さて、時はルカがフリングス少将と出会う前。グランコクマの港でふてくされている頃に少し遡るのだが、皇帝陛下から頂いた(分捕った)邸にて、何故かその皇帝陛下も居合わせていたりする妙な場ではあったのだが、一通り検査も終え全員が全員揃い合わせた空間ではなんだかとっても嫌な雰囲気が満ち満ちていたりした。
バチカルから帰還途中らしいアリエッタが不在なこともここまで雰囲気の悪くなる理由の一つなのだろうが、それに妙な、と付くのは現在フローリアンを膝の上に侍らしているピオニーの姿があるからであり、嫌な、と付くのは絶賛笑顔で殺気を振り撒いているシオンが、ルークを甲斐甲斐しく世話していた某使用人を八つ当たりで踏みつけているからであろう。
ピオニーの後ろに控えたジェイドはああ、これはマルクト終わったな、と思い、イオンの後ろに控えたアニスは死んだ魚のような目をしていた。
沈黙するしかないアッシュとナタリアには悪いが、一番気の毒なのは結果を告げなければならないシュウとサフィールであろう。
たとえそんなこと言えるような雰囲気ではなくとも、シュウに至っては説明しなければベルケンドにすら帰してもらえやしない。


「あなた方が地核振動停止作戦を行っている間、あんまりにも外郭大地降下作戦の方の進みが悪いので、ザレッホ火山のパッセージリングは起動させておきました。これでシュレーの丘、ザオ遺跡、タタル渓谷、メジオラ高原、ザレッホ火山のセフィロトは終了。残すところはロニール雪山とアブソーブゲートとラジエイトゲートですか…先はまだまだ長いですね。アルビオールで観光でもしてたんですか?無能集団様?」


にっこり笑んで言ったシオンの言葉の中に、山のようにツッコミ所は多々とあったのだけれど、どれか一つでも口に出せるような猛者は流石に居なかった。
とは言え無謀にもティアやナタリアは不満そうな顔をしているのだが、笑顔で踏みつけられているガイを目の前にして、まさか何か言える筈もなく(しかも皇帝陛下が大爆笑しているのだから、余計に何も言えやしない)。


「それと、サフィールの情報からワイヨン鏡窟とフェレス島のレプリカ施設の破壊も済ませておいたので。それにしてもこれだけ働いた僕たちの家にまさかズカズカと厚かましく乗り込んで来るとは思っていませんでしたよ。ダアトの恥曝しが倒れたぐらい何です?いちいち人の家に押しかけてあまつさえここで検査までして…ベルケンドにその女置いてルーク達を連れて来ればそれで良かったじゃないですか。わざわざシュウ医師まで連れて来て非常識にも程があるでしょう?」
「…………悪いけどシオン。あんたベルケンドの知事脅して最新の医療機器全部ここに運び込ませたんだから、あそこには旧式しか無くていろいろと無茶苦茶だと思うんだけど」
「脅したんじゃありません。丁重にお願いして借りただけですよ、シンク」
「あんたのそれは脅しだって素直に認めた方がいいと思う」
「シ・ン・ク?」
「僕が悪かった!」


半分泣きそうになりながらもどうにか突っ込んで撃沈したシンクに、ルークが困ったように笑って頭を撫でたりしたものだから、余計にシオンの機嫌が悪くなってシンクの体が勢い良くソファとお友達になった。
…いくらなんでもその上にルークと2人で座るのはシンクの背骨が不安になるところなのだが、ツッコミ要員が居ない為誰も何も言うことはしない。
今の動きどういうことだ?とか絶対禁句。


「では、シュウ医師。ティア・グランツの診断結果をどうぞ」


にっこり笑顔で言ったシオンの下で、シンクが呻いたがアニスが顔色を悪くした以外スルーだった。
ソファにお友達と床にお友達とどっちがマシなんでしょうね、とジェイドは思ったが、ルークがやればガイラルディアは床でも喜んだだろうにな、と皇帝陛下が宣ってくれたお陰で、心置きなく幼馴染みの家畜を丸焦げにすることを誓っておいた。


「今回の検査でティアさんの血中音素に大量の汚染された第七音素が含まれていることが判明しました。ネイス博士とカーティス大佐の話からパッセージリングはおそらく障気によって汚染された第七音素が含まれており、ユリア式封咒を解く際に流れ込んでいるのだろう、と」
「これは障気蝕害と呼ばれる病ですね。障気を吸引し続けることで臓器に障気が蓄積し、発症するものです。確かな治療法はないので、薬を処方は出来ますがまあ、気休めにしかならないでしょう」
「そんな…っ!」


シュウとサフィールの説明に、思わずと言ったように悲痛な声を上げたナタリアに、ティアが俯きがちに目を伏せるより先にシオンが鼻で笑った。
途端にナタリアに鋭く睨み付けられるも、シオンからしてはどこ吹く風なので見向きもしなかったのだが。



「シオン…」


小さな声で呟くように言ったルークの言葉に、その場に居た全員の様々な視線が集まったのだが、ルークは不安げにシオンを見るばかりで、その理由に気付いたシオン自身は勿論、ジェイドも苦々しく顔をしかめた。
話を聞いていれば、それは当然の反応なのだろう。
どんな反則技を使ったのか知らないが、ザオ遺跡とザレッホ火山の封咒を解いたのは、シオンだ。


「サフィール、シオンは?シオンは大丈夫なのか?シオンも、障気蝕害になったり…」


不安げに問うルークの言葉に、やっと気付いたのか訝しげに見ていたティアやナタリアでさえハッと目を見張ってサフィールへと視線を移した。
すればシオンに足蹴にされてはいなかったものの、いつでも音叉の餌食になるだろう場所に強制的に居させられているサフィールは、少しばかり考えたあと、素直に答える。


「それは……おそらく、まだ軽い症状でしょうが、障気蝕害を発症させているでしょうね」
「洟垂れが余計なことを…」
「キィイーッ!洟垂れとはなんです洟垂れとは!それに余計なことでもないでしょうに!」
「余計なことと言ったら余計なことですよ?お馬鹿さん。無駄に喚くぐらいなら今すぐ死になさい」
「それは無茶苦茶です!」
「知ってますよ」


にっこーり笑ってシオンが言った言葉に、血の気が引くどころかすぐに土下座に移行したサフィールに、ピオニーが腹を抱えて笑ったのだが、ソファから降りて音叉を振り上げたシオンに、止める手が、確かにあってしまったのだ。


「シオン!」


叫んで袖を引いたルークに、シオンは苦々しく顔をしかめた後、甘んじてその先をこの時点では受け入れようとしたのだ、が。




「俺が、障気蝕害を治すよ。シオンも、それにティアも」



その申し出が、まさかこの後玄関先が吹き飛ぶ事態に繋がるとは、流石にジェイドですらも思っていなかった。




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