「−−−で、なにがどうしてなんでこうなったらこんな目に合うのか、簡潔に説明してくれるんですよね?シンク」
「般若の面が基本装備の人間に答えれる程、僕は命知らずじゃないんだけど」



あっさりと返せばそれ以上の殺気を振り撒いて絶賛最高に不機嫌中なシオンに、シンクは思わずかなり距離を開けアリエッタが今にも泣き出しそうに顔を歪めていた、何とも言えないアルビオール内の空気だった。
コクピットで吹き荒ぶブリザードにパイロットであるギンジは苦く笑うしかないのだが、ノエルを通じてよく顔を合わせることもあってか、怯えるような様子もないのでこれにはシンクも思わず感心していたりもする。
凄まじく機嫌の悪いシオンに対し、アリエッタは困ったように眉を寄せているだけであるし、これはダアトに着く前に殺されるんじゃなかろうか、とシンクはまだ少し遠い兄弟の居るだろう街を思い浮かべて、死んだ魚のような目をしているぐらいしか出来なかった。
嫌な役回りでしかないと分かってはいるものの、ちょっと理不尽過ぎやしないか、と思わずにはいられなかったりもして。



「仕方ないだろ、シオン。リグレットがバカな真似をして被害が出てるんだ。あんただってイオンのことが心配なんだから、どうせジッとしてることなんて出来ない癖に」
「失礼ですね、シンク。僕だってジッとしていることぐらい出来ますよ。とりあえず障気に関しては代わりに働いてくれる手足が居ましたので、僕が動く必要はありませんし」



まあ優秀かそうでないかはあえて言いませんが、と。
容赦なく続けてそう言ったシオンの言葉に、シンクは知らせを受けたその直後に問答無用でザレッホ火山のパッセージリングを調べて来いと追い出された面々を思い出して、ついつい苦々しく顔をしかめてしまった。
あれは酷かったな、と思い出されるのは「俺はルークの親友兼専属使用人だ!ルークの側に俺は残る!!」と言い張ってベッドの脚にしがみついてでも離れようとしなかったガイとシオンのやり取りで、「また玄関が吹き飛んじゃうの?」と無邪気に聞いたフローリアンの言葉とセットで、暫く夢に見そうだと思う。
突如世界を覆った障気についてどこかしらのパッセージリングを調べるのは確かに1つの手段として取らなければならないことだったが、だからといってダアトのザレッホ火山のパッセージリングを調べるとなると行き帰りの期間その他諸々を考えて4日か5日は掛かるだろうし、とにもかくにも「その間、俺がルークの力になれないじゃないか!」と主張するガイは誰の目から見てもちょっと気持ち悪かった。「黙りなさい親友兼専属奴隷が」と間髪入れずに音叉でぶっ飛ばしたシオンは間違いなく鬼だった。



「……言っても無駄だと思うけど、一応言っとくよ。あんたが何を思おうが勝手だけど、喧嘩も程ほどにしてよね」
「それは『どうかこの私めの顔を元の形が分からぬ程にまで殴って下さいませ…!』と言う懇願ですか?シンク」
「顔どころか脳みそまで潰されるような拷問を受けたいとはネジが抜けても僕は思わないし一回大爆発して発言するの頼むからやめてくれない?」



ごもっともなシンクの言葉にもお構いなしにシオンはにっこりと笑んだままだったのだから、正直に言ってかなり質の悪い話ではあった。
澱む障気の空を飛ぶアルビオールの、その機内の空気の方が窒息死する寸前だと思うのはシンクの気のせいではないだろうし、そうしてこのシオンの機嫌の悪さの理由を知っているからこそ、何だかもう溜め息を吐くしかなくなる。
ルカに一方的に怒鳴り散らした手前、シオンは気まずさも多少あるせいで屋敷から離れたいと思ったのだ。
喧嘩と言うよりは、単に顔を合わせ難かったのだろう。
アスラン・フリングスは軍部に引き渡すよりもサフィールとシュウ医師の居るシオン達が暮らしている屋敷の方がいいだろうと皇帝からの頼みもあってルークと同室で処置中であるし、居辛かった、と言うのが素直な気持ちだとはシンクにだって分かっていた。

イオンのことが心配だから、僕もちょっと行ってきます、と。

言い出したその言葉に、本当に心配してと言う部分もあっただろうが、ルカと少し距離を置いてシオン自身、頭を冷やしたかったこともあるに違いない。
そしてきっとルークとも顔を合わせ辛かったのだ。
シオンの気持ちに気付けない程、ルークは鈍いわけではない。
アスラン・フリングスを治したことで誰がどう思うか知っている筈なのだ。
だから、出掛ける前にほんの少し顔を出したシオンに、「行ってらっしゃい」とあんなに綺麗に、微笑むことが出来たのだろう。

微笑みかけられたこちらの醜さが嫌でも分かるほど、澄んだ瞳で綺麗に笑う瞬間が、最近のルークは多いようにシンクも感じていた。
だから、シオンも同じなのだろう。
どれだけ幻想を抱いているんだと笑ってしまいたくなるぐらい、いっそ笑えたらと懇願してしまいたくなるぐらい、そこに居る筈なのにどこかルークは遠かった。

その笑みに、シオンは勝手に掻き乱されている。
ルカのことも加わったのならばそりゃあグランコクマに居れるわけがないだろう。
シオンらしくなく、逃げてしまった。

あんたの気持ちが手に取るように分かるよ、とシンクはそんなことも思っていたりするのだが、そこまで口に出す真似は、しなかった。したいとも思えなかった。
余計なことだと分かっているし、結局ルークだけでなくルカも、あの場所で暮らしている家族を大切に思っているシオンなのだから。
下手に口を出したら拗れるだけだ。
だから早いとこきちんと話をしなよ、兄弟。
なんて、思っていたり、して。




「皆さん、そろそろ着陸です。揺れるかもしれないので、きちんと座ってて下さいッスよ」



ギンジのその言葉に、ようやくダアトに着いたかとシンクは呑気に思いながら港を見たのだが、着陸してすぐ、妙な雰囲気に気が付いて視線だけをシオンへと向けた。
ギンジとアリエッタは分かっていないようだが、アリエッタのお友達であるライガは気が付いているようで、毛を逆立てれば流石にアリエッタも気が付き、緊張が走る。
げんなりと溜め息を吐きたいのか頭を押さえればいいのかもう自分でも分かりやしないのだが、それでもシンクに目配せをしたシオンは、ギンジにハッチを開けるよう頼み、アリエッタと共にあえて、港へと足を踏み入れた。
ずらりと周りを囲む赤色にツッコミを入れたいところは多々とあるが、とりあえず。

さて、なぜダアトの港に、こうもキムラスカの兵士が勢揃いなものなのか。




「お待ちしておりました。どうか我々と共にお越し下さい、導師イオン様」




久しく聞いていないその呼び名は、今更『シオン』に向けられても不愉快でしかなかった。
人の神経を逆撫でするのが得意ですよね、流石キムラスカは。





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