「それは…和平にはご協力頂けないと?」
「うっせぇな…そのまんまだっつーの」
「では失礼ながら、ルーク様は戦争をお望みだと」
「んなわけあるか」


和平の橋渡しを断っておきながら、かと言って戦争を望むのかと言う問いには、背を向けたままだけれどきっぱりと否定したルークの姿に、顔を合わせなくて済んでいるからこそ、ジェイドもうっかり目を丸くしてしまった。
不安げにルークの背を見つめているイオンのその後ろに立っているからこそジェイドの表情など二人には見えないのだが、もし部下がその顔を見ていた場合、驚きを通り越して顔を青くするだろう。
怪訝そうに顔をしかめることも、何かに驚くことも、露骨に顔をしかめたりしないのだが、ジェイド・カーティスと言う男だったのだ。
動揺を気付かれないように、ジェイドは一度だけずれてもいない眼鏡の位置を正す。
ルークは背を向けたままだった。その背に手を伸ばしかけて、辛そうに顔をしかめてから、イオンがその手を戻していた。


「理由を聞かせて頂いても、よろしいですか?」


驚いている癖に声色には微塵も出さず、先程までと同じような口調でジェイドはそう聞いた。
ルークは振り向かない。
振り向かないまま、背を向けたまま、答える。


「保証出来ないから。マルクトに保護してもらって、和平への橋渡しをしたくても、俺じゃ下手すると城までも案内出来ないかもな」
「……何故、そう思うのかお聞きしても?」
「陛下と会ったことがないからだな。ここ数年、顔を合わせたこともない。俺に力なんてないんだよ。だから、協力なんて出来ない。出来ないことをやれるって言う方が、迷惑だろ?」


あっさりとそう言い放ったルークに、何か考え込むようにジェイドは押し黙り、イオンは悲痛に顔を歪めながらそれでも今度こそ、その背に手を伸ばし、力無く項垂れた。
キムラスカの内情は、知っている。
それこそ屋敷に閉じ込められ、軟禁状態であったルークよりも、インゴベルト王やモースの動きを知っている分、イオンの方が情勢を把握出来る立場にあった。
和平の使者としての同行をマルクトから正式に受けた際に、この年にキムラスカが和平を結ぶ筈などないともわかっていた。
それでも、賭けたかった。

和平を結ぶことを成し遂げることで、預言から少しずつでも、離れることが出来るように、と。


(ああ、それは僕の我が侭でしかないと、知ってた筈なのに。)


ルークがインゴベルト王と顔を合わせることはない。
最初から、彼の国の王は彼を『聖なる焔の光』としてしか、見ていないのだから。


「ですが、ルーク…、」


少しの沈黙の後、それでもイオンは頼もうと口を開いたその、瞬間。


「「「―――ッ!!?」」」


突如、轟音が響いたかと思えばタルタロス自体が酷く揺さぶられたようで、その場に立っていることも儘ならない異変に艦内の灯りが一瞬消えていた。
すぐに灯ったのは予備装置が働いたか何かはルークもイオンもわからないことだが、そんなことは気にも止めず、ジェイドは直ぐ様行動に移る。


「艦橋!何事だ!!」
『ま、魔物の群れによる襲撃!30近くの、おそらくグリフィンとライガと思われます!!』


報告を聞いた瞬間、眉間に険しく皺を寄せたジェイドに、イオンが小さく名を呼んだが、続く言葉をグッと飲み込んだ。
何があったんですか?と言う疑問を口にすることは、この場合あんまりにも正しくはない。
流石に不貞寝している場合ではないとベッド上に起き上がったルークの手を握り、イオンは指示を出すジェイドの背を見つめることしか出来なかった。が、


『師団長!グリフィンの背に、神託の盾騎士団の兵士を視認!!この襲撃は、神託の盾騎士団によるものかと…!!』


必死に叫んで報告して来たマルクトの兵士の言葉に、イオンはいっそ卒倒してしまいたいと半ば本気で思った。
血の気が一気に失せたイオンに、気遣うようにルークが体を支えてくれるが、イオンとしてはもう頭が痛くて痛くて仕方がない。

導師の職、もう辞めたいです…シオン。


自身の被験者のことを思い浮かべながら現実逃避しかかっているイオンを横目に、ジェイドは的確な指示を出しながらも気にかけているようだったが、今何を言っても届きそうにはなかった。
側に居るルークが何を言っても、聞いてもらえないだろう。
現実逃避をしながら窓の外を眺めるイオンの瞳に、グリフィンとライガと…紛い物でもなく歴とした神託の盾騎士団の兵士の姿が見えて、泣きたくなった。
30…いや、今はもっと居るだろう魔物の数に、何者かの襲撃だとは簡単に浮かんだけれど…こんなの、聞いてませんから。本当に。



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