〔1〕ローレライの馬鹿な説明まとめ

1、オールドラントのルークとローレライは同一の存在で、ルミナシアのルークもまた、二人に近い存在であること。
2、オールドラントでルークは消えてしまうだけであり、阻止する為にテルカ・リュミレース送る際、通過点であったルミナシアで誤ってルミナシアのルークにオールドラントのルークの記憶が流れ込んでしまったと言うこと。
3、ローレライが気付いたのはルミナシアでは半年も過ぎてしまった時と言うこと。
4、一度流れ込んだ記憶はローレライの力を持っても、消すことは出来ないと言うこと。
5、7歳の子どもが受け取るには重い記憶だったらしく、ルミナシアのルークは何かしら心に傷を負っていること。
6、テルカ・リュミレースで過ごしていたルークが現在死の危機にあり、ローレライがルミナシアのルークに助けを求めたこと。
7、一時的に体を借りるだけの予定が、ルミナシアのルークの意志で存在をオールドラントのルークに書き換えようとしていること。
8、ぶっちゃけてめぇの説明でわかるわけがねぇだろ出直して来いやくたばれローレライ。




「……なかなかにこれは酷いのではないか?ルミナシアのリタ・モルディオよ」
「何か言った?別に間違ってないでしょ」



苛立ちを隠すこともせずそう返したリタに、けれどローレライは特に何か気にすることもなく机に置かれた用紙を上から覗き込んでいた。
通訳がいなきゃなんだか上手く理解出来ない内容に、なら試しに書いてみたらもう少し分かりやすくなるんじゃないかと言い出したのが誰かなんてもう忘れたが、ユーリはこれは失敗だったな、とますます鬱憤を募らせていくリタを横目に、壁に背を預け、人集りから一歩引いてみる。必死になって理解しようとするエステルの隣で、ディセンダーが机に突っ伏して寝ていたが、やけに難しい顔をしたフレンもどこか遠い目をしたアスベルも何も言わなかった。構っていられる程余裕がないと言うよりは、さっきから寝言のように「ダメです、セクシュアルハラスメントは最低な行為です…」と明らかに悪意しかないことを呟いている自分達の世界の救世主を直視したくないだけな気もするが、まあ、どうしようもあるまい。「ああ、年齢的にはロリコンだなんて…」と続いた言葉には、流石に頭を叩いてしまったが(誰も7歳児の方には手を出すつもりはねーよアホ)。



「あのね、そもそも事の発端であるオールドラントのルークが何でその世界では生きて行けなくなったわけ?その問題がなかったらテルカ・リュミレースに送る必要はなかったしこっちのルークが記憶抱える必要はなかったでしょう?大体他人の記憶を抱えるなんて量が多かろうが少なかろうが下手すれば発狂するような出来事だし結局あんたの詰めが甘いのよアホ精霊!しかも結局テルカ・リュミレースでもオールドラントのルークは生きていけなくなるわ挙げ句記憶抱えて負担の掛かってるこっちのルークに余計背負わせてどうすんのよ!助け求めるにしたってそれこそグラニデのルークとか別世界のルークに頼むって選択肢はなかったってわけ?!と言うかそもそもあんたがオールドラントのルークと同位体って言うなら、それに近い存在ぐらい把握しときなさいよ!7歳の子どもに背負わせるには重い記憶って結局何のことかどういう内容なのかこっちは一切わかんないんだからどうしようも出来ないしあんたのせいってだけで済む問題じゃなくなってんでしょうが!!」



罵声でもぶつけられた方がまだマシだったんじゃなかろうかと思うぐらい、一番現状を理解出来ているらしいリタが浮かんだだけの問題点を一気にローレライにぶつけた瞬間だった。

…ノンブレスで言い切るのか、この量を。

間近で聞いていたエステルなんて右から入れたら一度脳内で爆発して撃沈する寸前だった。
こればっかりはフレンも呆然としてやがる。ディセンダーが起きたことは、利点と取るかそうでないかは、甚だ疑問の出るところだが。



「そう言われると、耳が痛い。我とてここではないグラニデのルークや別世界のルークの力を借りようとはしたのだが、ダメだったのだ。我が干渉するには、どうしても我と近い存在でなければならない。ルミナシアのルークは唯一、オールドラントのルーク以外で最も我に近い存在なのだ。声を送れば、頭痛を伴いはするが、届くぐらいに。精霊と干渉する力を、持ち得るぐらいに。記憶を共有したことによって、繋がりも更に確かとなった」
「で、その記憶ってなに。オールドラントのルークがその世界で生きて行けなくなったそもそもの理由とか、こっちのルークが自分の命よりもそっちのルークを優先させるのはその記憶が関係してるんでしょう?とぼけるのは無しだからアホ精霊」
「……痛いところを突くのだな、ルミナシアのリタ・モルディオよ。確かに、ルミナシアのルークが自身を省みず存在の書き換えをしている理由は、『聖なる焔の光』としての記憶にある。それこそ、我の提示したルークを救う方法を、無視してまでな」
「ちょっと待って!それってオールドラントのルークを救うのに、別の方法があるってこと?」
「その通りだ。大体存在の書き換えなど、我とて望んでなどおらぬ。オールドラントのルークは個として保つことに限界が来ていたからこそ、ルミナシアのルークに器を借りて、我に会いに来るだけで本来ならそれで良かったのだ。それで、『ルーク』は助かる筈だった。世界樹に居る、我の元に来てくれるのならば」



サラッと言ってしまったローレライの言葉に、呆然と目を見張ってリタは何か返せる言葉を持つことが出来なかった。
大きな樹のところに行けばいいのだと、この世界に来てから、拙くも説明した『ルーク』が、そう言っていたのが頭に過ぎる。

本当だったのか、なんてそんなことを思うよりも早く、自分の手足が、ローレライに向かっているのをどこか冷静に見ている感覚に、ユーリは少しだけ落ち着けれるかと思ったが、無理だった。



助かる方法があると言うのに、それを無視したと言うこと。
自分の命と引き換えにでしか方法が無いのではなく、他を無視して存在を書き換えようとしてるのは、つまり。

つま、り。






「おい、ルークを出せローレライ」



胸ぐらを掴み上げ、睨み付けるように言い放ったその言葉に、エステルやフレンが「ユーリ!」と非難めいた声を上げたが、気にしてなどいられなかった。
掴み上げて、離さない。
苦しいだろうに、しかしローレライは静かに首を横に振っただけだった。
これはルークの体だ。
あいつの体なんだと、わかっていると言うのに、沸騰する程の感情の矛先はローレライと言うよりもルークに向いているからこそ、今このときに限っては構ってなどいられない。

なぜ、と問いたださずにはいられなかった。
なぜ、自分から死のうと、しているのかなんて。



「今そなたにルークを会わせるのは容易い。だが、ルークの意志を覆すことは、容易ではないぞ」
「だからってこのまま黙っていられるわけがないだろ!出せよ!ルークを出せローレライ!」
「……我が干渉していることで、ルミナシアのルークは我と同等の力を持っている。意志を変えることも出来ず、下手にあの子を追い詰めれば存在の書き換えは一気に進むぞ。我が戻すにしても、限界がある。主導権は、ルークの方が強いのだから」



自分の命よりも『ルーク』を救いたいと言う意志が働いている以上、いくら戻したところで何度だって書き換えは進められるし、主導権はルークにあるからこそ、決定的な手遅れになる可能性の方が高いから、会わせられない。
そう言ったローレライの言葉に、ユーリは胸ぐらを掴み上げる手を離すしか、なかった。
苦々しく顔を歪めて、苛立ちのまま机を拳で叩く。


認められる筈が、なかった。
あの子どもが消えるなんて、そんな。




「…そう考えるのもみんな、オールドラントのルークの記憶のせいってこと?」



聞いたリタの言葉に、ローレライは静かに頷いてみせた。
オールドラントの、ルークの記憶。
それは7歳の時に、こいつが見た、はじまりの記憶。

その根底を揺るがした、『ルーク』の、記憶。




「見せろ、ローレライ。その『ルーク』の記憶を。7歳のガキに背負わせた記憶を、俺にも見せろ」



それは、正直に言って『ルーク』のプライバシーだとか一切無視した行為だとは、わかっていて、けれどその上でユーリは、はっきりとそう言った。
そこに理由があるのならば、抱え込んででも、その意志を覆してやる。

ローレライが『ルーク』を大切に想っていることはわかるし、また幸せになるべき子どもだとは、ユーリだってそう思った。
だが、その過程でルークが消えるのなら、話は別だ。



失えるものか。
みっともなくとも、手を伸ばすことは、諦めない。




「−−なら、俺にも見せてもらおう。そのオールドラントの、ルークの記憶とやらを」



考え込むようにローレライが押し黙ったその時に、ふと研究室の扉が開くと同時に、そんな言葉が振って来たから、自然と全員の視線はそちらへ向けられた。

あの朱色とは違う。
長い紅の髪が、ゆらり、揺れて。









〔2〕聞き耳を立てるつもりでは、なかった。けれどホールで心配そうに研究室の方ばかりを見ていたロイドとコレット、そしてクレスの言葉に、砂漠へ出ていたあの屑とは違うと言う7歳のルークが、何か騒ぎ立てながら研究室へ入っていたと言うことで、中に入るつもりで立った扉の前で、聞こえた会話に、足が全く動かなくなる。
一切理解出来ない、理解しようとも思えない筈の内容に、しかし立ち去ると言う手段はどうしても取れず、結果聞こえた内容に口出しせざるを得なかった。

欠片も理解が、出来なくとも。




「へぇー…普段さんざん兄貴のことを馬鹿にしてる弟が、珍しいな。どんな風の吹き回しだ?」



言ってる言葉こそは人を茶化していると言うのに、その瞳がどこまでも鋭く、果ては殺気まで含んでいるのではないかと言うユーリの視線に、けれどアッシュは怯むことなく、自分の兄の姿をした存在へ向かい合った。
あの兄とは違う。そして7歳だと言うあの『ルーク』でもないそいつを、真っ直ぐに見据えて逸らそうとはしない。
精霊だと言うのは、扉越しでも微かに聞こえていた。
それもまた、事実であることも。



「ふん。俺だって好き好んで顔を出したわけじゃねぇ。だが、ローレライと言ったな。こいつが7歳だった時のあいつに、あのガキの記憶を流し込んだのだろう?なら、そこにあいつがああも変わった原因がある筈だ。俺は、それが知りたい」
「変わった…?」
「…7歳の時に部屋から一歩も出ず、それから1年も何かに怯えずっと引きこもっていた。理由がそこにあるなら、無視出来ることじゃねぇ」



聞き捨てならなかった部分は正直そこだけだったが、朧気な記憶の中。それだけは鮮明に残っていた。
ある日突然、自室から一歩も出ようとしなくなった兄の姿。
父にも母にも、ナタリアやガイ、そして俺にまでも怯え、全身で拒絶していた、あの1年。

そうだ、確か昔は、幼い頃は、どちらかと言えばあいつの方が弟みたいな感じで、ずっと一緒に着いて回っていた。



笑わなくなったのは、いつからだ。
あの頃の表情が消えたのは、何がきっかけだったのか。



(あの黒髪の男に向ける表情に、苛立ったのはそうだ。もう随分と見なかった表情だからだ。)




「見せろ、ローレライ。理由となった、その記憶を」




言えば、嫌そうにユーリが顔をしかめていたが、アッシュは何も見なかったことにした。
こいつの心境など、知ったことか。



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