ぽかん、と開いた口が塞がらないとばかりに呆然と見上げるマルクト兵と、この体勢では譜術を唱えたところで届かない且つ落とすだけだと判断したジェイドが忌々しげにフレスベルグを睨み付けているのを、どこか他人事のように思いながら何でかそのまま運ばれて行く自分の状況に、ルークもまたぽかん、と口を開いて呆然とされるがまま固まっていた。
途中、上空で別のフレスベルグに背に乗るよう乗り換えさせられた時には一応それなりに我に…返ったと言えば返ったが、それでも何だこの状況、とうっかりツッコミを入れずにはいられない。

深く考えずともこのフレスベルグが、アリエッタのお友達だと言うことをルークはきちんとわかっていた。
にも関わらずアリエッタの姿が見えないと言うことは、マルクト兵にその姿を見られたくなかった、もしくは表立ってダアトの人間が拐うのは出来なかった、と言うところかもしれないが、きっとすぐにバレてしまうだろう。
もう少しアリエッタは自分の力を自覚した方がいいかな、と暢気にフレスベルグの背で若干寝そうになりながら考えていれば、ふとマルクト兵らしき青い軍服を来た人間と、その反対側にキムラスカ兵らしき赤い軍服を来た人間がある境目で分かれているのが見えた。
国境、と言うところだろうか?
シオンに振り回されて一時期いろいろなところを巡っていたけれどこの辺りの地理はさっぱりで、とりあえず下ろしてもらうまで寝るかとルークはフレスベルグにしっかり掴まって目を瞑ったのだ、が。



「あんたは馬鹿か!!」


起きて早々。
見知らぬ場所で、何だかよくわからない機械の前で、シンクに怒鳴り付けられるとは、思ってもいませんでした。





「あ、おはよう。シンク。久しぶりだなー、元気にしてた?」
「違うだろ!あんたなにそんな暢気なこと言ってんのさ!そんな場合じゃないだろ!」
「んー…あ、もしかしてこんばんはだったか?」
「……惚けるのも大概にしなよルーク。人参口にぶち込むよ」
「…………怒ってる?」
「これ以上ないってぐらいにはね!」


ガシャン!と何だかぶち壊れたんじゃなかろうか、とそんな音すらも立てて床に自分の着けていた仮面を投げつけたシンクに、ルークは困ったように笑うことしか出来なかった。
目を覚ましたら側にはフレスベルグではなくライガが寄り添っていて、ふと顔を上げたらシンクが仁王立ちしていました、とそれだけで驚いてどうしたら良いのかわからないと言うのに、また機嫌の悪さを隠しもしないのだから、ルークにはもう成す術なんてないように思えて仕方ない。
時刻、現在地、そして何この状況?と絶賛頭の中には疑問符ばかりだったのだが、下手なことを聞けばまた頭ごなしに怒鳴り付けられるのは目に見えていたので、しなかった。
だから、ルークは困ったように笑う。
それがまたシンクの機嫌を損ねる原因の一つとなっているのだが、当人は気付きそうにない。


「―――で、一体なにがどうしてこうなったらあんたがマルクトの陸艦なんかに居たわけ?」


腕を組み、額に青筋すらも浮かべてどうにか怒りのまま怒鳴り付けるのを一旦堪えて言ったシンクに、ルークは「流石参謀長。顔合わせてなかったのに知ってるか」と暢気に思ったが、口には出せなかった。


「えっと…ヴァン師匠が邸に来て、ティアが襲って来たからつい庇ったら疑似超振動起こしちまって…」
「知ってる。危うく卒倒し掛けたからね。聞きたいのはそのあと」
「…タタル渓谷抜けて、エンゲーブでイオンと会って、チーグルが食料泥棒してるって話でチーグルの森に行って事情聞いたらライガクイーンが居るってわかったんだ。ライガクイーンの森が、チーグルに燃やされたからって。説得してくれって頼まれたから…ってまあ言われなくても会いに行ったんだけど。まあとにかくチーグルの森から出て行くのはいいけど場所が無いって話になってさ。何だかんだで、ライガクイーンが元々居た森を元に戻したら情けないことにぶっ倒れちまって。マルクト軍に保護してもらってたんだよ」
「………力使ったってこと?」
「………まあ、うん」


答えた瞬間、今度こそ仮面を壊す勢いで床に叩きつけ、無惨にも歪んだそれをシンクは足で踏みつけた。
マジでローレライぶっ殺す!!と怒りのあまり肩で息をしているシンクに、これは話を逸らさなければとルークは「あのさ、ところで…ここどこ?」とそんな質問を試してみる。
若干八つ当たりしたせいか怒りを発散出来たらしいシンクは、少しだけ息を整えてから、答えた。


「コーラル城だよ」
「コーラル城?」
「そう。あのオカメインコがアリエッタにあんたをここに連れて来るようカイツールの軍港襲撃して人質取ってでもやれって言って来たからね。事前に阻止したんだよ、フーブラス川に変更して。これ以上キムラスカに損害出せるもんか!」
「あー…確かに。でも、なんでこんなところに呼び寄せたかったんだ?」
「同調フォンスロットを開きたかったんだと思う。わざわざこいつまで使ってね」


こいつ?とシンクの言葉に首を傾げつつも、ルークは促されるままよくわからない機械のすぐ横を覗き込んで見て、うっかり固まってしまった。
見たことのない人間だ。
眼鏡を掛けていて、派手な服を着ていて…その体が若干壁にめり込んでいて、顔面に明らかにシンクがやっただろう足の後がくっきりと残っている姿を見てしまえば、呆然と固まることしか出来やしない。


「……大丈夫なのか?こいつ」
「平気だよ。ゴキブリ並の生命力だし」
「……つーか、誰?」
「六神将の死神ディスト。一応頭だけは良いからね。勝手に解析されないよう、アリエッタはオカメインコに従ったフリを、僕がその阻止をしたってわけ」


うんざりと言った様子で話すシンクに困ったように笑いつつ、ルークはゆっくりと立ち上がり、目の前の巨大な機械に歩み寄った。
自分がもし本当にレプリカであったのなら、同調フォンスロットは開けただろうけど、そうでないから…レプリカだと思い込んでいる側からすれば、些か妙な結果が残ってしまう。
そんなことを考えながら、ルークはそっと手を伸ばしてその機械に触れた。
冷たい。


「なら、これはフォミクリーの機械ってことか?」
「そうだよ。髭が一時期いじくってたのも、ここさ」
「そっか」


それならば、本当だったら、ここは。



「レプリカルークが、生まれる筈だった所、なんだ…」



それは、叶わなかった話、だけれど。




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