言い出すだろうなとは、思っていた。
そして言い出したら、聞こうともしないことも。


(たとえその身を、その命を、削ることになろうとも。)





『方法は、ある。だがそれは…リアン、そなたの力を使わなければならない。…どうしても、負担が掛かる』


苦々しく、どこか辛そうに告げるレイラの言葉に、けれどルークはどこか嬉しそうに穏やかに笑んでいた。
位置の関係上、ティアにはその表情は見えないがライガクイーンの瞳にははっきりと映り、柔らかいルークの雰囲気にライガクイーンもまた、武器を手にする人間が居ると言うのに、穏やかなものへと変わる。
なかなか会えなくなってしまったと、愛しい娘が涙目ながらも話していたのを聞いていたから、ここにこの子どもが居ることは疑問でしかなかったが、1年程前に見た笑みと何ら変わらぬルークの表情にライガクイーンは密かに安堵していた(第三者さえ居なければ、ああ、その体に寄り添ってやりたかったのに)。


(別にいいよ。とにかく出来るならライガクイーンの森を元に戻したいんだ。どうしたらいい?)
『……ひとまず、ライガクイーンの居た森へ行こう。全てはそこからだ』
(わかった)


誰にも気付かれぬ内に密かにレイラと相談し、一先ず結論を出したルークはとりあえずイオンに近寄って、小さな声で耳打ちをした。
その内容にイオンは一度驚いたように目を見張って少し迷ったようだったが、結局は了承してミュウを介してライガクイーンへ伝える。
わけがわからぬ、と言った様子で一人ティアだけが困惑していたが、あえて無視を決め込んでルークは近寄って来た一匹のライガの背に乗った。
途端、非難めいた声が上がったが、それに構ってはいられないと進もうとした、その瞬間。


「おや?こんなところに居ましたか、イオン様」
「ジェイド…」


突然現れたマルクトの軍人の姿に、ライガクイーンが僅かに警戒を強めたのを咄嗟にルークは小さな声で「ここは抑えてくれ」とミュウに訳させた。
敵意を剥き出しにするのは容易いが、目の前の眼鏡を掛けた男は軍人であり、そうとなればライガクイーンを駆逐する為に動こうとするだろう。
それはルークとイオンにとって好ましくない展開であり、攻撃する素振りを見せないライガクイーンを庇うように、イオンが一歩、前へ出た。
ジェイドと呼ばれた軍人が、周りの状況を把握するべく、眼鏡を押さえて何か考えているようだが、どことなく胡散臭いと感じのは、果たして気のせいかどうか。


「これは軽率な真似をなさいましたね、イオン様。守護役を置いてこのような場所へ足を運ぶのは、危険な行為だと貴方ならわかる筈です」
「すみません、ジェイド…友人であるライガクイーンの身に危険が及ぶと思い、どうしても僕は彼女に会わなくてはならなかったのです」
「友人、ですか…?」
「はい」


にこやかに微笑んで告げたイオンの言葉に、あくまで平静を装っているが、どこかジェイドも流石に困惑しているようだった。そりゃあ普通ローレライ教団の導師が魔物のライガクイーンと友人と聞いたら驚くよなぁ、と思考回路はそんな風に働くところだが、奇しくもイオンと同じようにライガクイーンと友人なルークはその感覚が見事に欠如しており、早く話終わらないかなぁ、とそんなことしか、思えやしない。
ライガの背に乗せてもらい、とりあえず通訳係で連れて行くかと腕に抱えたミュウの耳を引っ張って遊んでいたルークだったが、不意にジェイドが視線をイオンから移して来たから、きょとんと目を丸くした。
ライガに乗っている時点で端から見れば異様な光景なのだが、あの桃色の髪をした少女をよく知っているからこそ、ルークは何の違和感も覚えれない。


「失礼ですが貴方は、そのライガと共にどちらへ向かうつもりなのですか?」


イオンに対して話していた時と同じ声色でそう聞いた軍人に、ルークは不思議そうに首を傾げつつ、ただ答える。


「? ライガクイーンが元々居た森だけど」
「その森は焼けてしまったと聞きましたが」
「でもライガクイーン達は他に行く場所がないんだ。だから、森を元に戻す為に行くつもりだけど」
「……今、なんと?」
「だから、森を元に戻す為に行くんだっつーの」


さらっと普通に言ってしまったルークのその言葉に、レイラは思わず溜め息を吐き、イオンは困ったように微笑んだ。


聞き間違いではない、その言葉。


いや、無理でしょう。
なんて言葉がジェイドの頭に浮かんだが、目に映るその朱色と碧眼に、口に出せる筈もなかった。





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