なんとなく思ったので、ふとした疑問を、口にしてみました。





「それにしてもユリアの血に反応するよう、パッセージリングを組み立てたと言うのに、なぜユリアは預言に崩落の詠まれたホドに居を構えたんですかね?」



呑気に会話をするには、今頃アブソーブゲートで死闘を繰り広げているだろう面々に申し訳なくなるような、そんな頃。
どうせアッシュ1人じゃヴァンを相手した後には無理だろう、とある意味かなり失礼なことを面と向かって言ってやった後にシオン達はラジエイトゲートに訪れていた。
「さっさとアブソーブゲート起動してくれないかなー」と思うと同時に、「さっさとてめぇの力でどうにかしろよボケ」とシオンなんかはレイラを足蹴にしてもいるのだが、止める人間がライガに凭れて夢の世界に旅立っている時点で、まあ救いはとりあえずどこにもないだろう。

アッシュと同質の超振動が必要ならば別にお前でも構わないでしょう、出来ないとは言わせませんよレ・イ・ラ。

と、語尾にハートまで付けて言ったシオンの言葉に、まさかレイラが反論出来るわけもなければ、ルークに負担を掛けたくなかったので別にこれで良かったと思うことにする。
脅されてそれに屈したような形になって、それでいいのかローレライ、とシンクが遠い目をしながら思っていたが、あんまりツッコむと本気でへこむのでそれ以上は言わなかった。


アブソーブゲートが起動される瞬間を、待っている。



ルークは眠っていた。
その両脇にアリエッタとフローリアンも眠っていて、呆れたように見ているルカも3人を起こそうとは、しない。




「……今この場で口にするにはなかなか不吉な疑問だけど、いきなりどうしたのさ、シオン」
「いえ、何となく暇潰しに考えていたらふとそんなことを思い付きまして。数千年前の人間の思考回路など知ったことじゃありませんが、もしユリアがホドの崩落を自分で詠んでいた癖に自らホドに住んでいたのなら、その子孫があそこまでバカなのも納得出来る気がしません?」
「なんで?」
「ユリアの血筋が途絶えたのなら、一体誰がユリア式封咒を解くんですか」
「あ、」



そう言えばそうじゃーん、と。呑気に感心すらしながらルカがライガの背中を撫でシンクが何やら悩み始めたのを横目に、シオンはパッセージリングの前に佇むレイラに「で、本当のところはどうなんです?おバカさん犬?」と小首を傾げて聞いた。
全く可愛らしくともなんともないその姿にレイラは顔を引き攣らせたのだが、真っ黒な毛並みの犬の姿では表情など分かる筈がないのでおバカさん犬は正しいな、とルカとシンクは思いつつも言ったらあんまりにもレイラが哀れなので、お口にチャックをした。
犬に顔色云々も、表情を伺うことも不可能な話だろう。
と言うよりそもそもな話、仮にも一時は教団の導師を勤めていた人間が、とんでもなく聖女を貶していることにもうちょっと何かしら反応があった方が…すみません我が儘でした。



『……罪人だったからな。我と契約を結んだ、ユリア・ジュエと言う人の子は』
「ああ、子孫からして突拍子のないことを考えますからね。誰を殺そうとしてどのレベルの他人様の家に押し入って譜歌を歌ったんですか?」



根に持っているからこその容赦ないシオンの言葉に、これにはシンクの方が顔を引き攣らせて固まってしまった。
あり得ぬぇー、とぼやいたルカに今年あった本当の話なんですよ、と笑うシオンは目だけがちっとも笑っていない。
話がズレてるってば。



「ユリア・ジュエって聖女様だったんだろ?なのに契約したお前が罪人だって、そんなこと言って良かったのか?」



全く意味が分からん、とばかりに怪訝そうに眉を寄せて聞いたルカに、アブソーブゲートが起動されたらしく、ラジエイトゲートの起動を行いながらレイラは言った。



『ユリアは確かにある一方から見れば聖女であったが、もう一方から見れば紛うことなき罪人であった。障気の蔓延したオールドラントを救う為人は言え、彼女は決して行ってはならぬ大罪を犯してしまったのだ』
「ちなみにどのレベルまでの不敬罪を?」
「話が進まないんだけど、シオン」



耐えきれずにそう言えば、「冗談ですよ」と全くそうとは思えない雰囲気でシオンがそう言ったが、どうにかスルースキルを発動してシンクもルカも聞かなかったことにした。
パッセージリングに掛かったプロテクトを解除する為に、アブソーブゲートでのアッシュの超振動が、赤い軌跡を削る。
厳密に言えばレイラ自身は超振動の力を使用することは不可能なので、アッシュの力を増幅させるだけらしかったが、その辺の説明は右から入れて左へ出したのでシンクもルカもどうでも良さそうに眺めるばかりだった。ルークに負担が掛からず、無事に終わればそれで良かったので。



『譜術戦争のことは、知っているか?』
「ああ、確かサザンクロス博士が発見した第七音素を巡って預言による未来視派と否定派の対決とか何とかって話でしたっけ?ユリアが収束させたとか何とか言う…」
『大体の認識は、それであっている。かつてのオールドラントはそのような世界であり、ユリアがその惨劇を終わらせたのも、また事実。しかしやむを得なかったとは言え、ユリアは方法を誤ってしまったのだ。かつて世界全体の認識としてあった禁忌…惑星預言を、詠んでしまったのだから』



何かしらの作業をしているのか、どことなく体中から淡い光を放っているようにも見えるレイラの言った言葉に、これには3人揃って「はぁ?」とそんな間の抜けた声を出してしまっていた。
頭大丈夫か?こいつ。
とあからさまな態度を隠しもしないシオンとルカに、しかし似たような心境でもあるシンクは止めることもしようと思えなくて、思わず呆れながらその背を見つめていたのだが、続く言葉には流石に何も言えなかった。



『生きとし生けるものは必ず最後には死を迎える。それはこの地に生けるものだけではなく、星そのものとて変わりはしない。惑星そのものの預言を詠めば今後の導や、もしかしたら解決策があるのでは、と言うのは確かにあったが、誰もそれを求めてはならないとされていた禁忌だったのだ。もし詠んで、一年後に星が滅ぶとあればどうする?一体いつ星が誕生したか分かっていなかったが、誕生して数年の星ではないのは誰でも分かる話だ。人と言う個にいくら寿命があれど、星そのものが死に絶えるとあらば、人々にそれを回避する術はない。それでも足掻くものは居ただろうが、すぐに気付くだろう。星に永遠を望むことは、人が不死を望むことと同じくする無謀なことだと。預言は可能性を詠むものだ。しかし、その預言を抜きとして考えても、命あるものは生まれた以上、必ず老いて死ぬ。星も同義だ。誕生した以上、必ず死を迎える。それは抗うことの出来ぬ、何ものも犯すことの出来ぬ、全ての理なのだ。だからこそ人々は惑星預言を詠むことを、禁忌とした。もっとも、背に腹は変えられぬ状況故、ユリアが我と契約し、全てを詠んでしまったがな』



レイラの話を聞いて、正直な感想を述べるとするならば、3人揃って「へぇー、昔の人って頭良かったんだなぁー」とそんなことだった。
今の時代なんてどうするんだよ、とぼやいたらかつての人間が泣きたくなるぐらい『ユリアの遺した預言は第七譜石までです』『今はもう第六譜石まで終わりそうです』と指針があると言うのに、その先に終わりがあるとは思えない程の、頭の中が花畑さん状態である。
もっとも1から10まで賢い人間の集まりだったなら戦争なんてものは起きてなかったろうから、結局はピンからキリまで様々ではあったのだろうけど。



「と言うことはゴタゴタが終わった後にユリアが姿を消し、最終的にホドで亡くなった、と言うのはつまり…」
『早い話が流刑だな。もしあの時点で星が一年後に死ぬのであったなら、拷問などでは済まなかっただろう。百年後でせいぜい処刑か?人類の滅亡が、二千年も先であったから、ホドに流刑で済んだだけの話だからな』



とんでもない聖女に対しての暴言である。
しかし当時の様子を知っているのもレイラであったので、大変だったろうな、と思うぐらいしかルカは出来そうになかった。



「その時点での滅亡は防いだから、一応聖女って扱って流刑にしたわけ?案外適当なんだね、その措置は」
『二千年もの後の話は、当時の人間からすれば他人事だからな。身内と捉えるのもせいぜい孫、曾孫ぐらいまでだろう。その危機に瀕していない当時からすれば、二千年後の話をどう慌てろと?それよりも国々の争いをどうにかすることの方が、彼らにとっては重要であった』
「では流刑先をホドにした理由は?」
『惑星預言はそれに従って生きればそれこそ楽なものはないとされていたからな。後世の人間が腑抜けたのなら、二千年後にホドと共に消えてしまえ、と言うことだったらしい。預言に浸かりきって堕落した人類など、星の為に消えた方が良いと判断されたのだろう。パッセージリングのプロテクトの一部に組み込んだのも、人類が回避すべく足掻くと動いた時に、きちんと責任を取れとそういうことだ。ユリアが惑星預言を詠まねばその時点で滅んでいたのだから、その辺りは勝手なことを、と思わないこともないが』



まあご先祖の危惧通りの結果でギリギリになってこの状況ですけどね、とは流石にシオンでも思ったところで言えない話ではあった。
今更ながら知らなきゃ良かった話だよな、と思ったところで本当に今更で、発光現象の終わったレイラを前に、どうしたものかと頭が痛くなって仕方ない。
「終わったです、か?シオンさま…」と、寝ぼけ眼を擦って起きたアリエッタに癒やされるかとシオンはアリエッタへと振り返ったのだが、しかし未だ律儀にレイラを相手していた筈のルカとシンクが「は?」とそんな声を上げたから、「は?」と思いながらもう一度視線を戻すしかなかった。


振り返ってみて、しかしそしてすぐに後悔する。


なんでかレイラは振り返った先で服従のポーズとして、腹を見せてひっくり返っていた。
マジの犬の姿に、シオンの笑顔が引き攣る。
咄嗟にシンクの背後に逃げたルカの反応は正しく、「くぅ〜ん」と情けない声を出したレイラの言葉を訳したアリエッタは、血の気が引いていた。



「シ、シオン、さま…」
「アリエッタ?」



「ち、地核に置いてあったレイラの力、大譜歌に引き寄せられて…総長に取られちゃった、って…」




真っ青な顔をして訳したアリエッタの言葉に、眠っているフローリアンとルークを起こすにしては耳を劈く程の甲高い音叉が何かを叩きのめす音が響いたが、弁解の余地はない、そんな外郭大地降下直後の、話だった。




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