みかん


脚をカパッと開かれる。
足首の紐が邪魔をして思ったより開かない。
それに俺体固いのかも。
紐が足首に食い込む。
いってえな。

「触んなっ、気持ちわりぃ!」
「怖いの?」

萎えた性器を嘲笑うように言われ、カチンと来る。

「てめえの下手くそな手コキじゃ勃たねえだけだろ」

へっと笑い返してやると、苛立ったように後孔にぐっと指を入れてきた。
細くて骨ばった指。

「う゛あ゛」

男の指はクリームのようなもので潤ってはいて痛みは少ないが圧迫感が半端じゃない。
細いな、と思った指でもきつかった。

「い゛あ゛ぁ゛っ…」

初めての感覚に気持ち悪くて吐きそうだ。
体が勝手に強張り、指を締め付ける。
でもそうすると圧迫感を強く感じてしまい、辛いのは俺だ。
眉を潜めてそれに耐えた。

指がゆっくり動き始め、そこから痛み生まれ、頭がショートしそうだ。

クソッ、どうする?
どうすりゃいい?
こいつは本気だ。

俺が、こんな優男に、やられる、なんて、ありえない。

こんな俺より力もなくて、ひょろひょろのふざけた野郎が俺より優位に立つなんて。
許されない。
あってはならない。
こいつの分際で。

男は指を俺の腹側を何か探すように動かす。

「みかんちゃんはさあ、苦痛より俺みたいのに気持ちよくさせられる方が屈辱でしょ?」

よくわかってんじゃねえか。

で、誰が誰を気持ちよくするって?

聞き捨てならない言葉に反論したいが慣れない気持ち悪さに耐えるので精一杯で何も返せない。
何で俺がこんな目に。

「ぐ、ひぃ゛、あ゛ぅ゛っ…!」

そのとき、男の指が一点を擦る。
気持ち悪さに強張った身体が仰け反る。

「ひ、あッ…」

自分でも信じがたい、気持ち悪い声が出た。
何をされたかなんて、考えなくてもわかる。
前立腺だ。
自分以外のなら数えきれないほど触ってる。

気持ちいいとかじゃない。
違和感のような、妙な感覚。
もう触られたくない。

それでも俺の性器はそれを快感と捉えたのか、軽く勃ちあがっていた。

「素質あるんじゃん」
「あ゛、ぐうっ」

指は容赦なく中を這う。
もう俺の中に入っている指は一本じゃなかった。

指が出し入れされる度、くちゅくちゅ音がする。
自分の後孔からこんな音がするなんて考えたくなった。
こんな羞恥感じたこと無かった。
絶対わざと出してるだろ。

男の顔を盗み見ると、雄ような目で笑っていた。
心から 気持ち悪い と思った。
俺は誰かに対してこんな目をしたことはあっても、されたことなど無い。
俺に欲情した目。
胸くそ悪い。


指がやっと抜かれ、俺は逃げなきゃという危機感より、指を抜かれたことによる安堵が勝っていた。
はっはっ、と息を整える俺の耳に、不快な音が入る。
ジ、ジーとジッパーを下げる音。

やばい!
ほんとヤられる!

どうにか逃げようにも仰向けのまま這いずるのは難しく、体を反転させ、うつ伏せになりくねくね逃げる。
惨めな姿だが今はそんなことにかまけてられない。

「ははっ、なに?挿れやすいようにしてくれてんの?」

男の愉快な声が聞こえる。

この紐さえ。
この紐さえなければ。
手が拘束されていなければ。
脚が拘束されていなければ。
こんな奴、返り討ちにしてやるのに。

縛られているときになぜもっと抵抗しなかったのか。
いや、スタンガンを使われてからじゃ遅い。
こいつに会った瞬間からもっと警戒するべきだった。
数十分前の自分を呪った。

どんなに後悔してもこの紐を引きちぎるような力は俺にはない。







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