唐突だが、アリエッタはどうしたらいいのか困っていた。
とってもとっても頗る全く見当も何も付かないほど、困り果てていた。
とりあえず現状が把握出来る気がしない。
自分はシオン様に言われてバチカルに来たと言うのに、一体何がどうなったらこうなってしまったのだろう。と、早くシェリダンに戻る筈だったのに、だとか沢山のことを一生懸命考えて、でも全くわからなくて、アリエッタはいつもなら泣き出しそうに顔を歪めるこの場面で、けれど涙も忘れて顔を青ざめているぐらいしかなかった。
シオンが書いた手紙。
それをバチカルの軍の関係者に渡さなければならなかったのだけれど、セシル将軍が誰なのか分からず、だからと言って国王に渡すにはどうにも違う気がして、そう言えばルークのパパは軍の人だと思い出してファブレ邸に渡しに来たのだが、まさかそこから一気に流されるまま流されるとは思ってもいなかった。自分はシオン様の守護役なのに、と思えたのは紅色の髪が出て行ってしまった後のことである。
現状、飛び出して行った白光騎士団とファブレ公爵の代わりに、邸中がアリエッタの友達でいっぱいです。セシル将軍たちも着いて行きました。
追記、なんでかルークのママと向かい合わせでお茶出されてます。泣きそう、です。



「どうぞ、アリエッタさん。こちらのお菓子もお食べになって下さいね」
「は、はいっ!あ、ありがとうございます、です…」


おどおどと何だかもう挙動不審どころか目もぐるぐる頭の中もぐるぐるどうしたらいいのか全くわからないまま、アリエッタは行儀よく、ちょこんと膝を揃えて椅子に座っていた。
ぶっちゃけずともガチガチに固まってそれが行儀よく傍目には映るだけの話なのだが、作法も何もそんなものは習ってもいないし軍人がまさか貴族の方々とお茶会など非常識にも程があるので、こういう時にどうすればいいのか、本当に何も分かりやしない。
無礼に当たるのは百も承知の上で向かい合わせに座る夫人をちらりと見るのだが、穏やかに微笑んでいる姿が見えるばかりで、そのどこか見覚えのある微笑みと自分の膝小僧とを行ったり来たり視線をさ迷わせるばかりだった。
…どうしたらいいですか、兄様ぁ…。


「アリエッタさん、どうかそんなに強張らないで」
「はっ、はい?!」
「気を楽にしてもらって構わないのです。私がしたくてしていること。礼儀も作法も必要ありません」
「で、ですが…あの、」
「お話を、聞かせてもらいたいのです。私の知らない、あの子の話を。ごめんなさいね。私にはこんな資格はないと分かっているのに…どうしても、あの子のことを知りたいのです」


涙を堪えて言うルークのママの姿に、思い出した。
アリエッタのママの言葉。
人間も魔物も、子どもに対する想いは変わらないのだと。


「お願いします、アリエッタさん」


胸元に見えたブローチの、その朱色の髪が一体誰のものか分からないでいられる程、無視することは出来なかったのだ。


















「−−−っ早く港へ行きなさい死霊使い!アッシュ!ファブレ公爵達が抑えている間に!急いで!!」


シェリダンの街を襲撃した神託の盾兵を取り押さえるべく姿を表したファブレ公爵率いる白光騎士団とキムラスカ兵の姿に、呆然としているアッシュ達に向かってシオンが声を張り上げてそう言った。
ハッと我に返ったジェイドがすぐにナタリア、アッシュ、ティアを先に促し、イオンを背に庇っていたアニスにトクナガでイオンを連れて行くよう指示を出す。
同じようにガイにも声を掛けようとしたのだが、その腕に支えられた朱色の髪をした子どもに気付いてしまえば、まさか何か言える筈もない。
確かに名を呼ばれたのを、ジェイドは聞いてしまったのだ。

それは知らない名前。
聞いたことのない名前。

だからと言って事情を全部知らないかと言えばそうではなくて、だからこそ顔を真っ青にして怯えたように震える彼に、何も言えやしなかった。
指示を出しながらも、ファブレ公爵はまだ必死にこちらを見ている。
彼らの、父親、が。



「ガイ・セシル!あなたにルークを託します。一度作戦が始まってしまえばタルタロスに乗っていた方がよっぽど安全だ。すぐに港へ向かいなさい!」
「分かった!任せとけ!」
「フローリアン!ルークとイオンの側に居なさい!決して離れないように!」
「うん!僕、絶対に離れないから!」
「ルカ!」
「−−−っなんだよ!」


このシオンの指示には相当納得がいかないのか、どこか不満そうにルカはそう言ったのだが、続いたその言葉に、思わず目を見張っていた。


「ルークを護って下さい。あなたに、頼みます」


真剣な目でそう言ったシオンに、ルカは一瞬頭の中が真っ白になったのだが、すぐに我に返って、一つ頷いて駆け出して行った。
ルークをガイに託したことが気に食わなかったのだろうが、流石にいくら軽いからと言ってもルークを抱きかかえて港に向かうことは出来ないとは分かっていたらしく、それよりも与えられた頼みに、ルカは応えようと港へ向かってくれる。
その後ろをジェイドが駆けて行ったのが見えただろうが、シオンはルカが駆け出したことが分かった瞬間、視線はリグレットへと戻していた。
シェリダンの街は混乱状態にあるだろうから、それを抑える為にもファブレ公爵はそちらに集中しなければならない。
襲撃してきた神託の盾兵は少なくはないのだ。
ならば、リグレットの相手ぐらい、自分達がしてやらないと。


「行かせて良かったわけ?シオン」
「ええ、ここで行かせなかった場合の方が不味いですからね。フローリアンもイオンも戦いは得意ではありませんし。唯一戦えるのはルカですが、護り手が居なくなるのは不味いでしょう?」
「そこの馬鹿犬連れて行けば良かったんじゃない?」
「疫病神背負わせてどうするんです。あちらの負担にさせるぐらいなら、給料泥棒扱くのにこき使わせてもらいますよ」


にこりと笑んで音叉を構えれば、リグレットだけでなくシンクもレイラも顔を引き攣らせたのがシオンにだってきちんと分かったが、別に気にもしなかった。


ああ、穀潰しの方が良かったですか?




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