「もう!何なんだよシオンの奴!わけわかんねえっつーの!」


うがー!と喚きながらグランコクマの街を進んで行くルークの姿に、フローリアンは別に気にもしていないようだったが、ルカは内心普段のルークの姿とはかけ離れているようにも見えるその姿に驚きっぱなしだったりした。
子どもみたいに拗ねて口を尖らせている姿はどちらかと言えば普段はフローリアンや自分がやる姿だと自覚しているだけに、この姿は本当に珍しいと思う。
ルカの目にルークと言う人は、優しいお兄さんと言うのが一番近いものとして映っていた。
子どもっぽさがないとでも言うべきか。
多分、そう振る舞っていた、と言うのもあると思うのだけど。


「んー…でも、僕はシオンの気持ちの方が分かるなぁ…」
「…フローリアン」
「だって、ルークが治すってことはルークが疲れるってことなんでしょ?僕、ルークが傷付くの嫌だよ?……病気のままってのも、嫌だけど…」


ぼそぼそとどこか不満そうに言ったフローリアンの言葉に、シオンに対して怒っていたルークも一旦落ち着くことが出来たようで、それでもいつもみたいに困ったようにでも何でも、『微笑む』と言うことをしなかったのは、多分ルークにも譲れないところなんだと、それぐらいはルカでも分かる。
それを理解出来るかと言えば別ではあったが、ルカの思考はどちらかと言えばシオン寄りだったから、取り繕う為の口も開けれなかった。


「……シオンが、俺の為を思ってああ言ってくれてるのは、きちんと分かってるんだ」


ぽつりと呟くように言ったルークの言葉に、フローリアンもルカもとりあえず黙って聞くことにした。
青と白が基調となっているグランコクマの街並みの中で、朱色の髪はとても目立つ筈なのに、浮いているような自分とは違い、今にも溶けて消えてしまいそうに見えるから思わず縋りついてしまいそうになるのだけど、そんなみっともない真似は出来ないとその両の手を、ルカは無理やり堪えてみせる。


「でも、俺は俺の力で助けることが出来る人が居るのなら、その為の力を使うことに躊躇いたくなんかないんだ。助けれるのなら、助けたい。生きてることは、素敵だろ?」


そう言う時だけ穏やかに笑むその姿に、思わず怒鳴り散らしてでも言ってやりたいことは山ほどあったのだけど、不意にその体が傾いたのが見えたから、一瞬にして頭の中から吹き飛んだ。


「ルーク!」


ぐらりと傾いた体に伸べた手は、その左腕こそ掴めたものの、それは支えると言うよりは縋りついただけにしか過ぎなかったんだ。



「ルークさん!」


その叫び声が聞こえた時、目を見張ったのは何もルークだけの話ではなかったのだけど、聞き覚えのあるその声には、ルカは思わず掴んでいたルークの左腕を放してしまった。
正面から抱き留めるように支えた小柄な体が、支え切れずに一緒に倒れ込むと言う事態に繋がらないことは、きっと何の救いにもなりはしない。


「…ノエル?」


か細く漏れた言葉に、思わず泣き出したくなった気持ちを堪えて、寄り添い合う2人を見守ることぐらいしか、ルカには出来なかったのだ。













「…………物に当たり散らすのは別に止めやしないけどね、限度ってのがあるんじゃないの?シオン」
「当たり散らす対象を自分にされたくなかったら、黙っておいた方が良い時もあるんですよ、シンク」


淡々と話しながらも、一通り暴れ尽くしたせいかどこか息を切らせているシオンに、シンクは部屋の惨状についつい溜め息を吐いたのだけど、さっさと追い出されたアッシュ達がどうしているのか分からなくて、とりあえず無難な言葉を選んだつもりだったのだが、まああまり効果はなそうではあった。
何の気紛れか知らないが、ルークを迎えに行った使用人と共にアッシュまで着いて行ったのは放置するとして、部屋に残っているのがイオンだけでなく、死霊使いまでいることが、質が悪い。


「ルークは分かってない。僕らがどれだけ大切に思っているのか。どれだけ生きていて欲しいと思ってるのか、まるで分かってない!」


だからと言って部屋中、音叉で叩きのめして回るのは許されることじゃないんだけどね!と言いたいことはどうにか飲み込んで、シンクはイオンと一緒にシオンが破壊して行った箇所を順々に片付けていた。
傍観を決め込むつもりか知らないが、立ったままのジェイドに思うところは多々あれど、憎しみすらも込めてシオンが死霊使いを睨み付けたから、とりあえずお口にチャック。
ここで下手なことを言ったら、音叉で頭をかち割られるのはシンクの方だ。


「あなたの目に僕は滑稽だとでも映っているのですか、ジェイド・バルフォア博士」


苛立ちを隠さずに言ったシオンの言葉に、そこはやはりと言うべきか、ジェイドは全く動じることもなく、真っ直ぐに見つめ返していた。
怯む素振りはない。
気が付けばここには彼の半分も生きていない者ばかりだから、当然だったかもしれないなぁ、なんてシンクは思うが、外見と内面の乖離が激しい存在を生み出したのは、この男だからどうしようもない。


「滑稽とは映っていませんよ。私は長い間、人の死を理解出来ないような欠けた人間でしたので、唯一の存在にそこまで思えるあなたを尊敬こそすれど、貶すことは出来ません」
「四捨五入して四十の人間が言うにはなかなかに恥ずかしいことですね」
「それが事実ですので。私は、あなたを滑稽とは思えない。ですが、1つ言いたいことはあります」


胡散臭い笑みを浮かべたジェイドに、同じように胡散臭い笑みを浮かべることもなく、苦々しく顔をしかめただけのシオンに、シンクは可能ならば是非とも吐きたかった溜め息をどうにかグッと飲み込んだ。
容赦ないと言うべきか。
死霊使いが随分と人間臭くなったもんだと鼻で笑いたかったが、失敗しそうだったので、やめた。



「あなた達がルークを大切に思っているように、ルークにとってもあなた達が大切なんです。…どんな結果に繋がろうと、彼の性格ならあなたを絶対に助けるでしょうね、シオン」


自分の身を省みない彼だから、その行為が命を削ることになろうと厭わないのだと。

言われた言葉にまた八つ当たりのように音叉を振るうのは、結局自分たちでは止められないと知っているからこその行動で、諫めれないことをシンクもよく知っていたのだ。




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