シオンに言われるまま仕方なくレイラを探していたシンクが、急遽バチカルへ向かうこととなったアリエッタから事情を聞き、慌てて集会所へ飛び込んだその時には、既になんだかいろいろと遅かった。
バンッ!と勢い良く扉を開けて、一旦停止。
ぐるりと見回す間でもなくそこにはなかなか見たくもなかった光景が広がっていて、痛む頭を押さえてシンクはとりあえずシオンとルークの元へと足を運ぶことにするぐらいしか、したくなかった。
シオンの音叉攻撃を容赦なく喰らったのだろう。床にめり込む勢いで這い蹲っている某使用人にシャーベットを強請るフローリアンが見える時点でシンクは白旗を上げたい気分だったと言うのに、正直これはない。
……なんでまたあのオカメインコと殴り合いの喧嘩になってんのさ、ルカ。





「あ、ちょうどいいところに来ましたね、シンク。そろそろ夕飯の準備をしてくれるよう手配するのと、宿屋の手配もして来て下さい」
「して来て下さいじゃないよ!一体何なのさこの状況!と言うかそれよりもアリエッタに何頼んでんのさシオン!!」
「なにって…ここの街の警護依頼ですけど。アリエッタのお友達は本当に助かります。この分ならきっと間に合いますね、ギリギリ。どこぞの無能軍人のせいでいい迷惑ですが、髭を無視するわけにもいきませんし。妥当な判断でしょう?」
「1から10まで全部説明してよね!!僕は居なかったんだからその判断がどうかなんて分かるわけないだろ?!」
「ああ、そうでしたねシンク」
「なに?!」
「あの駄犬はどうしたんです?」


にっこりにこにこ。
よりによってこのタイミングで聞くのかよ似非導師…!!と。言えたならどれだけ良かろうか、と思わず思ってしまったほど、シンクはまさか見付ける前にアリエッタを見つけてしまって慌てて走って来たとも言えず…結局のところこの無茶苦茶な似非導師の言い分を聞くしかなく、泣く泣く宿屋へ向かった姿に黙って傍観に徹していたジェイドは心底同情していた。
困ったように笑んでいるイオンの隣でアニスの顔は引き攣っており、どうしたものかと困惑するだろうと思っていたノエルはルークの車椅子を任されてからそっちの方をどうしようと混乱しているようで、ほんのりと頬を赤く染めている2人だけは別空間に居ると仮定しても間違いないだろう。
ルカとアッシュの喧嘩はナタリアに丸投げして、シャーベットに飽くなき執念を燃やすフローリアンは某使用人に任せることにし、残った面々は地核振動停止作戦だけでなく残る外郭大地降下についての話し合い(と言う名のシオンよる嫌みダメ出し大会)となっていた。
超笑顔なシオンは頗る怖い。
本題に入る前に戻って来たシンクは、流石疾風だと言うべきか律儀過ぎて可哀想だと言うべきか…ちょっぴり悩んだ、ジェイドとアニスだったりした。



「現在起動済みのパッセージリングはザオ遺跡とシュレーの丘とタタル渓谷、その3ヶ所と言うことですか……思ってるよりもずっとペース遅いですね。あなた方被験者様は外郭大地降下ではなく外郭大地崩落の方がお好みだったりするんです?」


さらりと言ったシオンの言葉に、グサッと心に何かがえげつなく突き刺さったらしく、ジェイドの顔色さえも些か青白かった。
この時点でメジオラ高原のリングぐらい操作させときなさいな、無能軍人様?
と笑顔で言う辺りが居合わせた面々の中でも特にジェイドの心を容赦なく抉るばかりで、これにはシンクも流石に哀れに思い、ちょっとだけ制止をかけてみる。
勿論、通用しないとは分かっているからこそシンクもそこまで本気で間に入っていないのだが、この場に一番の非常識が居合わせていると、もう少し考慮しておく必要性はあったわけで。


「残るセフィロトはメジオラ高原とダアトのザレッホ火山とロニール雪山ですか…降下の指示自体はアブソーブゲートで最終にするつもりでしたっけ?ラジエイトゲートまで向かっている時間も無いでしょうし…ま、ラジエイトゲートぐらいは僕らも手を貸しましょう。他のセフィロト回れなくて時間切れになりました、となったら流石に手に負えませんが」
「そこまで詳しく知っているのなら、あなた達だって手伝ってくれればいいじゃない!」


お前このタイミングで口を出すのかよーっ!!と。
図らずも言った当人以外の心は1つになり掛けたこの場面で、笑顔だった導師(元)の顔から一瞬、ほんの僅かに表情が消えたことに気が付いてしまった面々は、凄まじく悪寒を感じる羽目になってしまった。
ルカとアッシュは気付きもせずまだ殴り合いの喧嘩をしていることがむしろ尊敬出来る程で…ああ、結局この襲撃犯何も分かっちゃいないのか、とジェイドもアニスも死んだ魚のような目をするしか、ない。
これは不味い、と。
このままではありとあらゆること全て巻き込んでシオンが笑顔でぶち切れ、この集会所の中でアカシック・トーメントをぶちかまし兼ねないな、と判断したシンクはそれからの反応が、早かった。
何か話せばいいものの、一番最初の、出会い頭での会話が今になって余程恥ずかしくなって来たのか、車椅子を支えながらも顔を赤くして硬直しているノエルに、とりあえず。


「ほら、行くよ、2人共」
「ぇ?あ、シ、シンクさん?」
「良いから声小さくして。シオンがこれ以上機嫌悪くすると面倒だから、早く」


小声で急かせば、一応我に返れたのかノエルは大人しく車椅子を押し、不思議そうに顔を向けたルークにはシンクがとりあえず適当に誤魔化して集会所の外に出ることにした。
音叉によって撃沈した某使用人のすぐ隣に、シャイニング・ウィザートを喰らったサフィールが虫の息だが、徹底した全員の無視っぷりに今更触れられる筈もない。
むしろジャーマン・スープレックスを阻止してやっただけマシだとも…言えるわけがないとはシンクも分かっていると言えば分かってはいるが、ま、何にせよ今のシオンの機嫌を知っていて尚、サフィールを庇い立てする気の方が、なれやしなかった。



「宿屋に行って待ってた方が良いからさ。ノエル、頼むけど車椅子、押してくれない?僕はこっちの荷物持たなくちゃいけないからさ」



ま、忙しかったりするなら別にいいけど、と。
言えば、慌てながらも「大丈夫です!」と了承したノエルに、シンクはルークが一度驚いたように目を見張ったあと、頬を赤く染めてジィッと睨み付けたのが分かったが、そこは気付かなかったことにしておいた。
後々のことを考えると、本当ならずっと、酷なことをさせているのかもしれないけれど。
シンクの目に、ノエルとルークは、とても優しい形で映っていた。
まだまともに話したことはなくても、話せなくても、それはシオンとアリエッタのような、そんな風に、映っている。


だからこそ、ああ、残酷なのかもしれないと、そう思った。



だって、先がない。
描く未来の、隣に朱はない。





「どうかしたのか?シンク」
「シンクさん?」


少しの間ぼんやりと考え込んでしまったのか、いつの間にか歩みを止めてしまっていたようで、首を傾げて聞いた2人に、シンクは慌てて取り繕うように「なんでもない」とそう答えた。
今頃シオンが毒づいていないか気になっただけ、と返せば、それ以上聞いて来ないのは、ルークの優しさだと知っていて、そこに甘える。




命の終わりが見えていると言うことは、ああ、そういうことなのか。







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