vs腐男子


うふふ、ふふ。
純(ジュン)くん純くん、何この子、かわいい、かわいい!

「竹田」

かわいい、犯したい、いや犯す!

「なあ、竹田!」
「なんだよ!うるっせえ!うるっせえなー!!俺は今大好物を堪能中なんだ!ゴラァ!」
「大好物って何?」
「あ?んなの純くんの乳首に決まって……ってお前」
「乳首?乳首ってあの乳首?」

俺の前にあいつがいる。
そう、あの憎き沢村。
耳障りでしかない俺を呼ぶ声に顔を上げると死んで欲しい人ランキング一位(昨日付け)保持者が。

当然のように俺の前の席を陣取り、着席している。
そこはお前の席ではない。
その席の本当の所持者の女子はどうした。

さっきまでの純くん(更新されるのを毎日楽しみにしているサイトの小説のキャラで受け。さくらんぼ乳首所持)への萌えが俺の中から姿を消し、逆に腹の底からふつふつと何かが沸いてくる。
人はこれを不快だとでも表現するんだろうが、そんなもんじゃ優しすぎる。

平野の方に目をやると、バッチリ目があった。
そしてすぐに反らされてしまった。
きっと目的は俺じゃない。目の前のクズ、沢村だ。
まだ好きなんだな。
そうだよな、昨日の今日だもんな。

「何、お前何でここにいんの、死ぬの?死にに来たの?なら大歓迎だけど、俺のいないとこでやってくんねえかな。死体とか迷惑だから」
「いや、死なないし。いきなりひどいな」
「死なないなら消えてください。同じ空気を吸いたくないんで」
「ひど!」

お前には言われたくない。
お前が昨日、平野と俺にしたことの方がひどいと俺は思う。
俺はまあ、覗きをしていたわけだから、悪趣味なことをしたと自覚もあるし、貶されてもしかたないと自負している。
けれど、平野に対する態度は許せないし、許す気もない。
だから、さっさと俺の前から消えてくれ。

「それで、何の用だ?」

言っておくが、俺はこいつに興味なんてこれっぽっちもないし、こんなこと聞きたくもない。
だが、用もなく俺のところにくる理由なんて思い付かないし、用事があるとしたら、思い付かないこともない。
昨日の去り際の捨て台詞。

常識的に考えれば、かなり失礼なことを言った気がする。
邪魔されるまで読んでいた純くんのあはんうふんな小説のせいで何を言ったのかまでは忘れたが。

「ああ、うん。…えっとさ、フダンシって何?」
「はあ?」

フダンシって腐男子だよな?
何をいきなり。
昨日のことで文句言いに来たんじゃないのか。

腐男子を知らないことが恥ずかしいのか、はにかんだように訊ねてくる沢村の笑顔に吐き気がする。
そんな俺を他所に沢村を見てきゃあきゃあ言う黄色い歓声。
ああ、こいつ顔は良いのか。ほんとに顔だけな。
女子の皆さん、早く気づいてください。

…あ。俺の前の席―――つまり今沢村が座っている席、の本当の持ち主が黄色い歓声の中にいる。
…そうか、こいつが好きだから、貸して?なんて言われて貸しちゃったのか。

……くそっ!死ねイケメン!!
男子を好きじゃないイケメンなんて俺にしてみたら、ただ女子にちやほやされてる羨ましいだけの存在だ。
あ、俺は腐男子な訳だが、普通に女の子が好きだ。

「BLが好きな男子」

邪魔だ、早く質問に答えて用事を済ませてもらおう。
帰っていただこう。

「びーえるぅ?」

初めて聞いた言葉だったのだろうか。
沢村の声が先程より大きく発せられ教室に響いた。
その言葉を聞いた瞬間、一部の女子(つまり俺のお仲間だろう)がものすごい勢いでこっちを見てきた。

うわ、ちょ、ありえね。
めっちゃ見てる!めっちゃこっち見てる!
こえぇえ!!

急いで沢村の腕を掴んで教室を出た。
ほんと迷惑な奴である。

廊下を歩きながら、空き教室を探す。
沢村はというと何一つ文句も言わず、付いてきている。
そんなにBLが知りたいのか。
ググればいいものを。











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