vs腐男子


「あ、あのさ……沢村(サワムラ)に、話があるんだ」
「…?ああ」
「放課後、中庭に来てもらってもいいかな…?」
「ん、わかった」
「…っ!ありがとう!」

俺は今、男二人が小さな声で交わす言葉を盗み聞きしている。
何度も二人の会話を反芻して、誰にも気づかれないように小さくガッツポーズをした。
よっしゃあ!

何を隠そう俺は腐男子だ。
生モノありな俺は勝手ながらこの二人のことを密かに応援していた。

呼び出した方の男子はよくいる平凡な男子。
名前は平野(ヒラノ)だ。
顔も声も学力も平凡。
だけどすごくいい奴だ!
そして呼び出された方は女子にキャーキャー言われてるイケメン沢村。

最近、この二人が急接近した。
それもこれも平野の頑張りのおかげだ。

俺の想像だが、きっとひょんなことから好きになってしまったんだろう。
男同士だ、と諦めようとしたことだろう。
だけど、平野は頑張った!
ほぼ接点の無かった二人が、平野の頑張りによってどんどん距離が縮まった。
漫画を貸し借りする仲になり、昼食を一緒に食べる仲になり、最近では一緒に帰っている姿もよく目撃する。
平野、よく頑張った!
腐男子の俺からすれば、平野の沢村への好意は丸分かりだが、沢村も満更じゃ無いように見える。
さっきの会話から察するに、話というのは愛の告白とみて間違い無いだろう。

あああー!
今日から念願の美形×平凡カップル誕生かああっ。
王道カップルばんざーいっ!
勝手ながら俺の生き甲斐にしていた二人っ!
これからも何があろうと二人を陰ながら応援し続けるよ。



それから放課後までは長かった長かった。
いつも以上に授業は集中出来ず、寝ようにもこれから起こることを考えると興奮して寝てなんていられない。

少しおどおどしながら沢村に話しかける平野。
今、告白の言葉でも考えているんだろうか?
平野は、どっちかというと内気な方でここまでするのにすごく勇気が必要だったと思う。
俺は彼に拍手を贈りたい。
よく頑張ったな。

「竹田(タケダ)、何にやけてんだよ?きもいぞ」

名乗り忘れていたが、俺は竹田と言う。

「何とでも言え。今日の俺は仏様より心が広いぞ」

クラスメイトに不気味に思われながら、俺は時計の針が進むのを待った。





*****

放課後、俺は急いで中庭に向かい、隠れられるスポットを探した。
覗き見なんて悪趣味だが、今回は仕方がない。
だって最後まで見届けないと気が済まない。
いや、最後と言うのはおかしいな!
これからが二人の新しいスタートだ!


ザッ、ザッ、とコンクリートを踏む音が聞こえて、視線を向ける。
沢村ぁぁああっ…!
待ってたぞー!
平野も沢村の後ろを付いて歩いてる。
カップル誕生間近!

平野がぽつりぽつりと話し始めた。
その顔は緊張と恐怖が混じっていて、俺は頑張れと何度も心の中で叫んだ。
ドンドコ言ってる心臓を叱りながら、平野の声に耳を傾けた。

「おれっ、……沢村が好きなんだ。男同士だけど…つ、付き合ってほしい…!」

よく言った平野ぉおお!
後は沢村!
お前が俺も好きだよって言うだけだ。
言え!
早く言えぇえ!


「ごめん」

…え?

「俺、平野のことそういう目で見たことないし、これからも見れない」

平野の目に涙が溜まる。
あぁ…あぁ…。

「ていうか、正直そういうの気持ち悪い。もう、平野とは今までみたいにはいられない」
「そっ……か…。俺こそ、いきなりごめん」










「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -