跪いて忠誠を誓う
―被害者―


放課後、逸る気持ちを押さえ、トイレの個室に入って、蓋の上に座る。
イヤホンを耳につけ、ボタンを押した。


『アキちゃーん!なんかゴミついてるよ?』
『ん?』
『ちょっと待ってねぇー………よし!とれた!』
『ん、ありがとうな』
『アキちゃんかわいー!』
『だからなんなんだよ、それ』


ザーーと言う砂嵐の音がイヤホンから聞こえ、イヤホンを耳から外してポケットにしまう。
トイレの蓋の上から腰を上げ、舌打ちをした。
苛立ちは収まらず、個室の壁を思い切り蹴ってみる。
ガンッと音がして、すぐに後悔した。
慣れないことをするもんじゃないな、足がものすごく痛い。
一つ溜め息をついて、個室を出ることにした。

すぐに後ろからバチバチッと音がした気がした。
えっ?
と思ったときには激痛が走って意識を遠退いていく。
何で?





寒さと埃っぽさで目が冷めた。

…ここどこだ?
…あれ、トイレにいたはずじゃ?

やっと頭が覚醒してくると、僕は衣類を一切身に付けてないことに気づいた。
さらに手首を後ろで一くくりに縛られ、足首も縛られている。
や、え?
何で?
軽くパニックを起こしていると、物音が聞こえた気がした。
ビックリして、そっちに身体中を使ってくねくね、芋虫みたいに動きながら方向転換する。
そこにはよく知っている人がいた。

「井上くん…」

クラスメイトだ。
学年で知らない奴はいないんじゃないかってくらい有名人。
顔が広くて愛想が良くて話しやすい。
顔が広いため、女の子の紹介なんかも上手だと誰かが言っていた。
特別、顔が良いとか、部活で成果を残したわけではないのに有名人なのが少し不思議だ。

「やっと起きたねー」
「なん…なんなのこれ、井上くんがやったの?」
「中村くん起きるまで暇でさあ、暇潰しにこれ聞いてたよ」

俺の質問を無視し、言いながら見せてきたものに、サアアーと血の気が引く。

「中村くん、アキちゃんのこと、盗聴してたでしょ?」

そう微笑む表情はいつもと変わらないはずなのに、恐怖を感じた。





毎日の勉強にストレスが溜まっていた。
せっかくそれに耐えて学年トップまで登り詰めたのに、今度は周りの期待というストレスが待っていた。
親も先生も友達も。
頑張るのが当たり前になって、頑張らないと、失望される。
この悪循環に爆発しそうになっているとき、ネットで盗聴機を見つけた。
値段も手頃で興味本意に買ってみた。
でも、いざ使うとなると、勇気も出ないし、特に使いたい相手もいない。

でも、今日、はじめて会った、今日から担任の暁先生。
盗聴機の出番だと思った。
顔は美人とか美形の類いではないけれど、かわいらしい先生だった。
先生のオナニーしてる声でも拾えれば、オカズに出来ていいな、と期待して暁先生にこっそり付けた。
その声をネタに脅して、あわよくば、抱きたいとさえ思っていた。




「盗聴は犯罪なんだよねー」

そう言う井上くんの手には俺のイヤホン。
それに繋がる黒い箱。
その黒い箱には盗聴した声が入っている。
今日、暁先生に取り付けてさっき井上くんによって外されたみたいだが。

どうしよう、バラされたら。
決定的証拠は井上くんの手にある。
これから受験だってある。
どうしよう。
どうすれば。

「誰にも言ったりしないよ?」

僕の表情から汲み取ったのか、いつもの調子で井上くんは言った。
一筋の希望に聞こえる。

「え…」
「だってさー、自分の生徒に盗聴されたなんて知ったら、アキちゃん絶対傷つくじゃん。それは避けたいんだよね」

僕は少なからず安堵した。

「よ、よかった…」

勝手に口から出た安堵の言葉。

「そーだね、よかったね」
「ほんと…ごめんなさい。好奇心で…もう、絶対しない」

井上くんとは少し話したことがある。
この人なら、見逃してくれる、と確信していた。

「そっか。でもさあ、人間って嘘がつけるんだよね」
「そ、そんな…」
「俺が今回ただ見逃すことで、盗聴に対する罪悪感が薄れて、またアキちゃんにされたりしたら困るんだよ」
「そんなことしなっ…」

井上くんは僕の言葉を遮るようにバチバチバチとスタンガンのスイッチを入れた。
トイレの個室を出たときのあれは、スタンガンだったのか。
スタンガンのスイッチを入れたり切ったりしている。

「と、言うことで中村くんには盗聴がいけないことだと、わかってもらわなきゃね」

スタンガンに向けていた視線を井上くんの目に向けた。
表情はいつもと変わらないのに、その瞳はメラメラと怒りの炎に燃えていた。
背中からぞっとする。
温度とは別に寒い。
寒くて仕方ない。
正に蛇に睨まれた蛙。
何も言えない。
動けない。


井上くんはドラマなんかで見る手術用のゴム手袋のようなものを付けていた。
制服には不釣り合い。

「さすがに素手では触りたくないからさー」

そう言って俺に近づき、いきなり性器を握られた。

「ひっ…」

性器は寒さと恐怖で小さく縮こまっていた。
そのまま上下に扱かれる。
ゴムは滑りが悪く所々引っ掛かり、ブルブルと振動する。

「うぅ゛…ぐ…」

はじめて人に触られる感覚と、ゴムの未体験な刺激に、自分の意思とは別に、勃ち上がってしまう。

「こんな状況でも勃つんだねー」
「んぁ、ぅ…うぁ…」

汚いものでも見るように言われ泣きたくなった。
顔が赤く染まる。

「盗聴してさ、どうするつもりだったの?」
「あ゛、う、…ひっ…」
「アキちゃんがオナニーしてる声、オカズにしようかなって?」

図星をつかれて何も言えない。

「うぅぅっ…!」

井上くん手つきが乱暴になる。
荒い手つきに確かな怒りを感じる。

「ほら、想像してみなよ、アキちゃんに触られてるって」
「や、ひあっ!」

ブンブン横に首を振る。
先走りを絡められ、先端をクルクルされる。

「ふ、ぅー…ひっ!」
「アキちゃんの名前呼んでみなよ」
「やっ…ぃ、は、ぐ…」

さらに大きく首を振ると尿道をグリグリ指を押し込まれる。

「ほら、呼んで」

痛い。
感じたことの無い痛みに恐怖しか生まれない。
このままじゃほんとに尿道に指突っ込まれる。
恐怖からとる行動はただ一つ。
服従。

「ひ、あ、あきっ…せんせぇっ…」

指を差し込むのは止めてくれた。
それでも、ずきずき痛む。

「もっと」
「…あき!ふ、せんせぇ…」

悔しいのか悲しいのか気持ちいいのかわからなくなって、必死になって何度も暁先生の名前を呼んだ。

「あっ…!あきっ、んっ…はぅ」

腰によく知ってる感覚が走る。

「んっ、…あきっ、…い、く…」

達する、と思ったときには根本を握られていた。

「中村くんを気持ちよくするためにやってるわけじゃないからね」

その目には温度がなかった。
いつも一緒にいる加賀見くんとか三上くんはすごくみんなに怖がられてるけど、この人の方が絶対やばい。
ほんとに恐い。
怒りに温度がない。
笑って人でも殺しそうだ。
ただならない恐怖を感じる。


井上くんは少し場を離れて、何かを持って帰ってきた。
右手だけゴム手袋が外されていた。
よく目を凝らすと、それはホッチキスだった。

ガタガタ体が震え始める。
あれで、なにをされるか、なんて、考えたくない。
ガチャン、ガチャンと確認するようにホッチキスを握ると、パラパラ…と曲がった小さな棒が床に落ちた。
奥歯がガタガタ言い始める。
口が閉じられない。
恐い。逃げなきゃ。逃げなきゃ。逃げなきゃ。逃げろ。逃げろ。逃げろ。逃げろ。
体に命令してもカタカタ震えるだけで全く動かない。

井上くんは、ゴム手袋をつけてる左手で陰嚢を少し浮かせ、ホッチキスを当てた。
鉄の冷たさに震える。
少しの沈黙。

ガチャンッ。

「ぎぃあああぁぁっ…!ひぃ…ひぃ…」

あまりの激痛に自分でも自分から出たとは思えない叫び声をあげた。
呼吸がままならない。
井上くんは一本の銀色の線が入った陰嚢を裏返す。

「やっぱ貫通しないかあ…」

ひぃひぃ言いながら涙がボタボタ出てくる。
痛い。恐い。痛い。恐い。痛い。恐い。痛い。恐い。

「でも大丈夫。まだあるからね」

そういってにっこり笑いながら、小さな箱を振って見せた。
カチャカチャ音がする。
ホッチキスの芯。

井上くんは性器をそっと撫でた。

「ちゃんと萎えたね。それを確かめたくて、勃たせたんだけど」

この激痛を喜んでもらっては困ると言うことか。
涙で歪む視界には冷たく笑う井上くんしかいない。

「まあ、あと敏感にしたかったって言うのもあるけど」

確かに、達する直前で放置され敏感になっていなかったら、もう少し痛くなかったかもしれない。

「次はここいこうか」

そう言って竿の皮を摘んだ。

「や、や、やめ、や、や」

体が震えて言葉にならない。

「ここなら貫通するかも」

やだ。恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。やだ。恐い。
体が冷えていくのは感じるのに性器に感じる冷たさは、やけに鮮明だ。

ガチャンッ。

「ぎゃあああああひぃいっ…!」
「あ、結構惜しいよ」

そう言って見せられた性器は貫通はしているものの、折り込まれてはいなかった。
二本の針が刺さってる。
血がポタポタと落ちる。

「ひっ、ひっ…っひゅ、はっ…」
「うるさいなあ」

頬と口内をホッチキスで挟まれる。

「や、こわ、やめ、やだ、や、や、やだ、やっ…」

ガチャンッ。

「や゛あぁあぁあ!」
「中村くんも可哀想に」

僕の顔の前まで来て、ふぅ、とため息をつく。

「盗聴機しかけたのが、アキちゃんじゃなきゃ、こんなことにはならなかったのに」

その目に哀れみは無い。

「そう考えると中村くんも、被害者なのかな?」

狂気すら感じた。








ガチャンッ。


ガチャンッ。


ガチャンッ。





ガチャンッ。





おわり

―――――
これは龍の鬚〜を書き始めたときから書く予定だったものなので、ちゃんとプロローグに中村くんもいます。
ちなみに一話で龍くんが聞いたアキちゃんを呼ぶ喘ぎ声は中村くんに手コキされてる中村くんのです。
何気にリンクです。
井上くんのキャラは最初っからこれで、覇王でした。笑
アキちゃん好きすぎて何でもしちゃいます。
アキちゃん第一なので。
あとタイトルの『跪いて忠誠を誓う』は中村くんの井上くんに対するものではなく、井上くんからアキちゃんに対するものです。

覇王井上、よければ感想clapにお願いします!
一言でも嬉しいです。



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