陽の光に溶け込むような、この街の夕日を思い出させるような朱色の髪と、どこまでも澄んだ翡翠の瞳に、思わず綺麗だなと思ったら、そこから動けなくなってしまった。
見つめてしまって、目が、逸らせない。


綺麗な人だと思った。
そして雰囲気からしか分からないけれど、優しそうな、いや、優しい人だとも。
白過ぎる肌や、細い腕、華奢な体格に思うところもあるけれど、それよりも、瞳の色に、目が奪われる。


なんて、美しい、人。






「ノエル?どーしたの?ねぇ、ノエルってば」


立ち尽くしたまま動こうとしないノエルに、シャーベット視察と言う某使用人イジメから帰って来たフローリアンがそう聞けば、ようやく我に返ったらしいノエルが顔を真っ赤にさせて慌ててフローリアンを見た。
きょとんと目を丸くしながら、右手にスプーンを持って飛び出して来たらしい子どもの姿に、その不思議そうな表情に、ノエルは何と言っていいのか分からず、益々顔を赤くして挙動不審気味になってしまうのだが、どうにか一度落ち着こうと深呼吸してみて、一緒に繰り返すフローリアンに思わず笑ってしまうが、仕方ないだろう。
一度呼吸を落ち着かせてから、ノエルはもう一度車椅子に座る彼に、ルークに向き合って、言った。


「ごめんなさい、ルークさんの瞳の色とか髪の色が凄く綺麗で、ついつい見惚れてたんです」


言えば、その言葉に嬉しそうに顔を綻ばせたのはフローリアンとアリエッタ、それにルカの3人だった。
満更でもなさそうなのはシンクだったりするのだが、表には欠片も出さない辺りが、流石と言うべきところだろう。
「でしょ?僕らもルークの色、すっごく綺麗だと思うんだ!」と、笑顔で言うフローリアンに、一応男性相手にそこまで綺麗を連呼するのは如何なものだろうか、と傍観に徹していたジェイドは密かにそう思った。
言われた当人であるルーク自身、きょとんと目を丸くしているのはそう言われると思っていなかった部分もあるだろうが、それでも穏やかに笑んでみせるのは、好意を向けられることに気を悪くするような人ではないとジェイドとシオンなんかは思っていたのだ、が。



「ありがとう。でも、ノエルの髪の色の方が綺麗だと思うよ?陽の光に照らされて、きらきら光ってて。うん、凄く綺麗な、金色の髪だ」


微笑んで言ったそのルークの言葉に、先程とは比べ物にならないほどノエルは顔を真っ赤にさせて、口をぱくぱくと動かせ、でも結局何の言葉も放てやしなかった。
ルカが意地悪く笑っているのは、流石にここでこの空気に気が付けないほど幼いわけではなかったのかもしれないが…むしろ、幼いからこそ、そう言ったことをすぐに思い浮かべたのかもしれない。
フローリアンが「僕は?僕の髪はどんななのー?」と聞いている辺り、「空気読めよバカ!」とシンクは頭が痛くなって来るのだが、むず痒いこの雰囲気はちょっと辛い。
地面に這いつくばっているディストを無言のまま足蹴にしているシオンがだいぶ怖かった。
てっきり超笑顔で虐めているとばかりシンクは思っていたのだが、しかし少しだけ様子を伺おうとその姿を横目で見て、思わずきょとんと目を丸くしてしまう。
それからほんの少しだけつい、笑ってしまったのだ。


まさか、幼い子どもみたいに拗ねて口を尖らせているなんて、誰が思ったのか。




(…あのシオンが、焼き餅を焼くなんて、ね)



そこまで考えれてしまったら小さく堪えた笑い声を堪えきれなくて、口元を押さえた時には既に遅く、シンクは不機嫌さを露骨に表したシオンに睨み付けられたけれど、肩を竦めただけだった。
こればっかりは自分のせいではないし、顔を真っ赤にさせているノエルが単に照れているだけなのか真意は分からないが、こればかりはほぼ確定的だろう。

人が誰かを好きになる瞬間を、シンクだって初めて見た。



彼は優しい人だけれど、あんな声色で初めて会った人に言葉を掛けることは、今までなかったのだから。




「さて、一応然るべき面々は揃ったことですし、そろそろ詳しく話してもらいましょうか?オカメインコと愉快な仲間達さん?」


にこりといつものようにどこか腹黒さを感じる笑顔で笑って言ったシオンの態度に、強がりだと気付けたシンクは、これは困ったと苦く笑うばかりだった。
とりあえずご愁傷様、世界を救う御一行さん。



八つ当たりをされるだろうけど、まあ、頑張ってよね。







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