宙を舞い、リビングの床に顔面から着地したかつては派手だったらしい服装をした男の姿に、きょとんと目を丸くしたのはソファに座っていたルークだけで、他の面々は特に何も思わなかったようだった。
出だしにシンクの疾風雷閃舞を喰らい、次いでイービルライトに秘奥技でも何でもなくフローリアンとルカに背中の上で飛び跳ねられたあと、一切の躊躇無く鳳凰天翔駆を見事に喰らい、止めとばかりに極めつけアカシック・トーメントは、流石に酷いんじゃなかろうかとルークは思うが、まさか言い出せる雰囲気でもなく、あれだけ凄まじい攻撃を繰り出したと言うのにちっとも荒れていない室内に感心するばかりである。
呻き声を上げていた男がやがて静かになったことに少し不安になって立ち上がろうとしたのだが、ルカに手を掴まれガイに宥められ、アリエッタにケーキを差し出されてしまえばどうすることも出来なかった。
呆然としていれば、にこにこと笑みを浮かべたシオンが、男を足蹴にしつつ、言う。



「ただいま、ルーク。ああ、良かった。顔色は大分よくなったようですね。きちんとご飯食べてましたか?睡眠は?まさか無理はしてませんよね?」


心配そうに声を掛けながらも、足元ではさんざん床に這い蹲る男を痛めつけつつ笑顔を浮かべているシオンに、ルークは「あれ死ぬんじゃなかろうか…?」と思いはしたものの、シンクが止めようとはしなかったので大丈夫だと判断することにした。


「お帰り、シオン。そんなに心配しなくても大丈夫だよ。ガイも居てくれたし。そっちこそどうだった?冷え込んだらしいけど、風邪とかひかなかった?」


心配するところが果てしなくズレてるからルーク…!と、側で聞いていたシンクはついついそう思ってしまったが、聞かれた当人が満更でもないような顔をしていたので、まあ良しとすることにした。
フローリアン、アリエッタ、そして今はバチカルに居るイオンもルークにべったり引っ付き虫 だったのだが、そこに加えてルカまで増えて…正直シオンが焼き餅でも焼きやしないかとシンクは不安だったりしたのだが、どうやらそれは杞憂に過ぎなかっただけらしい。
刷り込みの技術を施されてから目覚めたルカは、レプリカとして生まれたのは5年前だがきちんと意識を持って目覚めたのは1年前と言う年齢を考えるにも些か複雑過ぎる事情を持ってはいたものの、明らかにフローリアンと同等かそれより幼い彼の姿に、シオンが大層気に入ってしまったのは明らかだった。
両手に花状態が出来るとアルビオールの中で言っていたのは空耳でも何でもなく、とりあえず面倒臭い足元の人間には、慈悲も何も与えるつもりがないのは、さて、どうしたものか。



「大丈夫ですよ、ルーク。シンクは別に風邪を引くほど賢くもないので」
「…おい、ちょっと待て似非導師。なに?喧嘩でも売ってるわけ?」
「お望みとあれば大量に売りつけて差し上げますが」
「ごめん僕が悪かった」
「分かれば良いんですよ分かれば。さて、それはともかくです、ね?」


にっこり笑んで言うシオンの言葉、態度、その雰囲気にシンクは少しは機嫌が良いだろうとそんな楽観視していた先程までの自分をひっ叩いてやりたくなった。
チャキッ、と。
何だか手にしていた音叉を構えるにしてはおかしな効果音が聞こえた気もしたが、とりあえず躊躇無くその武器を突き付けられた某使用人に合掌しつつ、シンクはそそくさとフローリアンの隣にまで避難する。
見ていて哀れなまでに涙を溢している洟垂れディストはさておき、にっこり超笑顔で今にも殺さんばかりに音叉を眼前に突き付けられた某使用人の顔色は真っ青だった。
焼き餅焼いていたんだね。物の見事に、その金髪だけには。


「さあ、とっととアルビオールにでも乗ってオカメインコ達の元にでも戻ってもらいましょうか?ゲイ・セシル。お留守番は終わりです。そこは僕の場所です。分かったら荷物をまとめて去りなさいな。ダアトの恥曝しがノエルと一緒に待ってるんですよ」


凄い貶しっぷりに一瞬ガイだけでなくシンクとルカの顔さえも引き攣ったが、相変わらずルークはわかっていないようでフローリアンと一緒に首を傾げていた。
自分の取り皿に乗せられたケーキを一口のサイズにフォークで切って乗せ、フローリアンに食べさせているその姿に普段だったらシンクの小言が飛んで来そうなのだが、優秀な元参謀総長殿は、そこまでの余裕がないらしい。


「だ、だが、俺はルークの側に居たいって何度…!」
「大鋸屑しか詰まっていないような頭でも良く聞きなさい、ガルディオス伯。あなた方はこれから外郭大地降下作業に入らなければならないのですよ?キムラスカからは預言に詠まれている『ルーク』とナタリア殿下。ダアトからは導師イオンと導師守護役。マルクトから死霊使いだけでは均等ではないでしょう。あなたは腐ってもマルクト貴族なのです。バランス取る為にさっさと合流なさい今すぐ合流なさい僕らの家から早く出て行きなさい」
「ちょっと無茶苦茶じゃないのか?!」
「それが摂理です」


にこやかに告げたシオンの言葉に、ガイは「横暴だ!」と嘆いたが次の瞬間、問答無用で部屋から追い出されていた。
桁違いのアカシック・トーメントを前に、シンクはレプリカと被験者ではこうも違うのかとうっかり呟いてしまったのだが、すぐに「響律符で底上げしたんですよ」と返され、グランディオーツなんかを見せられてしまえば、もう何も言えなくなってしまう(どこで手に入れたんだ?それ、なんて聞けるものか!)。
さり気なくダアト代表から一人削っていたことにもツッコミを入れれるような強者は居らず、にっこり笑んだシオンは床に這い蹲ったままのディストの頭を鷲掴みにして無理やり顔を上げさせて、視界にルークを入れるように動かした。
毛根が死滅でもするんじゃなかろうかと言う動きにシンクとルカは微妙に顔をしかめはしたものの、未だに部屋に戻ろうとする使用人をアリエッタのお友達が無理やり引き摺って行ったのを見送るばかりで、口にはしなかった。


「さっさと自力で起きなさい、サフィール・ワイヨン・ネイス博士」
「わ、分かりましたから離しなさい!離して下さい!」
「いい子ですね。ではネイス博士。あなたの仕事と言いますか、マルクトで処刑されない為の条件をお教えして差し上げましょう」


その言葉に不思議そうに首を傾げたのはルークだけでなく、全員が全員同じような反応だったのだが、続くシオンの言葉に、シンクなんかはうっかり机に頭を打ち付けしまっていた。




「今日この時からあなたはルークの主治医ですので。よろしくお願いしますね?サフィール」



すみません、展開について行けないんですけれど。と、言えたらどれだけ、良かったことか。




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