ジギタリスに口寄せた、 後






エコーが掛かるにはうっかり今日がエイプリルフールと呼ばれる日ではないことを確認しに行きたいような発言ではあったが、本格的に現実逃避をするには第三者にとってはあんまりにもあり得なさ過ぎる発言で、既に何人かの時が止まっていた。



「おれ、赤ちゃんできた!!」



たー!たー!たー!…っと。
もう何度でも同じ表現をしてしまうぐらいのとんでもないルミナシアのルークの発言とその破壊力にギョッと目を見張った人間は数知れず。本当に幸せそうに微笑むルークの姿に一部の人間がルークがあんなに笑顔ならそれでいいじゃないか!と納得しかけていたが、そういう問題じゃないだろうとリオンなんかは全力でツッコミを入れたくもあった。主にロイドやコレット辺りに。それでいいのかと思ったのはリオンだけでなくグラニデのルークもだったりするのだが、迂闊にツッコミを入れると後々大ダメージとなって跳ね返ってくると知っているので、賢い選択として言わないだけだった。
爆弾発言では済まないことを言ったルミナシアのルークの言葉に、とりあえず周りの様子を見ると言うことで大絶叫を流して1、2、3。
阿鼻叫喚、地獄絵図などと言ったら凄まじくブーイングを喰らうだろうしそういうこととはまた違った騒々しいひと時の後に沈黙がとりあえず訪れ、そうして最初に動くことが出来たのはなんと言うべきか、やはりアッシュではあった。
異世界の弟グッジョブ。ただこういう時のアッシュって結構ネジが外れてるからちょっと不安なんだけどな、と思っているグラニデのルークはなんだかんだで数歩引いていた。後ろは壁だが、ここは止められると思っていないので。


「―――っふざけるなよ!貴様!!」


おっ、流石アッシュ。男が子どもを孕むなんてハロルドの実験対象にならない限りはあり得ないことに真っ先にツッコんでくれるのか!!
と、何人かはそう思ったのだが、まあ、そんなわけがなかった。


「よくも人の姉上にそこまで手を出しやがったなこのニートが!!!!式も挙げてないどころかプロポーズもしてない癖にデキ婚か?!!ふざけんじゃねーぞこの屑がぁああああーーーーっ!!!!!!!!!」


怒声罵声どころか一気にオーバーリミッツまで発動させたアッシュの言葉に、事情を知らないメンバーが一斉に「ええええーーーっ??????!!!!!!!」とあくまで心の中で叫んだが、伝わるわけもなければアッシュは止まりそうになかった。
一気に戦闘開始になりそうな雰囲気にあのアンジュすらも呆然としてしまって止めるタイミングをものの見事に逃しており、ストッパー役は誰しも機能しそうになかったりもする。
いよいよ剣を交えなければどうしようもなさそうな空気に対し、幸せたっぷりかなり浮かれきったユーリが渋々ゼロスにルークを託したが、嫉妬独占欲丸出しなユーリはバンエルティア号を抜け出して様々な思いに揺れていたルークを一晩で立ち直らせて嬉しそうに妊娠したことを告げれるまでにメンタルを回復させたゼロスを本格的に聖職者としてカテゴリに入れたようで、とりあえずゼロスが泣いた。ある意味この点に関してはフレンのせいだったが、秘奥技の連発を喰らうような事態を避けれたのでまだマシだった。
考えられもせず即排除された選択肢の一つであった筈の、ある意味同一人物なグラニデのルークにはかなり失礼な話ではあったが、まあ仕方のないことだった。全てのきっかけが、ある意味最低なきっかけと言えばきっかけだったので。



「おい、俺も加勢するぞ」
「アッシュ様…!すみません、ありがとうございます。共にあのニートを抹殺しましょう」
「今の俺たちならやれる筈だ…行くぞ!」
「はい!」
「「貫け!!武神双天波!!!」」


やれる筈がぬぇえええええええええええーーーーーっ!!!!!!
と、思えたのが一体どこからどこまでの人間だったかは全く分からなかったが、それはさておき。
組み合わせとしてはユーリの称号次第であながち間違っちゃいない可能と言えば可能な合体秘奥技だったが、リヴァイブがついていない筈のユーリはやっぱり次の瞬間にはHPが最大にまで回復して蘇っており、アッシュが露骨に舌を打ちフレンが続け様に緋凰絶炎衝を繰り出していた。術技どころかリミッツゲージもお構いなしだった。
「なにやってんのよあんた!!」とリタが言おうと聞いちゃおらず、続けざまにまた技を繰り出そうとする姿にギョッと目を見張っていたものの近くに居たレイヴンが動きをみせたことから止めようとしてくれるのかとリタからすればかなり珍しくレイヴンに期待したのが「悪いけど、おっさんもフレンちゃん達の味方かなー」と言って弓を構えられたことに硬直し、大剣を構えるルカやすっかり戦闘モードで殺る気満々なエミルを前にどうすることも出来なくなり、そんな姿にグラニデのルークは苦く笑うしかない。
呆然としているよりも流石に話を聞いてもらったからかルミナシアのルークはユーリ達をそっちのけでゼロスを慰めているようだったが、もうこの時点でゼロスは普段の態度は強がりで実はかなりのいい奴だと言う印象が根付いてしまったあとだったので、意味がなければ手遅れでもあった。
と言うのか、至る所で手遅れ過ぎて収拾がつきそうにないです。


「大体貴様は考えなさ過ぎなところも全てが悪い!!行き当たりばったりで人生乗り越えれると思うんじゃねーよ職につけ屑がぁーーーっ!!!!」
「アッシュ様の言う通りだユーリ!君って人はほんとに何も考えちゃいない!!恥ずかしいとは思わないのか!そんな生き方をしていては世の成人男性全てに君は失礼な生活を送っていることになるんだぞ?!働くことをしろ!ユーリ!!」
「だからよ、お前ら致命的に言葉が足りてないんじゃねーの?肝心なところを俺もルークももらってないんだが。働けよりここはあれだろ?この度めでたくパパとママになる人間にさあ普通はなにを言う」
「自分のキャラ捨ててまで浮かれまくってる青年にそれを言うのはなかなかに癪でちょーっとおっさんも言いたくないかも」
「……俺のルークに手を出しやがって…許さん!!」


キャラ捨てた人間ならここにも居るぞ、とうっかり思ってしまったぐらいの地を這うような声で言ったガイの言葉に、誰が何の反応をするより早く鳳凰天翔駆が繰り出され、ガイ様華麗に天井に自ら突き刺さりに行った。そのモーションは室内で出すにはかなりまずいものだった。喰らったユーリは流石に一部の人間からルーク馬鹿とも言われるガイのその渾身の一撃に多少動けないで居たのだが、天井からぷらーんとぶら下がるガイの姿に「なにやってんだこいつ」と言うような目で見てしまったのだが、それよりも大多数の人間にはトラウマになりそうな光景だっただけに、そんな呑気なことを考えている場合ではないだろうとツッコミを入れたいがまず不可能である。
何が恐ろしいかと言えば首だけ天井に突っ込んでフレームアウトしているその絵面に気付いたルミナシアのルークが「ガイ?」と名を呼べば一瞬で瞬間移動をして主人を抱きしめに行ったところだった。思わず叩きのめしてしまったクロエの判断は間違っていない。容赦ないなぁ、とグラニデのルークは思ったが止めることはしなかった。
至る所で混乱中なのは、仕方のないことだろう。ここまでなってしまえば。



「……っいい加減にしなさいよ!!あんた達ーーーっ!!!!」


我慢の限界が訪れたのか、リタがそう叫んだ7時30分過ぎ。
朝から元気がいいなぁ、と現実逃避をしてぽっかり壁に空いた大穴から見えた空は、嫌味なぐらい晴れ渡っていた。









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