初めて食べる食事は貴族の屋敷で出る物だけあって、味は美味しかった(嬉しそうに食べるフローリアンの口の周りが、悲惨なことになっていたのは触れるまい)。
空になった器を重ねる。
二人分を三人で分けるから満腹とまではいかずとも、十分に腹拵えは出来た気がした。

朱色の髪をした少年は、眠っている。
腹だって空いている筈だと言うのに、起きようともしない。


「………なんかずっと寝てばっかりですけど、彼は大丈夫なんですか?ローレライ」


眠る少年の顔を覗き込んでイオンがそう聞いた。
ツンツン、と容赦無く頬をつつくイオンにローレライは一瞬袖口を引っ張ろうと口を開こうとしたが、すぐに諦めたようだった。


『疲れが溜まっているのだろう。ダアトにザレッホ火山と…少々無理をさせてしまったからな』
「にしてもお腹だって空いてるでしょうに、食べさせなくて大丈夫なんですか?」
『……リアンは一日に三食の食事を取る習慣がないから、無理に食べさせると体が受け付けないのだ。空腹すら、感じているかわからない』


静かに言ったローレライに、頬をつつくイオンの手がピタッと止まった。
途端に険しくなるその表情に、シンクも同じようにローレライを睨み付ける。


「それ、どういう意味なのさ。こいつは貴族の子どもでしょ?この部屋が屋敷の中でも隔離されてることも、関係あんの?」
「それは本当ですか?シンク」
「……不本意ながらさっきこの部屋から出たからね。こいつの部屋は、まるで人目の付かない奥にわざと置かれてるような感じがした。使用人に様付けされるんだからこの屋敷の息子なんだろ?それにまだある。ローレライ、あんたは『リアン』と呼んでいるけどこいつの周りの人間はみんな『ルーク』って呼ぶのはなんでなのさ?こいつの特徴から言ったら、『ルーク・フォン・ファブレ』が正しいんじゃないの?」


問い詰めるようにシンクが口にすれば、ローレライは答え難いのか何か知らないが、うつ向いて黙ってしまった。
それに答えないとのは許さないとばかりに、イオンが追い討ちを掛ける。


「ローレライ、僕はある人物の計画を知っていて、その中で今キムラスカ・ランバルディア王国に居る『ルーク・フォン・ファブレ』はレプリカだと聞かされていました。そして死を目前とした僕の前に現れた彼に、お前はレプリカじゃないかと言った。けれど彼は違うと言いました。レプリカだと言う事実を認めたくない風でもなく、偽物だと言うのは変わらないと悲観するわけでもなく。ならローレライ、彼は誰なんですか。僕を助けたのは、一体誰なんですか?」


真っ直ぐに見据えて言うイオンと睨み付けるように見るシンクの姿に、ローレライも観念したのかようやく顔を上げて向き合った。
フローリアンだけは恐る恐ると言った感じだが、彼もまた知りたいことには変わらないだろう。
隠している場合でもなければ、己にとって大切な子どもの為にも、彼らには知って欲しいことだった。
さて、何から、話そうか。


『…そなた達には聞いて欲しい話だが、少々長くなる。構わないか?』
「黙ってられるよりマシさ。話してよ、ローレライ」
『そうか…いいだろう。まずはそうだな、イオン。ここに居る『ルーク・フォン・ファブレ』とされている子どもは、聖なる焔の光本人ではない。だからと言ってレプリカでもない』
「…オリジナルってこと?」
『ああ、そういうことだ』


言ったローレライに、シンクはどうしても「なんだ結局こいつも当たり前みたいに居場所を与えられたオリジナルなんじゃないか!」とそんな想いを抱いてしまった。
レプリカと言う事実はどうしたってオリジナルを憎らしく思わせる何かがあって、知らず知らずギリッと唇を噛んだ瞬間、しかしローレライに告げられた事実に、頭の中が真っ白になった。


『リアンは聖なる焔の光の双子の弟。その身に預言がなかった為に生まれてすぐ殺されそうになった、今はルークの代わりでしか生きることを許されていない、そういう存在だ』



世界からも、捨てられた、




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