みかん
ん?
なんだ?
近くに人の気配がする。
誰だ?
起きろ。
眠っている頭に鞭を打つ。
暁か?
いや、違う。
バチチッ…!
なんの音だ?
そこで思考が飛んだ。
*****
「やっと起きてくれた?」
「おまえ…っ!」
目が覚めると花岡がいた。
クソ、なんでここに。
完全犯罪なんてそうそう思い付かない。
さくっと思い付いてたら警察は大変だ。
だから計画が完成するまで当分花岡に近づくつもりは無かったが、あっちから会いに来てくれたんだ。
一発拳をお見舞しようとした。
――が、手は動かず、変わりにガシャンと乾いた音がしただけだった。
ベッドヘッドに手錠で固定されている。
脚も開いた状態で、固定されている。
しかも、スラックスも下着も身に付けていない。
花岡に脱がされたんだろう。
俺は大体のことは把握出来た。
意識が途切れる前に聞こえた音はスタンガンだ。
おんなじ手ばっかり使いやがって。
だけどそれはこいつにとって得策なんだと考える。
一対一でこんな貧弱な野郎に俺が負けるわけがない。
それを花岡もわかっているはずだ。
そうなると、道具に頼るしかない。
何度も同じものを使うのはどうかと思うがスタンガンは触れさせるだけでいいし、今回のように寝ている相手に使うなら十分だ。
「何でっ…お前は、俺にっ…!」
こいつは何で俺を狙うんだ?
一回だけならたまたまかと思うが間隔開けずに二回目だ。
俺はこいつに何かした覚えはない。
それどころか、昨日はじめて会ったんだ。
俺に恨みを持ってる奴には大きく分けて二種類いる。
一つは俺に返り討ちにされた奴。
あっちから殴りかかってきて、負けたら仕返しなんて理不尽だとは思うが、俺の近くに赤頭のもっと理不尽な奴がいるからあまり気にならない。
二つ目は彼女を俺に取られた奴だ。
俺は男おとす方が楽しいって気づいてから女の子には自分から手は出してないが、俺が一方的に迫ったことに勝手になってる。
こいつの場合は確実に後者だろ。
「理由?…それはまあ気になるよね」
微笑んではいるが、朝グラウンドで見た笑顔とは別物だった。
爽やかさなんてどこにもない。
「かっこよくてさ、力もあるみかんちゃんが俺みたいなのに犯されたらどんな気持ちなんだろうって。想像したら興奮しちゃって」
それだけかな、と付け足した。
気持ち悪い。
そんなくだらないことのために…。
頭が沸きそうなくらい怒りが体を支配する。
「一緒にいたのって、北出先生?」
意外な人物の名前に怒りは一瞬飛んだ。
は?
何で知ってるんだ?
こいついつからここにいたんだ。
「なんかさあ、随分優しかったねえ?先生に」
やばい。
やばいやばい。
「もしかしてさあ、」
やばい。
やばい。
やばいやばいやばいやばいやばい。
「好きなの?」
やば、い。
「っハッ、違う!!なに言ってんだよ!?なんで俺が教師なんか!お前本気か!?好きって…お前頭おかしいんじゃねえの!?」
自分が今どんな状況で、ここがどこかなんて忘れてとりあえず叫んだ。
声を上げるたび、勢い余って手錠がガチガチ鳴った。
だめだ。
暁を巻き込んじゃだめだ。
興味本位で俺を犯そうとするイカれてる奴だ。
暁にだって何をするかわからない。
「そんなムキになっちゃって……否定になってないよ?」
少しつまらなそうな顔をして、すぐにまたあのムカつく笑顔を浮かべた。
ちくしょう、どうすれば。
返答に困り黙っていると、沈黙を肯定と受け取ったらしい。
俺に覆い被さり、内腿に手を置いた。
ぴくっと体が反応する。
← →