目を覚ましたばかりであまり良くはない顔色から、さあっとまた血の気が引いた瞬間だった。
驚き目を見張る、よりは凄まじく何だか般若の面でも背後に見えるんじゃないかと言うぐらい嫌な雰囲気を背負ってる癖に、にこやかに笑んでいるイオンにルークはもうどうしたら良いかわからない。
……最近シオンに感化されつつあるのは、気のせいなんかじゃないようだ。


「一応彼女にも確認は取ったのですよ?公爵家に襲撃したのは事実かどうか。彼女はヴァンを討たんと侵入したようですが…事実は事実ですから、ね。ジェイドに頼んだんです」
「……あいつ、どうなんの?」
「それは…ちょっと僕にはわからないですね。一応話はしたのでわかってくれると助かるのですが…ジェイドに任せましたので」
「……マジで?」
「はい。ジェイドに、任せました」


にこやかに告げるその言葉に、ルークは本気で今もう一度失神してしまいたかった。
えげつないの一言に尽きる、とかそんなことを言っている場合でもなければ、ローレライ教団の導師がその一兵卒を他国の軍人に任せた、と言い切った言葉の意味を察することが出来ないほど、そこまで馬鹿ではない(……合掌)。
これはつまり、あれだ。
導師であるイオンは、教団は、ティアを見捨てたのとほぼイコールと言うことだった。


「本当はいろいろと手続きを踏んで早々にダアトへ送還後、キムラスカへ突き出すのが道理なんでしょうけど…ここはマルクトですから。僕たちの用の為にも、マルクトが捕縛して、キムラスカへ突き出すと言う図式の方が好ましかったんです」
「用って?一体何を…」
「それはですね、」
「我がマルクト帝国から、キムラスカ・ランバルディア王国へ和平を結ばせて頂きたいのですよ」


説明し掛けたイオンの言葉を途中で切って、聞こえた全く別の声にルークは視線だけを声の主の方へ…この部屋の入り口へと向けた。
見えたのは気を失う前、結局ライガクイーンの森を戻す為に付き合わせてしまった眼鏡を掛けた軍人―――ジェイド・カーティス大佐の姿で、一体いつ入って来たんだろうか、とルークは内心首を傾げる。
「ジェイド」と呟くように言ったイオンに、「イオン様、和平のことを不用意に口になさるのは感心しませんね」と嫌味ったらしく言うのだから、ついつい申し訳無さそうに顔を伏せるイオンの手を、ギュッと握り返してしまった(彼は手を、離そうとはしない、から)。


「無事にお目覚めされたようで何よりです。では、早速で申し訳ありませんが、貴方のお名前を教えてくれませんか?イオン様よりお聞きしましたが、確認がしたいので」


胡散臭い笑みを浮かべて言うジェイドに、思わずルークは嫌そうに顔をしかめてしまったのだが、ここで黙ると言う選択肢があまり望ましくないとはわかるので、渋々答えることにする。


「ルーク。ルーク・フォン・ファブレ。…これで良いのか」
「はい、結構です。では申し訳ありませんがルーク様。どうか私共に協力して頂けないでしょうか?」
「…協力?さっき言ってた和平がどうのってやつか?」


言いながら、流石にこのまま仰向けに寝転がった姿勢ではまずいだろうとルークは起き上がろうとしたのだが、不安そうな顔をしたイオンと、胡散臭い笑みを浮かべたジェイドにやんわりと戻らされていた。
二人から言われては流石に「いや、大丈夫だから」などと言える筈もなく、渋々横たわったまま、少し考える。

和平の話が出た。
そして協力して欲しいと言われたんだと頭は認識こそするが、どうにも理解するには、戸惑いを隠せやしない(だって、イオンは知ってる筈なのに)(キムラスカが、どう出るかなんて)。


「私共はピオニー陛下の命を受けケセドニアを経由しバチカルへ向かいたいのですが、イオン様やケセドニアのアスター氏に協力して頂いても今までの両国の関係からインゴベルト国王陛下への謁見がすんなり通るかは怪しいのですよ」
「…それで?」
「…3日前、バチカル方面で強い第七音素反応が起こり、タタル渓谷に収束しました。おそらく疑似超振動が起こったものと考え警戒していたのですが…事情は全てイオン様からお聞きしました。それを踏まえて、私共マルクトがキムラスカの王位継承者であるルーク様を保護し送り届ける、と言う事実と、貴方のお口添えが欲しい」
「…何を」
「インゴベルト国王陛下への謁見が叶うよう、ご協力下さいませんかね?」


さらっと、わざとらしく軽く言い放ったジェイドの言葉に、ルークは思わず目を見張って、そして少しだけ哀しそうに顔をしかめた後、すぐにジェイドから顔を背けてしまった。
手を掴んでいたイオンに離してもらい、体勢すらも変えて背を向ける。
不貞寝、と言うのがぴったりだった。
顔を合わせようともしない。
そして、



「断る」


きっぱりと言い放ったその言葉に、イオンが辛そうに顔をしかめるだろうとはわかっていたけど、他に返せる言葉など持ってなかった。





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