頭の痛くなる展開だったが、とんでもないことになったとまでは、仮面を外し、素顔を晒したシンクもそうは思わなかった。
アホ面晒した国王陛下から順々にキムラスカ側の反応を眺め、ついでに同行者共の間抜け面を見て、鼻で笑う。

どうせ区別がついてないんだろう、とは言わないし、思わない。自分たちにとって、唯一人が気付いてくれるなら、その名を呼んでくれるなら、それで構わない。

だからこそ、当初の予定通りバチカル城を吹き飛ばす、なんて方法を取らなかっただけ、マシだろうにと。
そんなことを考えたりも、してるのだが。




「な、なぜ貴様らがここに…!」
「大詠師モース」
「!」
「いいえ、『元』大詠師と言うべきところでしょうか。よくもまあ、これほど見事なまでにダアトの面を汚してくれたものです。自分の身分を考えたらどうですか?ああ、違いますね。失礼。身分と言う概念さえなかったのでしたね。一国の王の側に控えれるほど、お前の身分は高くないと言うのに」
「−−−っ!!?」


あなた、どころではなくいっそ清々しいまでにお前と呼んだ『導師イオン』の姿に、モースは驚き目を見張ったものの、碌に言葉も何も出て来やしなかった。
フードを取った、4人の同じ顔をした少年の姿に、1人は髪型から六神将烈風のシンクとわかるが、あとの3人は区別さえも付きやしない。
それよりも何故、とモースはただ慌てふためいた。

あれらは破棄した筈の存在だ。
『導師イオン』のレプリカなど、ザレッホの火口に処分させたと言うのに−−−!




「モース!これは一体どういうことじゃ!!」


困惑のまま、怒鳴りつけるように言ったインゴベルトの言葉に、モースはここでようやく我に返って、自分が『元』大詠師だと言われたことも忘れ、慌てて無理やりにでも取り繕おうと、捲くし立てた。


「へ、陛下!あれは、導師イオンの偽物で御座います!おそらくマルクトが差し向けたのですぞ!あの国にはフォミクリーと呼ばれる技術の発案者が居ります…騙されてはなりませぬ!この者たちはレプリカと呼ばれる、人間のまがい物ですぞ!」


まあ何とも醜態を晒しに晒した言い訳だと、導師イオンはにこやかに笑んで拍手を送った。
明らかに馬鹿にしきったその行動に、ルークは習って拍手を送ろうとし、その側に控えていたフードを被った長身の男に、やんわりと止められている。
真っ青な顔色をしたアニスに、既に元となってしまっているが抱え込んでいたスパイの姿に、モースは気付いておいた方が良かったと言うのに、笑みを絶やさぬ導師イオンしか見えていないのが、愚かなことだった。
シンクなんて呆れて目も合わさない。
やっぱり馬鹿だ、このメタボ。



「レプリカを人間のまがい物と言うのは相当気に食わないですが、造り出したお前がそれを言いますか、モース。そこに居る死神ディストと現在指名手配中の元神託の盾主席総長ヴァン・グランツとそしてお前。3人が共謀し『導師イオン』のレプリカを造り出したことは証拠も挙がっているのですよ。馬鹿だ馬鹿だと思っていましたが、『導師イオン』が死ぬと言う預言が外れている以上、既に譜石などただの石ころ同然だと言うのに…嘆かわしい」
「馬鹿を言うな!貴様らのような出来損ないが、導師イオンに成れる筈がないだろう!!」


指を差してまで言ったモースの言葉に、びきっと導師イオンの額に青筋が浮かんだのを、シンクは見逃さなかった。
…物の見事に地雷を踏んだな、あのビヤ樽。
隣を見ればもう一人の『導師イオン』は楽しそうに合掌していた。…どこで習ったんだ?


「ふふふ、だからお前は馬鹿だと言っているのですよ、モース。確かにレプリカは被験者にはなれません。レプリカが預言に詠まれた『導師イオン』にはなれないでしょう。ですが、一つお見せしてあげます。フローリアン」
「はーい!」


元気よく返事をしたフローリアンは、導師イオンと同じ服を着た姿でトコトコトコ、と『導師イオン』の隣に並んだ。
見れば見る程瓜二つなその姿に、インゴベルトとクリムゾン、そしてキムラスカ側の重鎮共の顔が思い思いに歪むが、そこは気にもせず『導師イオン』は言う。


「レプリカと言うのは例えば髪だったり爪だったり、そうした一部がその体から離れてしまえば、音素へと還るのはご存知でしょうか」


にっこり、微笑んで言った『導師イオン』の言葉に合わせて、フローリアンはあらかじめ渡されていた短刀で、髪を少しだけ切った。摘んでいた指先から、その緑色の髪が音素へと還る瞬間に、インゴベルト達が息を呑む。
次いで微笑んだままの『導師イオン』が同じように髪を切って、見せつけるべく玉座へと向けて手を差し出した。

鮮やかな、緑の髪を。


消えることなど、ない。





「「−−−っ!!?」」


決して音素に還ることなく、変わらず存在し続けている緑の髪を手にした少年に、導師の姿に、こればかりはモースやインゴベルトだけでなく親善大使一行も驚き目を見張っていた。
むしろ裏話を知っているだけ、親善大使一行の驚きの方が大きいようにも思える、が…ダアト側の人間には負けるだろうと、シンクは呑気に、考えている。
モースは怯えたように震え出し、ディストに至っては顔面蒼白だった。
苦々しい思い出しかないのだろう。
幼いならばそれ相応にお飾りであれば良かったと言うのに、何一つ思い通りに出来なかった、少年だ。



「お久しぶりですね、モース。二年前、あなたが殺し損なった、預言にその死が詠まれていた『導師イオン』ですよ」



わざわざあえて丁寧に言った『導師イオン』の言葉に、モースだけでなく謁見の間に居合わせた人間のほとんどが、絶句して何の反応も示せなかった。



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