陸と暁

俺の隣の席の奴は、大抵寝てる。
起きてるのは昼休みだけで、友達らしき奴が起こしに来て、一緒に飯食ってまた寝てる。

飯も弁当食べた後に絶体甘いもん食って寝てる。
チョコ率高し。



*****

そいつはやっぱり、今日も寝ていた。
よく見ると、かわいい顔してるなあ。
子犬っぽい?
キャンキャン吠えてる感じ。

しっかしよく寝てる。
いいよな、寝てても勉強出来る奴は。

それに引き換え、俺は真面目に授業を受けてる。
金髪にしたって、ピアスたくさん開けてたって、赤点取りまくりゃ、留年するし、単位足りなくても留年する。
つまり俺は勉強はするし、授業にも出ちゃう親しみやすさ抜群のヤンキーだ。


*****

中間テストが終わって、テストが返ってきた。
中々勉強した甲斐あり、満足のいく点数だ。

いつも寝てる隣の野郎の点数を覗いてみた。
あんだけ寝てて俺より良かったらぶん殴ってやる。

…………………あれ?
え、…え?


………12点…?

それはもちろん赤点を大きく下回る点数だった。
見間違いかと思って二度見するが、数字は変わらない。

え、なに、この子、バカなの?

「おい!お前!」
「………俺?」

12点(名前は知らない)はキョロキョロ辺りを見渡し、声をかけられているのが自分だと気づくと、不思議そうに聞いてきた。

「そう!お前だ!何でそんな点数取ってんだよ?」
「何でって聞かれても」

ふあぁ〜と欠伸をする12点を見て、俺の何かに火が点いた。

「名前何て言うんだよ?」
「?…北出だけど」
「ちげー!下だ、下!」
「あー…暁」
「よし、暁」
「なんすか」
「今日から俺が勉強教えてやる」
「はあ?…結構です」

断られるのは想定済みだ。

「一日付き合うごとに、好きなお菓子買ってやる」

そう言うと今まで眠そうに伏せられていた暁の目はキラキラ輝きだす。
少し垂れた目に俺が写る。

俺の服の袖をぎゅっと掴んだ。

「いつからする?」

なに、かわいいんだけど。

「いや、俺はいつでも…」
「じゃ、今日からな!」

いきなり張り切り出した暁に、俺は押され気味。

お菓子でここまでつられんのか。
…大丈夫か、この子。
心配だ。
アメくれるおっさんとかに着いていきそう。

…俺が守らなくては!
俺の父性本能に点火。


「暁、俺のことは、パパか陸って呼べ」
「ぱ…?…じゃあ、…陸」

恥ずかしいのか何なのか、俺の名前を呼ぶとキョロキョロ視線を泳がせる。
っかわいー!
抱き締めたい!

本能のまま抱き締めると、暁はビクッと体を震わし、腕を突っぱねた。

「や、やだ!ばか!」

そう言いながらも耳まで真っ赤だ。
恥ずかしいのか少し涙目。

え、世の中にこんなかわいい生き物いたんですか?
と心から問いたい。

きっとこれが娘を持ったお父さんの気持ちなんだろう。



その日の放課後は、ほんとに一緒に勉強した。
厳しくするつもりが、授業中とは違い、唸りながらも頑張って問題を解こうとする暁に厳しく出来るはずもなく、甘やかしてしまう俺。
暁の勉強の出来なさは結構深刻で、それでも、

「陸、わかんない」

って言われると、にまにましてしまうのだった。
俺、暁に甘すぎ。

暁は数学に興味を持ったようだった。
でも聞いてくるのは、問題自体ではなく、この公式はなんでこうなるのか、とか何やら難しいことを聞かれて困った。
それでも、勉強に興味持つのは良いことだ。
パパは嬉しいぞ。


帰りにコンビニに寄った。
暁はお菓子コーナー、アイスコーナー、パンコーナー(菓子パンを見ていた)、デザートコーナーを吟味した結果、パピコを選んだ。
約束通り奢った。

暁が両手にパピコ持ってチューチューしてるところは是非写メりたい。
あれだ、娘の運動会の撮影的な気分。

滅多に使わないケータイのカメラ機能を起動させていると、目の前にパピコの片割れが差し出されていた。

「はい」
「え………くれんの?」
「てか元々、陸の金だしな」

悪戯っぽく笑う暁に俺の心はきれいに射抜かれた。



*****

暁を俺の仲の良い三人(頭がカラフル)に紹介した。
暁は髪も染めてなかったし、派手ではなかったから、最初は怪訝な視線を送ってたけど、結局暁にメロメロになってた。
みんなお父さん気分か。
ほんとのパパは俺だけどな。

髪は俺と同じ色にさせ、ピアスも同じ数だけ開けさせた。
暁はめんどくさいって言ってたけど、結局俺の言う通りにした(お菓子で釣った)。



ある日の朝、暁はものすごく機嫌が悪かった。
いや、テンションが低かった。
元々高い方ではないけど、こんなに低いのを見るのは、はじめてだった。

「暁、どうしたんだよ?」
「………」
「暁?」
「…痴漢にあった」


…はああぁああ!?
現れた。
ついに魔の手が現れた。

「何された!?」
「ケツさわられて、揉まれて、女と間違ってんのかと思ったけど、前も触られたから違うと思う」

こんちくしょおおお!
俺の大事な愛娘に何してくれてんだ!

「捕まえようとしたのに逃がした」

何で俺なんか。
男も痴漢に合うんだな。
とかブツブツ言ってる暁を見て、俺は決心した。

その日から俺は暁を送り迎えするようになった。
暁は過保護だとか言ってたけど、暁が魔の手に汚されるよりはましだ。
俺が勝手にやってることなのに、暁はありがとうなって毎回言った。
パパはその言葉で早起きの辛さなんて吹っ飛ぶよ。



*****

暁に彼女が出来た。

屋上でいつもの五人で昼飯を食べていたら(暁は寒いから嫌がるけど無理矢理)、暁が報告してきた。

野郎みんなで泣いた。
暁はおろおろしてたけど、パパたちは一緒にめそめそ泣いた。
娘を嫁に出す気分。
ほんとのパパは俺だけど。

カラフルな頭の集団が円になってめそめそ泣く構図はちょっておかしかったかもしれない。

「暁、彼女から俺にあいさつは?」
「は?何で陸にあいさつすんだよ?」

なんでって!
父親の俺に、「娘さんとお付きあいさせてもらってます」くらいは言うもんじゃないのか?
けしからん。
どんな女狐だ。
自分はそんなこと一切したことないけど、関係ない。
今、俺には三人の彼女がいるけど関係ない。
今の俺はお父さんなのだから。



その日の帰り、俺は誰が見てもわかるほど、落ち込んでいた。

暁の彼女(俺は認めていない)が暁を騙すような悪い女だったら……。
俺が大切に大切に育ててきた暁が……。
暁は騙されやすいんだぞ!
お菓子(特にチョコだと効果絶大)でつられるんだぞ!
でもそこも、かわいいんだぞ!

今までにも彼女いたことあるみたいだけど無事だったのが奇跡だ!
暁みたいな天使を汚す外道な奴は世の中にたくさん………

「陸!…りーくっ!」

暁が俺を呼んでいる。
うぅ、かわいい。

「りっくーん?」

かーわーいー!
さすが俺がお腹を痛めて産んだ子なだけある。
………いや、産んでないか。

「ちょ、うわっ」

俺の周りをチョロチョロしてた暁の肩を掴み、鼻にキスした。

キスしたり、抱きついたりの俺のスキンシップに最初は嫌がったり恥ずかしがったりしてたけど、慣れてくれたらしく、何も言わなくなった(口はさすがに嫌がる)。

「陸!」
「なに?」
「うんと……俺、彼女いるけど、………陸と、一緒にいる方が……………………すき」

俺が元気無かったから気を遣ってくれたんだろう。
かわいすぎる。
暁は俯いてて真っ赤だ。

そんなに恥ずかしいなら言わなきゃいいのに。
いや、俺のために言ってくれたのか。

「いや、俺にそんなこと言われても嬉しくないかもしれないけど…」

顔の熱が冷めないのか、顔の前で手をパタパタ団扇のように動かし扇いでいる。

逃げるように俺から離れていく暁を後ろから抱き寄せる。

「ゎわっ…」
「暁」
「なに」
「ぜっっったい嫁には行かせないからな」
「…嫁……?」


誰にもあげない。
俺の暁。





―――――
もはらです!
陸くんにとって暁ちゃんは娘です。
暁ちゃんにとって陸くんはお兄ちゃん的存在です。
本編では陸くんあんまり出せなかったんで、こっちに。
書いてて、だんっだんよくわからなくなりました。
親バカな陸くんを書きたかっただけなのに。
続き(受験〜先生になるまで)も考えてますが、エロくないし、迷ってます。
あと本編には機会がなくて書けてませんが暁ちゃんは甘いもの大好きです。
バレンタインはチョコプレイかなー(笑)

よければ一言お願いします!




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