宿屋の二階の窓から見下ろした先に見える金色の髪をした彼女は、両手に荷物を抱え、それに更にどこかへ持って行かなければならない荷物があるらしく、宿屋の主人と何やら話し込んでいるらしかった。
日も暮れかけたオレンジ色に染まりつつあるシェリダンで、夕陽色に照らされる彼女はこちらに気付いてはいないらしく、ひょこっと顔を出したフローリアンの声も、届きそうにないのは良いのか果たして悪いのか、なんて。



「あ、ほんとだノエルだー!荷物いっぱい持ってるね。大変そう」


シオンの容赦ない音叉攻撃及び嫌がらせを兼ねた仕打ちを全部シンクに押し付けたらしく、逃げ回っていたフローリアンが窓の外を覗き込んで言ったその言葉通り、ノエルはその両手ではとても持ち切れそうにない荷物に苦労しているようだった。
そこで手伝って来よっ、とそんな発想にすぐ繋がるのはフローリアンとルカの良い部分であったのだが、しかし二階の窓から大きな声で呼び止めるより早く、ふと気付く。
揺らぐ金色を目で追うように、じいっと見据えているのは、朱。



「ルークは、ノエルのことが好きなの?」



あっさり、と。
誰も何も言わなかったことをがっつり突っ込んだフローリアンの言葉に、これには当事者だけでなくシンクを追い掛け回していたシオンもギョッと目を見張って、ぶん回していた音叉が手からすっぽ抜けて壁に突き刺さってしまっていた。
首筋ギリギリを狙ったかのような投擲に、壁に張り付いたままシンクは動くことも出来ず、冷や汗ヤバい。手元が狂ってこの状態ならば、手元が狂わなかったら直撃ではないか。


「……え、あ、ふ、フローリ、ア、ン…?」
「ん?あ、間違えちゃった。ルークは、ノエルのことが好きなんだよね!」


断定として言い切られてしまっては、他にどんな反応の仕様もなく、途端に耳まで真っ赤にさせてルークが口元を手で隠したのを、何でか本当に嬉しそうにフローリアンが笑った。
慌てふためいて、顔も耳も赤くして、俯いてしまったルークに、最初に行動に移したのは、ルカだった。



「ノエルー!上!こっちだっつーの!」


宿屋の主人とは話し終えたのか、一人荷物を前に苦戦しているノエルに、ルカがそう声を張り上げた。
驚くルークににやりと笑って、その意図を察したらしいフローリアンが、ルークの肩にカーディガンを羽織り直させて、そして。


「荷物運び手伝ってやるよ!ちょっと待ってろよな!!」


言って、ノエルの反応も碌に確認もしないままにルカは顔を引っ込め、意地悪く笑ってぶっ倒れている主治医の背中を踏みつけた。
ぐぇ、と妙な声。
笑って振り返った先に、複雑そうに顔を歪めたシオンの姿があったことにルカも気付いてはいたけれど、そこは見えなかった振りを貫いておいた。



「行こっ、ルーク!ノエル大変そうだもん。助けてあげよ?」
「え、あ…フローリアン?!」「サフィール!何時に帰って来たらいいんだー?」
「さ、30分経ったら、シンクを向かわせまっ…」
「やったー!行こルーク!」


はしゃぐようにルークの手を引いたフローリアンが、サフィールの背中を容赦なく踏みつけて行ったあと、ルカと3人で慌ただしく出て行ってしまった。
呆然と見送ってしまったシンクとイオンはどうしたらいいのか分からず、この展開ならば怒髪天でも突いているだろうシオンを直視することも出来なくて、妙な沈黙が流れてしまうが、そろはそれで仕方ないのだろう。
呻きながらもどうにか立ち上がったサフィールは、眼下に映る朱と緑、そして金を見送る為に窓際に近寄った。
よく似た朱と緑が先を歩いて行って、わざと朱と金の二人にするのは、あの幼い子ども達ならではの、願いだろう。



「…ルークに何かあったら、ダアトの一番見晴らしの良い場所で吊し上げて一週間放置しますから。神託の盾騎士団第二師団元師団長、ディスト響士?」


あえてかつて与えられた地位で呼んだシオンに、サフィールは顔を引き攣らせながらも、「30分後にシンクを向かわせると言ったでしょう!!」と噛み付くのは止めなかった。
シンクとイオンが複雑そうに顔をしかめていることぐらいサフィールもシオンも分かっているだろうに、容赦ないのは、果たしてどちらなのか。





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