「俺が死んだら、お前は泣いてくれる?」


その言葉は、相手が第七音素の塊だろうと緑色の少年だろうと、誰彼構わず朱色は聞いた。
手を伸ばす。
その先に在るのは色鮮やかな紅と黄色と朱色とで、舞う葉を撫でるように掬って遊ぶ。
季節の中で朱色が聞いた問いに一人は『当たり前でしょ』と答え、一人は『嫌だ』と答え、もう一人は『馬鹿ですか』とそう答えた。
朱色は笑う。
笑う朱色に、彼が答えた。


『そうなる前に、そなたの為に、世界を滅ぼそう』


本心だった。
その言葉に「うわ、重っ!」と声が上がったが、それに何かを返すよりも早く、哀しそうに朱色が目を伏せて、そうして「ダメだよ」とそう言った。
『なぜ』と問う。
返って来る答えは、ずっとわかりきっていたことだけど。


(ああ、彼はどうしても、誰かを憎むと言う感情を、抱けていないのだ。)














目が覚めたら、全く知らない天井でした。


「………ぁ?」


思わず漏れてしまったそんな間の抜けた声に、だんだんと意識が覚醒してしまえば何だか少し恥ずかしくも思えたが、ルークはとりあえず数回目蓋を擦って上体を起き上がらせた。
きょろり、回りを見てはみるが、何度見たって知らない光景は知らない光景で、窓の外に広がるのどかな村の様子に首を傾げるも、何のことかさっぱりわからない。
ただ、起きたばかりだと言うのに頭はすっきりしており、頭痛や倦怠感はどこにもないようだった。
珍しいな、とつい思う。
いつも目覚めたばかりは最悪だったから、この感覚は久しぶりだった。


「目が覚めたのね、ルーク。調子はどう?」
「……ティア?」


ベッドに座ったままでいれば、手に食事を持って来たらしいティアがそう聞いて来たから、ルークは何のことだかわからないまま、とりあえず名を呼んだ。
きょとんと目を丸くして近付いて来るその姿を見ていれば、ティアは「あなた、本当に大丈夫?」と聞いて来るが、大丈夫も何も状況が全く理解出来ていないのだから仕方あるまい。
「食べれる?」と聞いてティアが差し出して来たのはお粥だった。
扱いが完全に病人でちょっと嫌だったが、ここで正直に「腹なんか減ってない」と答えたら即座に医者を呼ばれそうなので、ルークは渋々頭を縦に振るしかない。


「…ここは?」


少しずつ少しずつ粥を口に運びながらも聞けば、ベッドの近くに寄せられていた椅子に座って、ティアは答えた。


「エンゲーブと言う村よ。あのあと気を失ったあなたを、偶然近くに居た御者さんがここへ運んでくれたの。村の代表のローズさんがそれから村の人に指示を出してあなたをここへ寝かせてくれたんだけど…ごめんなさい。急いでいたから行き先を碌に確かめていなくて…ここはマルクト領なのよ」
「そっか…いや、別にここがマルクト領だとかっつーのは俺があんなとこで倒れたせいでもあるし、気にすんな」
「ルーク…」
「それよりこっからキムラスカに帰るにはどうしたらいいのかわかるか?」


そう聞けば、何があったのかティアが気まずそうに目を逸らしたから、ルークは一度粥を食べる手を止めて、おや?と首を傾げた。
そうしてふと、そういえばローレライが何も言って来ないな、と暢気に考えていれば、少しの沈黙の後に、ティアがやっと答える。


「実は、キムラスカに向かう為の橋が壊されてしまって、最短距離で帰ることは叶わなくなってしまったの」


思わず粥を吹き出してしまいそうになったのは、俺のせいだけじゃない筈だ。多分。



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