みかん


「俺のいいたいことわかるよね?」

逆らったら、暁に手ぇ出すってか。
この外道。
にっこり笑う顔には、俺の勘違いではなく黒いものが含まれている。

そもそも、こいつにそんなこと出来るのか?

龍も井上も暁にベッタリだし。
でも24時間一緒にいるわけでもないし、花岡は俺にスタンガンで向かってくるような奴だ。
こいつの行動は俺には予測不可能。

花岡は力も大したこと無いし、俺じゃなくてもその辺の奴を力ずくで犯すのは無理かもしれない。
それでも暁の細さも負けたもんじゃないし身長だけなら俺と同じくらいある。
当然花岡の方が暁より高い。
そして何よりあの無防備さはやばい。
まあ今回のことに関しては油断してこんなとこで寝てた俺が言えたことじゃないけど。
秋は花岡が相談があるんですとか勉強教えてくださいなんて言い出したら、どこまでも着いていきそうだ。
暁は自分が男に性の対象に見られているなんて考えたことも無いのだろう。
スタンガンなんか必要ない。
暁が一人でいるときさえ狙えばいくらでも……。
あーくそ!


ふいに花岡のむかつく笑顔が見えた。
睨むと特に気にした様子もなくその笑顔が俺に向けられる。

顔が近づいて、ちゅと触れるだけのキスをされた。

気持ち悪いことしてんじゃねえ。
顔が離れたところで力の限り頭突きをした。

「っつぅ…」

俺が今動かせるのは頭しかない。
花岡も効いたらしく額を片手で押さえながら、ふらついていた。
それなりに痛いだろうに、クククと喉で笑う音が聞こえてきた。

「うん、いい。いいよ、みかんちゃん。追い詰められたくらいで従順になられても俺もつまんないし、やっぱりみかんちゃんには抵抗してもらわなきゃね」

心底楽しそうな顔が見える。
こいつは俺で遊んでるんだと改めて思った。

「いいよ。俺が言ったことさえ守れば、他は何しても」

一拍置いてから、花岡の口角が上がったのが見えた。
気味悪い。

「そうだなあ、じゃあ今日はキスさえ受け入れればいいよ」

今後どうするかは置いといて暁が関係してくるし、今日は従った方がいいのか?
頭がまともに働かない。

「………」

俺は何も答えなかった。
わかった、としか答えようがないが、それを言うのは癪だ。

「噛まないでね」

もう一度念を押してから、俺の口に吸い付く。
舌で唇を突っつかれて口を開けた。

「んっ、んん…っ」

舌が俺の咥内を暴れて、逃げる舌を絡められ。
もちろん俺は絡め返したりしない。
それに、いつも俺はキスを仕掛ける側で、仕掛けられたことなんてない。
そのためか焦れったいような、腹の奥でじりじりしたものが発生した。

暁としたキスはあんなに熱くなるものがあったのに、相手が違うだけでこんなに違うのか。

とりあえずキスさえ黙ってされてりゃいいんだろ。
それがわかってもこの状態…。
もちろん手錠なんてどうにかできるような人並み外れた力はない。
足を結ぶ紐も頑丈に固定されている。

俺は何をしてるんだ。
こんなやつに組み敷かれて。

ほんとこいつ殺したい。
今すぐ。

唾液が注ぎ込まれる。
気持ち悪いもん口に入れんな。
口が離れた途端、俺のと花岡とのが混じった唾液を、おえ、と横に吐き出した。
それを見た花岡が少し笑ったように見えた。

「死ね」

途端に言うと、花岡の眉が寄った。
ほんと死ね。

手も脚も口も封じられてる俺は、今こいつを殺すことは出来ない。
今すぐ俺の前から消えろ。

「キスしてそんなこと言われたのはじめてだよ」

何がおかしいのか花岡はクスクス笑う。
俺だってこんな不快なキスは生まれてはじめてだ。








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