「待って下さい…!兄弟って、僕はレプリカですし、イオンはあなたの名前でしょう?それにどうして被験者であるあなたが、このようなことをしてるんですか!?」


なんだかいろいろ抜けた気もするが、大体はごもっともなことを叫んだ少年に、シオンはにっこり笑ってみせた。
ルークにその表情を見せない辺り計算してのことだろうが、なんでか腹黒いことを考えていないにしても、シオンの笑顔と言うのは恐怖しか与えないな、とシンクは失礼なことを考えてるが口にはしない。


「どれから説明すればいいかわからないんですがね…とりあえず大まかに言うと、僕は病で死ぬところを、シンクとフローリアンはザレッホ火山で殺されるところをルークに救われたんです」
「彼、に…?」
「ええ。まあその辺のことは端折りますが、本来の導師イオンと彼らの行く末は知ってるでしょう?」
「!」
「まあ、そこは君が気に病むところではないけどね。いろいろあって、いま一人で『導師イオン』の立場に立たされてる君に、みんなで会いに来たってわけ」


さらっと言ったその事実はあっさりと受け入れるには難しく、少年が困惑しているのは誰の目にも明らかだった。
だからこそ落ち着かせるように、シオンは身構える少年の手を優しく取る。
少年は震えていた。
理解出来ない、と名も知らない感情に、怯えてもいるようだった。


「辛かったね。ごめん。僕はもう表舞台から抹消された人間だから、君をそこから逃がすことは出来ないんだ」
「……わかって、ます。僕は、あなたの代わり…レプリカ、ですから」
「おーっと、それ以上言うとルークが怒るからストップ。本の角で殴られたくはないでしょう?シンクは枕だったけど、ここでなら間違いなく当たると泣くレベルの物しかありませんし」


言っている意味がわからなかったから少年は首を傾げたのだが、ふとルークと呼ばれた少年が睨み付けているのがわかったからサッと血の気が引いた。
後ろの本棚には、分厚い鈍器でしかない教典があるから、あんな物で殴られては絶対立ち直れない気がしてならない(頭蓋骨陥没ぐらい軽くなりそうな気がする)。


「良いですか、あなたがいくらレプリカとして生を受けたとしても、レプリカだって人であり誰かの代わりなどではありません。代わりになどなれる筈がない。シンクはシンク、フローリアンはフローリアン。一つの個です。出来るなら君を連れてみんなで暮らしたいのですが、今はまだ、僕らの力でそれは出来ない…せいぜい君の側に、シンクが居られるよう仕向けるだけです」


ギュッと手を掴んで言う目の前の被験者の言葉に、少年は何も返せなかった。
どさくさに紛れて何だか突拍子のないことを言い出した気もするが、言うべき言葉は見つからなかったし、言葉を、その意味を、受け止めるのにどうしても、戸惑ってしまう。


「これから来るべき日が訪れるまで、君には辛い思いをさせてしまうでしょう。でも必ず、迎えに来ます。それまでのどうか支えとなってくれるよう、僕は君に、大切な僕らの兄弟である君に、導師イオンではなくただの『イオン』として、この名を君だけの名として、あげたい」
「―――…っ!」
「君は『導師イオン』なんて居なくなった人間の代わりなんかじゃない。そりゃあどこぞの豚とか豚とか髭とか豚のようなレプリカは道具だ代わりだとか言うぶっちゃけてめぇら何様のつもりだボケ、とか思う奴も居ますがね、ルークのような人も居る。間違えなかったでしょう?一緒になんか見なかったでしょう?だって、僕らとイオンは、別人ですから」


言われて、朱色の髪をした少年を見れば、彼は被験者の言葉を肯定するようにただただジッと見据えていた。
確かに、彼はレプリカイオンを同一と捉えなかった。
いや、彼だけに限った話じゃない。
シンクもフローリアンも、レプリカイオンとして生まれた彼らも、オリジナルも、そこに垣根なんかなかった。


「改めて、自己紹介しましょうか。僕の名はシオン。君の名は?」


聞いた被験者に、シオンに、少年は気が付いたら涙を溢していた。
止まらないまま、次第に泣きじゃくってしまいながらも、答える。
僕だけの、名前。


「僕は、僕の名前は…っ、イオン、です」


泣きながらも必死になってそう言った。
よろしくと掛けてくれた声は一つなんかじゃなくて、嬉しくて、涙なんかちっとも止まってくれそうになかった。


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