「呼んで、欲しくなんか、なかったんだ」
「うん」
「だって、ずっと『ルーク』って呼ばれてた…それ以外ないみたいに、ずっと、ずっと…だから…っ!」
「……うん」
「こわ、こわか…った…だって、父上の望むように、おれ、死んでないよ…どうし、よ…どうした、ら…おれ…」
「大丈夫だ、ルーク。それは夢だ。悪い夢なんだよ。公爵と会ったのは夢の中での話だ。途中で起きたから、まだ眠たいだろう?」


だから、眠っちゃいな、と。
言いながらガイは、ぶっちゃけずともルークが一体何のことを言っているのか、全部が全部、全く分かってはいなかったりした。
睨み付けるように見るルカの視線は気付かなかったことにして、手を握って眠ってしまったフローリアンだとか、ただただ寄り添うイオンだとか。
まだまだ幼い彼らに何を背負わせているんだと気にはなるのだけど、それを指摘出来るような資格を、生憎自分は持ち合わせていないと、ガイは自覚している。
ファブレ公爵が何を叫んだのかは、ガイには聞こえてはいなかった。
だからこその、眠っちゃいな、だ。
眠ってしまえばいい。
怖いことは全部夢にしてしまえばいい。
でないとあんまりだと思った。
どうしてこの子ばかりが、こんな目に、と。








「だぁーっ!!マジで腹立つ腹立つ腹立つ腹立つー!!なんだよあいつら!なんであんなにバカなんだよあいつら!ほんっとに意味わかんぬぇーっ!!」
「お、落ち着いて下さい、ルカ!遺伝子の元があの髭と同じなんです!言語不自由になっても仕方ないんですよ…!」


うがーっ!と喚いてアルビオールの壁をルカが蹴飛ばそうとした瞬間、まさかのイオンの何のフォローにもなっていないただの侮蔑的な意味合いでしかない言葉に、室内の空気が凍った、まさにその瞬間だった。
地核振動停止作戦は実際に港を出てしまえば特に何の邪魔は入らず、無事に終了したかと思えばアルビオールに伝書鳩ならぬ伝書魔物(アリエッタのお友達)がやって来て『シェリダンは無事です。あなた達はメジオラ高原のパッセージリングを操作してすぐにグランコクマに来なさい。ルーク達に危害を与えたなら地図上から主要首都が消えると、その弱い頭に刻んでおくように』なんて書かれた手紙を渡して来たのだから、質が悪いとこの時ばかりは流石にイオンでもそう思う。
語尾にハートを付けた手紙の、そのハート部分が変色した元は赤だったろう血だとわかる分、一体誰の血判なのだろうとジェイドとアッシュは血の気が引いた。
メジオラ高原のセフィロトに行きたくぬぇー!と思った面々は別に悪くない。呪われそうな気がしたのは気のせいでもない。
それでも行かなければならないのは分かりきった話で、アッシュとジェイド、そしてティアとナタリアがセフィロトへ向かうことになった。ガイはルークから離れない且つ、アルビオールの見張りでもある。
ちなみにイオンはダアト式封咒を解いて速攻でアルビオールに戻っていた。
シオンとよく似たいい笑顔なのは、パッセージリング操作作業の進み具合があんまりにも遅いと、ちょっとご立腹だったりもする。余談だが。


「あ、あの…イオン、さ…お前、なんか…怒ってね?」
「そんなことはないですよ、ルカ。シェリダンの方々が無事だったことをとても喜ばしく思っていますし、シオンからの手紙をダアトの元軍人に本当か疑われたりアリエッタのお友達を魔物なら問答無用に殺さなくてはと偽姫様に言われても、全然気にしてませんから!」


いや、全然気にしてんじゃねーか!と言うツッコミは流石にルカも出来なかった。にっこりにこにこ無邪気に笑ってるフローリアンと並ぶと余計にその黒さが際立って見えるイオン相手に、何か言える筈もなかった。
これ俺がルークを護るよりイオンの方がいろんな意味で容赦ない気がするとも思ったが、とりあえずお口にチャックでどうにか飲み込む。
そんなに食材の持ち合わせがなかったから相当簡易的な物になってしまったらしいが、それでも種類豊富なサンドイッチを昼食に用意し、ルークにはリゾットを食べさせていた使用人がぽんぽん、とルカの肩を叩いた。
泣きたくなるぐらいの腹も立つ慰めである。
サンドイッチが美味いのも余計に腹が立って、ルカは容赦なく某使用人を殴り飛ばした。
回転決めてスチャッと着地。
ウインク付きで「ははっ、ルカは元気一杯だな☆」とか言う使用人に「今お前どうしたらそうなった?」だとか聞いてはいけないことだとルカでも分かる。
それ以前に気持ち悪くて引いたが、最近離れて行動している分もあってか、使用人がキモさを増したとこれはルカだけでなくイオンも思ったことだった。
密かにノエルも引いていることに、そろそろ気付いた方が良いかと思う。
ああ、なんかシオンが恋しいわ。結構マジで。



「それにしても、皆さん遅いですね…何かあったのでしょうか?」


半分寝ぼけながら使用人にリゾットを食べさせられていたルークの隣で、見守りながらサンドイッチを食べていたノエルがそう言った。
甲斐甲斐しく世話をする使用人に、イオンが「ルークに自分で食べさせた方がいいのでは?」と言うのだが、その本当の意味を理解していない使用人に届きそうにはない。
ノエルの前で幼子宜しく世話されるのは、ルークにとって恥ずかしいのでは、とイオンは思ったのだが…実はこの使用人が甲斐甲斐しくするのは昔っから変わらない習慣みたいなものになっていて、今更ルークも気にもしないことだったりするので杞憂でしかなかった。
黙々とサンドイッチを食べているアニスの目が死んでいることには、ノータッチの方向で。


「そんなに心配することはないさ、ノエル。ジェイドの旦那が一緒なんだ。大丈夫だって」
「そうですね、ジェイドが居ますから。何があろうとジェイドだけは戻ってきますよ」
「……お前らの中での眼鏡の定義がすっげぇ疑問なんだけど」


呆れたようにルカが言えば、イオンが凄まじくいい笑顔でとてもじゃないがフローリアンとルークには聞かせれないことを口にしたのだが、幸いなことにアルビオールのハッチが開く音と重なってほとんどの人間の耳には届かなかった。
ルークに至ってはどうやら本格的に寝入ってしまったようで、たとえまともに話をしていないのだとしても、ひとまずはルカも気にしないことにしておく。
噂をすれば、と言うべきかハッチから現れたのはメジオラ高原のセフィロトに向かっていた面々であって、無事に帰って来たにしては妙な雰囲気にルカもフローリアンもおや?と首を傾げたのだが。



「ティアが倒れました。医師に診せる必要があります。グランコクマへ行く前にベルケンドへ向かいましょう」



男の子でもそんな顔をしてはいけませんよ、ルカ。
と言ったイオンの目も、全く笑っていなかった。




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