ピンポーン。

チャイムを押して数秒待つと、ドアが開いた。

「おはようございまーすっ!」
「あら、りっくんおはよう。今日もありがとうね」
「いえいえー!」

暁ママにお出迎えされる。
家の中に入るよう言われ、お邪魔する。

「お邪魔します」
「朝ご飯できてるわよ。…でも暁まだ寝てるのよ」

暁ママは呆れたような困ったような溜め息をついた。
俺の出番っ!

「あ、じゃあ起こしてきます」

俺は暁を送り迎えするようになった。
今日もそのために来た。

(本物の)お父さんは今日は出張で、暁の姉ちゃんは朝が早くて、俺が来る頃にはもう家を出ている。

俺は軽い足取りで暁の部屋に向かう。
二回ノックをしても返事がない。

「暁ー入るぞー」

寝てるのはわかっているが、一応声をかけてドアの向こう側に入る。

暁は目を瞑ったまま布団の中でもぞもぞと動いた。
俺が騒がしくしたからかもしれない。

暁は寝起きが悪い。
ちょっとやそっとの音や声じゃ起きないし、目を開けてからも長い。
暁が寝てる間に火事や地震があったらと考えると本当に心配だ。
でも安心しろ!
そんときは必ずパパが助けてやる!

「暁ー!起きろって!」

ベッドに近づいて、鼻の辺りまでかかっている布団を捲ると暁のかわいい寝顔が見えた。
あーもー!かわいい!
いつもツンケンしている暁はどこへやら眉は下がり、口は半開きで幸せそうな顔で寝ている。
天使の寝顔っ…!
みなさーん!
ここに天使がいますよー!
実は俺の娘なんですー!

嗚呼、起こすのもったいない。

暁はジャージとTシャツで寝ていた。
それはいいけどTシャツが捲れて腹出てる!
冷やしたらどうするんだ!
捲れているのを戻し、ケータイを出して暁の寝顔を撮って満足する。
あーかわいい。
俺の娘超かわいい。

…って違う!
起こすんだった!

「暁ー!」

ほっぺをむにーっと引っ張る。
嫌だというように暁の眉間に皺が寄る。

「う゛ぅー…」

やっと少しだけ目を開ける。
焦点が合ってない。
寝ぼけてるな。

暁が俺の手をぺちぺち叩く。
ほっぺを離すと、暁は俺が捲った布団を手繰り寄せ、布団を自分にかけた。
さらに少し動いて端による。
なんだろうと見ていると、暁が動いたことによって空いたスペース部分の布団を捲り、そのスペースをぽんぽんと優しく叩いた。
そこに来いって?
っ、かわいー!

暁の隣に横になると、捲った布団をかけてくれた。
布団の中は暖かくて心地よくて眠気を誘う。
暁を見ると、寝てはいないが目は閉じてしまっている。
暁は俺の肩に顔を埋めた。

「りく…」
「ん?」

寝ぼけてても俺だってわかってるんだな。
偉い偉い。

「おやすみ…」
「ん、おやすみ」

答えて背中に腕を回し、撫でてやるとすーすー寝息が聞こえてくる。

おやすみ、暁。
ちゅっ、と額にキス。

…ってオイィィィイイイ!!
何してるんだ俺は!
何一緒に寝ようとしてんだ!
起こすんだよ!
あほかぁああ!

埃がたちそうなくらい勢いよく布団を避け、立ち上がると、暁が目を擦りながら布団に座っている。

「朝だ!暁、ご飯!」
「ん゛んー」

気を抜くとまた寝てしまいそうだ。

暁の手を握ってリビングに向かう。
洗面所に連れていくと顔を洗い初めて、少しだけ目が覚めたみたいだった。

「暁痩せたんじゃね?」

さっき腹を見て思ったことだった。

「うん?」
「体重計のってみ?」
「うん」

暁がふらふらしながら体重計にのって、あ、と声を漏らした。

「どうした?」
「…三キロ減った」

なぁにぃぃいいい!?
暁は元々細い。
筋肉もつきにくい体らしい。
これ以上細くなってどうするんだ!
てか何をどうしたら知らない間に三キロも落ちるんだ!
暁!眠たそうにぽやぽやしてる場合じゃないぞ!
かわいいけども!

「暁今日いっぱい食え!」
「うん」

暁は俺には基本的に素直だけど、寝起きはもっと素直だ。
と、いうか肯定しかしない。
頭が働いてないから…。






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