笑いつつ、ルークは巨大なフォミクリーの装置にそっと触れるばかりだった。
無機質なガラスはどうしても冷たくて、一度はここに連れて来られていただろう、彼の人を思う。
姿を見たことは、たった一度もなかった。
そっくりだとは聞くけれど、本当のところは何も、知らなくて。


「なあ、シンク」
「なに?」
「……あいつ、元気?」


名を呼べずに聞くルークに、シンクは一度辛そうに顔をしかめた後、ゆっくり隣に立って、同じようにフォミクリーの装置を見据えてから、答えた。


「どっかの樽の言葉鵜呑みにして、タルタロス襲撃に参加するぐらいは迷惑なほど元気。短気過ぎて頭痛くなってくるよ、本当」
「短気なのか?」
「こっちが呆れるぐらいにね。似ても似つかないよ、あんたとさ。顔も似てない」
「え?」
「あいつ眉間に皺ばっか寄せてんだもん。でこ丸出しだし。あんたの方が顔立ちが柔らかいし、雰囲気が違う。似てないよ」


そうやって言ってくれるシンクの言葉を耳に、ルークは一度目を瞑って、フォミクリーの装置に寄り掛かった。
似てないって。
そう言ってくれるシンクに、思うことは沢山ある筈なのに、どれも言葉には出来そうになかった。
シンクの言葉は、半分本当で半分嘘なんだろう。
似ていなかったら、自分はこうしてここに居ない。

息をする資格も、存在する資格も借りられないまま、きっと。



「……会いたい、な」
「…ぇ?」
「会ってみたい。話す機会なんて無くて良いから。うん、アクゼリュスに行くまでに、一回で良いから…会いたいんだと、思う」


穏やかに笑んで言ったルークの言葉に、その姿に、シンクはどうしようもなく泣き出したくなって仕方なかった。
ギュッと唇を噛み締める。
同じ六神将で関わる機会があるから、シンクは知っている。
会いたいとルークが望む存在は、何よりもルークを憎んでいることに。
それがあんまりにも理不尽な事実過ぎて、だからこそみっともないぐらい縋りついて、泣いてしまいたかった(まあ、絶対にしないだろうとは、自覚してるけど)。

ルークは泣かない。
泣かないし泣けないし、置かれた環境を知ってるからこそどうしてそんな風に、と思ってしまうぐらい、取り乱さないし、汚い感情を抱けない。

望みを口にすることなど、滅多になかった。
だから、叶えてやりたいとシンクは思う。思ってしまう。

(その先を望むから、どうにか言葉を、飲み込むけれど。)


ルークは笑っていた。
毛先に従って金に変わる朱色の髪が、風に揺れている。
同僚の髪は、毛先までも全て血のような紅だった。

似てないよ、とシンクは言う。
その言葉に、ルークがまた、笑んでいた。




「兄様!!」


どれくらいの間そうして二人で話していたかわからないが、不意に今にも泣き出しそうな声でそう言った少女の声が聞こえたから、ルークはゆっくりと視線を移した。
振り返ってみれば、桃色の髪をした少女が必死になって駆け寄ってくるのが見える。
そうして勢いよく抱き着いて来たその小さな体をどうにか受け止めて、ルークは笑った。
呆れたようにシンクが溜め息を吐いたのが聞こえたが、そこは気付かなかったことにする。


「アリエッタ」
「兄様、良かった…ほんとに、無事で良かった、です!アリエッタ、いっぱいいっぱい、心配しました…なんでタルタロスに、兄様居たですか!」
「あー…それは、あの、うん。アリエッタ、後でシンクにでも聞いてくれ」


言えば、途端に「なんで僕が説明しなくちゃなんないのさ!」とシンクから非難の声が上がったが、そこは悪いがルークも無視を決め込むことにさせてもらう。
ぽんぽん、と縋りつくように抱き着くアリエッタの頭を撫でてから、ルークはもう一度ゆっくりと、目の前にあるフォミクリーの機械をジッと見据えた。
アリエッタも同じように見ている。
ライガクイーンの話をしたら感謝されるより前に怒られもするだろうな、と思ったから、シンクに丸投げすることにした。


「アリエッタ。マルクトの軍人達はどの辺まで来てる?」


果たしてどこから取り出したのか頗る気になるところだが、いつの間にか仮面を着けていたシンクが、フォミクリーの機械を見つめていたアリエッタにそう聞いた。
ルークの腰にしがみついたまま離れないアリエッタは、顔をどうにかずらしてから、きちんと答える。


「カイツールは越えて、いまこっちに向かってる、です。多分半日も経つ前に、ここに着くと思う…」
「なんだ国境越えれたんだ。ふーん、あの馬鹿な妹の分の旅券はどーしたんだか」
「総長が来てました」
「は?」
「よくわかんなかったけど、総長がイオン様に挨拶しなかったのは見えたです…マルクトの人とこっちに向かってる。アニスも一緒」
「……アリエッタ、もしかして怒ってる?」
「導師守護役の仕事出来てないアニスなんて、大っ嫌い!」


ふんっ、と機嫌を損ねてルークの腰に顔を押し付けたアリエッタに、シンクもそれ以上は何も言わなかった。
今頃もしかしたらダアトの軍人は馬鹿が勢揃いなのか、とマルクトにもキムラスカにも思われているかもしれないが、痛む頭を堪えて、次へ移らねばならない。
自分はそろそろディストを連れて戻らなければならないのだが、問題はルークをどうしようかと言うことだった(ギリギリまで一緒に居るつもりだけど、さて、どうするか)。


「あのさ、シンク」


フォミクリーの装置を手で触れたまま、ルークがそう言った。
「なに?」とシンクは返す。
頼りないその華奢な体を、絶対に離すまいとアリエッタは抱き着いたままだった。


「俺がこの中で寝てたら、レプリカだって思ってくれるかな?」


何の感情も含むことなく、さらりと言ってしまったルークの言葉に、シンクはもう何も言えなかった。
死霊使いが一緒だからそう思ってくれるだろうね、とでも言えと?
そんなのは冗談じゃない、と。シンクは唇を噛み締めて、顔を背けた。
アリエッタが必死になってルークに縋っているのを、知っている。

あんたはレプリカじゃないのに、時々ふっと消え入りそうで、怖かった。



(ああ、誰か気が付いてよ、馬鹿。)





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