みかん


昨日の一件で一睡も出来なかった俺は珍しく昼前から学校来ていた。
グラウンドを見ると体育の授業をしてる。

……っ!?

「井上ぇえええ!!」
「は!?ちょ、みかんちゃん!やばいって!」
「うっせえ!あいつ誰だ!あいつ!」
「待って、今はちょっと…」

奴がいる。
グラウンドに奴がいる。
あの昨日の。
俺が殺すあいつ。
体育の授業を受け、クラスメイトに笑いかけている。
吐きそうになるくらい爽やかな笑顔だ。
ここから見る限り、あんなことするような奴には見えない。

俺が窓の向こうを指し伝えると、井上は珍しく困ったようにきょろきょろする。
それにイライラして目の前の机を蹴った。
予想より大きい音が響く。

「大事なことなんだよ!お前なら知ってんだろ!?」

大声で必死さをアピールする。
実際ほんとに必死だ。

「あーもう!わかった!うんとね、…あの人?」
「おう」

井上は他には聞こえないように花岡くんだよ、と言った。
花岡…。
花岡な。

「もっと詳しく!知ってること全部教えろ!」
「それは良いけど…みかんちゃん今授業中だからね?」
「………え」

休み時間じゃねえの…?
そういえばグラウンドで体育してるってことは、……そりゃ、授業中だよな。

見下ろすと机に突っ伏して寝ている赤い頭が見えた。
相変わらず自由だな。
いや、俺も人のこと言えねえわ。

前を見ると教師がおろおろしている。
俺と目が合うと、あからさまに目を反らした。
別に注意すりゃいいだろ。
反抗なんてしねえよ。
めんどくせえな。

井上が俺の蹴った机を元に戻した。

「続きは後でね」

と言い自分の席に戻って行った。
俺も座ると井上が教師に向かって、どうぞ、という視線を送って授業が再開した。

その間俺は待ちきれず、ずっとイライラして、机がガタンガタン言い続けてるのにも構わず貧乏ゆすりを続けた。


チャイムと同時に井上の席に向かう。
チャイムは鳴っても授業は終わっていない。
困っていた井上も俺の目がマジなのに気づくと、廊下に出た。
龍も好奇心からか着いてきた。

「誰なんだあいつは…!あのくそぶっさいく野郎…!」
「いや別にブサイクじゃないよ?」
「何でだよ!?井上!お前の方がいい男だぞ!?自信持てよ!」
「あ、ありがとう…」

いつもは俺が井上のテンションに押されてるが、今日の俺はあいつ見たせいで怒りと興奮でアドレナリンの分泌が半端じゃない。

「まあ、とにかくみかんちゃんほどじゃないけど、ふつうにかっこいいよ」
「俺のが勝ってんのか!?」
「うん、まあ系統が違うけど。てゆうかみかんちゃん相手に比べられたら花岡くん気の毒だよね」

そうか?
自慢じゃないが、自分の顔がいいのは知ってる。
でもどの程度なのかは自分じゃわからない。

「まあ、あいつ……花岡だっけ?意外にモテんじゃねえの?」

龍が口を挟んできた。
お前寝てたんじゃなかったのか?

「よくわかったね!爽やかなんだよね!いっつもニコニコしてるし好青年みたいな。たぶん男女ともに評判いいよ」
「……あのひょろひょろの優男が?」
「うーん、確かに細いね。でも身長はみかんちゃんと同じくらいじゃない?」
「……」

井上がそう言うんだから間違いないだろう。
あいつ俺にあんなことしといて外面はいいのか。

あの細い腕に、なんの抵抗も出来なかったのかと思うと、腹が熱くなる。
あんな縦に長いだけみたいな男に、俺は………。







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