(ティアに厳しめ(?))



生きている間にあの子どもの血の気が引くところが見れるとは思わなかった、と彼の国の皇帝陛下は宣った。
すぐに忘れたことにしなければ殺されるな、とその懐刀はそう思ったが、思っただけにするしかなかった。




「絶・対!ダメです嫌です許しません!障気蝕害を治す?僕とあのダアトの恥曝しを?ボケるのはまだ早いですよルーク。耳が遠くなるのも早いですルーク。絶対ダメです。無茶です。嫌です。却下です」
「でも、シオンもティアも障気蝕害になってしまったんだろ?確かな治療法も無くて、2人が苦しむ姿なんて俺は見たくない。それに、俺なら治せれるんだ。その力があるのに、黙ってるなんて俺には出来ない」
「嫌です」
「シオン!」
「嫌です無茶です絶対ダメです。あなたの力なら治せれる?そんなの御免被りますよ。その力の代償を、あなたは全然理解してない!」
「そんなこと言ったって、障気蝕害が致死率の高い病だって俺だって知ってるんだからな!何もしないなんて嫌だ!助けれるなら助けたい!」
「却下でーす。ルーク、僕は言ったでしょう?ボケるのはまだ早いって。障気蝕害など誰も罹っていません。はい、この話はここでおしまいです」
「…………障気蝕害は、内臓を冒されて衰弱死するって俺は聞いた」
「……誰にです?」
「…治させてくれたら答える」
「…誰も罹ってなどないのですよ?」
「ならティアだけでも治す」
「過労で倒れた女にすることはありません」
「障気蝕害は致死率が高いってサフィールも言ってたんだぞ?!シオン!」
「死ね洟垂れぇええ!!」


アカシック・トーメント!
ちゅごぉおおおん!!
などとはまあ、かろうじて冗談なのだが、とりあえずアカシック・トーメントは抜きにして哀れ、洟垂れディストは華麗に宙を舞ってついでに客間の扉をぶち破って玄関の方へ転がって行った。
ナイスショット!惜しむらくは微妙な位置に花瓶があったのが中途半端にコースをねじ曲げたのだが、客間に居合わせた面々からはルークとフローリアンを除いて全員が全員顔面蒼白となっている。
唯一ピオニーだけは呼吸困難に陥るほど腹を抱えて爆笑しているのだが、ここで止まる程シオンとルークは冷静さを取り戻してはいなかった。
ちゃっかり命からがらイオンの元に逃げたシンクも、あの言葉遣いだけは割と丁寧であるシオンの「死ね」発言は…全身全霊掛けてブチ切れた「死ね」は久しぶりに聞いただけあって、あんたキャラ捨てたね、とも言えず、現実逃避からうっかり未だに足元から逃れられていない某使用人の冥福を祈ってしまうぐらい、ちょっと本当にどうしたらいいか分からない。
……某使用人が、その重みにルークがプラスされてからは、どことなく嬉しそうに見えるのは、全力で気付かなかったことにするとして、と。


「ルーク、僕は障気蝕害などとは無縁です。僕はそんなもので倒れることもまして死ぬこともない。そしてティア・グランツなどと言うダアトの恥曝しが死ぬからと言って、あなたが助ける必要性など欠片もない」


淡々と言ったシオンの言葉に、やめておけばいいのに口を出す姫様もいるわけで。


「なんて失礼な!人の命を何だと思っているのです?!」
「口先だけしか能のない偽姫は黙っていなさい。ティア・グランツの命など僕は何とも思っていませんよ。たとえ危険だろうが外郭大地を降下する為にもその命、ユリア式封咒を解く為に捧げるに決まっています。オールドラントに住まう命を危険に晒し、外郭大地降下作戦を頓挫させてでもその女を助けろとでも?馬鹿らしい」
「…っ、そのような言い方は許せませんわ!あなたもユリア式封咒を解けるのでしょう?誰も死なぬよう、負担し合うことも可能な筈です!」
「綺麗事しか言えない品のない口を開くな、とはっきりと言わなければ、あなたは分からないのですか?何を勘違いしてるのか知りませんが、あなたは僕を人でなしのように言いますが、障気蝕害を発症させたのがこの女でなく、あなた方の内の誰かであったのなら僕は負担を負いましたし、必ずこう言いますよ。『そんな方法で誰かの命が危険に晒されるのなら、考え直すべきだ』と」
「ではなぜ…っ!!」
「ティア・グランツは罪人だからです。ですから何度も言っているでしょう、この女は、ダアトの恥曝しだと」


一切の笑みも浮かべずただ冷たく言い切ったシオンのこの言葉に、ナタリアが何か言える筈もなかった。
常ならばナタリアを庇おうとするアッシュも、黙って立ち尽くすしか、ない。
事情をきちんと知っているからこそピオニーは笑みを崩さないままだった。
後ろに控えるジェイドもこれは予想出来ていたのかまるで動じてはいないが、シンクと同じように疲れ切った顔はしている。


「王族であるファブレ家を神託の盾の軍服着込んで堂々と真っ昼間に襲撃し、あまつさえその御子息を誘拐するとは耳を疑いましたよ、僕は。あなたは忘れかけているのかもしれませんが、ティア・グランツは罪人です。ピオニー陛下、マルクトでこのような真似をした場合、罪人はどのような処罰を?」
「そりゃ死刑だな。キムラスカでもおそらく、そこは変わりはしないだろう」
「アクゼリュスへ送り込んだのは公開処刑の代わりと言うことですよね。キムラスカ王はアクゼリュスが崩落することを知っていたのですし、わざわざ裁判する必要も省けますからね。体の良い処置だったのでしょう」
「普通ならばダアトとキムラスカで戦争だからな。運が良かったと言うしかないだろう。キムラスカが預言を尊重していて助かった、と。預言に詠まれていないからとなかったが、顔に泥を塗られるどころの話ではあるまい」


ニヤニヤ笑って言うピオニーの言葉に、この男も大概性格が悪いよな、とシンクは思いつつ、ナタリアの顔色が益々悪くなっていくのを黙って見ていることにした。
ティアの顔はこの立ち位置では見えないが、ピオニーからはよく見えるのだろう。
シオンは言っておきながら視界にすら入れようとしなかった。
容赦ないな、とシンクが思う隣で、全く罪がないと言えないと自覚があるからかアニスが青褪めた顔をして立ち尽くしているのだが、今ここで関係ないことを言ったら冗談抜きで殺され兼ねないので、黙るしかない。


「ユリア式封咒を解いて障気蝕害を発症させて死ぬと言うのなら死になさい。ティア・グランツは死刑囚なのだから」
「……それでも、俺は助けるよ、シオン」
「ルーク!」
「分かってる!ティアが許されないことをしたって、俺だってちゃんと分かってるよ!だけど…っ!」
「分かってない!ルークは全く分かってない!ティア・グランツは罪人だ!あなたがその身を削ってまで救う命じゃない!必要はない!あなたの力はあなた自身に負担が掛かるんですよ?助ける必要のない、見捨てるべき命にそんなことはしなくてもいい!!」


これは流石に言い過ぎだろう、とピオニーですらも思った言葉を言い切ったその瞬間、まさかシオンの頬をルークが叩くとは、誰も思ってもいなかった。

パンッ、と。
小気味良く響いたその音に、全員が全員呆然としていれば、シオンの頬にルークがそっと手を添える。
力などほとんど入っていなければ本当に軽いものだったけれど、ショックを受けることには変わりなく、シオンは何も言えやしなかった。



「…たとえその身が罪人だろうと、助ける必要がない命も、見捨てるべき命も、この世界にはないよ、シオン」



預言が無いからと、見捨てられた彼の、言葉だった。
シンクもあのフローリアンですらも、複雑そうに顔をしかめている。
シオンは目を合わせなかった。
目を合わせることが、出来なかった。



「それでも、僕はあなたに負担を掛けるのは、絶対に嫌です!」


言い切った瞬間、手を振り解いて八つ当たりの如く某使用人を玄関先へと蹴り飛ばしたシオンが、サフィールとセットで玄関ごと2人を吹き飛ばしたのだが、止めるタイミングは誰もが見失っていた。




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -