「たっく、なにいちいちオカメインコ相手にして怪我して帰って来るのかなぁ、もう。包帯とかグミにしたって馬鹿に出来ないんだからね」
「なら回復術かけろよシンクー。消毒薬なんか染みて痛いだけだっつー…ぅあああ?!!」
「大人しくしなよ馬鹿」


呆れたように言いつつも、ちっとも懲りていないルカに流石に我慢ならず、問答無用とばかりにシンクが消毒薬を吹きかければ面白いぐらいの反応があり、居合わせたフローリアンとシオンがそれはそれは楽しそうに笑っていた。
集会所での馬鹿騒ぎを終えたあと、シンクとルークが待機していた宿屋に入って来たかと思えば、これはまた見事に至るところを怪我して帰って来たルカの姿があって、頭痛を覚えたのはもう仕方ないことだったりもする。
結構容赦なく殴り合いをしたらしく、頭を抱えながらもシンクが救急箱を用意し手当てを始めた時にはアリエッタのお友達が放置されていたサフィールを回収してくれたようで、呻くそのよく分からない奇抜なファッションの背に追い討ちを掛けるが如くシオンが足蹴にしていたが、ツッコミを入れるだけの気力がシンクにはなかった。
心配そうに覗き込むルークが「回復してあげたいんだけど」と言っては来るが、こんなことで負担を掛けさせたいわけでもないので、即却下。
…と言うかルカ相手ならまだしも、サフィール相手にルークが力を使うようなことになったら、シオンの反応が怖くてさせられる筈がない。ただでさえ機嫌が悪いだろうに、これ以上悪化させられるものか!



「ルカはオカメインコ嫌いなの?僕は好きだよ!見てて面白いもん!」


にっこりにこにこ。
純粋に笑顔満面で言ったフローリアンの言葉に、それこそツッコミ所は山程あり過ぎてうっかりシンクは消毒薬を更にぶちまけそうになったのだが、どうにか堪えた。
ルカが不愉快そうに顔をしかめる。若干困惑もしているだろうその表情に、アリエッタが帰って来ないか窓の外を一度だけ見ていたシオンが愉快そうに笑ったのがシンクには見えてしまったが、そこはなかったことにしておいた。


「俺は嫌いだね。あいつのせいで何もかも上手くいかねーし。鬱陶しいんだっつーの!」


フンッ!とそっぽを向いて言ったルカの言葉に、ルークが傷付いたような顔をするのではと気にするよりもまず、何もかも上手くいかないとその言葉に全員が全員きょとんと目を丸くしてしまった。
シェリダンで顔を合わせるまではお互いの状況など何にも知らなかった相手だ。
別段関係のなかった相手に、どうしてそんなに怒っているんだろう?とそんな考えはルークやシンクだけでなく、シオンですら疑問に思ってしまって、正直よく分かりやしない。
ルカは相変わらず不機嫌さを隠しもしないが、それにしたってなんでこんなにもあのオカメインコが、気に食わないのだろうか。


「上手くいかないって、なにが?」


きょとんと目を丸くして、首を傾げて聞いたルークに、ルカは染みる傷口を見て涙目になりつつ、答えた。


「…将来的なこととか、全部」
「将来的なこと?アッシュがそんなに関係するようなことって一体…」
「全部だよ全部!俺はあのオカメインコのレプリカなんだぞ!基本は全部あいつが元になっちまう!となると俺は17になったら171しか身長が無いってことだ!マジ有り得ねー!」


俺もっと身長高くなりたかったのに、男で171しかないとかマジでチビだぁーっ!!


と、喚き出したルカの言葉に、これまたどうしたものかとルークは苦く笑うばかりだったが、フローリアンとシンクの反応は微妙なものであったし、ちゃっかり居合わせていたイオンは困ったように笑うしかなかった。
部屋の扉のすぐ側で警護しているアニスは、中から聞こえて来るルカの言葉に顔面蒼白になっていたりして…付随する問題がきちんと分かっている分、こういう時は損な役回りでしかないのだろう。
喚くルカをほとんど放置して、同じ顔4人組の間には微妙な空気が流れていた。
正直、思いも寄らぬ箇所に飛び火したものである。


「……………なにか言いたいことでもあるんですか?シンク」
「……………いや、別に。何でもないけど」
「何でもないって溜めじゃないでしょう?言いたいことがあるなら言って下さいよ。この間がむしろ僕を追い詰めてると空気読みなさい」
「……………声、高いよね」
「……………………………」
「変声期前っちゃ前…なのか?ぐらいだけど。うん。僕は身長よりも、声高いのちょっとコンプレックス」


グサッと。
一切の躊躇なく心に突き刺さったその言葉に、これにはシオンもマジでへこみそうだった。むしろ、心が折れ掛けた。
笑顔が若干引き攣っている。
14歳の男の子にこのダメ出しは流石にあのシオンでも、泣けて来るものが確かにあった。


「えー、そうかなぁ?僕、この声好きだから全然今のままでいいよ!身長の方が欲しかった!」


何のフォローにもなってぬぇえええ!!!!

と、思わず床に四つん這いになって打ちのめされかけたフローリアンの言葉に、珍しくシオンが凍り付いたその瞬間だった。ブーブー文句を言っていたルカもこれには驚き目を見張って、ついつい「あ…」と声を漏らしてしまうのだが、その反応が大概酷い。

17になって171しかないオカメインコよりもマシです!僕はまだ14ですけど166はあるんですから!

なんて浮かんだ言葉はそこだが、口にした方がよっぽど惨めになるのは明らかなことであって、シオンはもう何も言えなかった。
その代わり超笑顔。
輝かんばかりの笑みに、これは不味いとシンクは思ったが、まあ、遅かった。


「シンク。最近のマイブームは格闘技だったりする僕です」
「ごめん、悪かった」
「い・や・で・す」
「うわっ!部屋狭いのに無茶だろシオン!!」


んなこと知ったこっちゃあるめぇよーい!
と思ったかどうかはさておき。ルークとイオンには危害が全く与えないよう音叉を振り回し始めたシオンに、本気でシンクとフローリアンは逃げ回るのだが、何だかもうどうしようもなかった。
格闘技じゃないよな、なんてツッコミは通用する筈もなく、手当ての途中で鬼ごっことなってしまった為に放置されたルカは片足でひょいひょいっと器用に飛んでとりあえず移動。
ルークとイオンが避難している窓際へ寄りつつ…さり気なくサフィールの背中を踏んだのをイオンだけ気付いてしまったのだが、そこは見なかったことにしておいた。
アップルグミを口に含んだルカが、ルークが腰を掛けている、窓際に寄せられたベッドに同じように並ぼうとして、ふと視線を窓の外へとやったから、ルークとイオンはきょとんと目を丸くして首を傾げたのだ、が。



「あ、ノエルだ」



たったそれだけのルカの言葉に、あからさまに反応するのがおかしくて、一番始めに気付いたイオンは思わず笑ってしまっていた。






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