龍の鬚を蟻が狙う
エプロンをつけて、言われたテーブルに飲み物を持っていく。
男子生徒の二人組だった。
「ウーロン茶です」
テーブルに置き、横に座る。
何で俺が敬語使わなきゃいけないんだ。
いや、生徒でも客だ。
我慢だ俺。
「かわいいね」
どこがだよ。
その目は節穴か。
「あはは、どうも」
苦笑いしか出来ない。
それより俺なんかが接客して金取っていいのか?
ふと、男子生徒の顔を見ると目の下に睫毛がついていた。
顔を近づけ、身を乗りだし中指で優しく擦ると取れた。
「取れた」
見上げ、笑いかけると、目の前の顔がみるみるうちに赤くなってく。
こいつ熱あんじゃねえの?
ガシッと両手で両肩を掴まれてビックリした。
何だ?保健室か?
「あ、保健室なら、」
「小悪魔なアキちゃんにはチョコパフェね。俺のおごりー」
俺の言葉を遮り、男子生徒と俺とを割って井上が登場し、そう言うと俺の前にチョコパフェを置いた。
肩から手が離れた。
やった!
チョコパフェだー!
「いただきますっ!井上、ありがとう!」
待ちきれずチョコパフェをほうばりながら言うと、井上は一瞬固まり、カツラがずれないように優しく俺の頭を撫でた。
ほんと小悪魔。
ほんと小悪魔。
とか意味不明なことを繰り返す井上に男子生徒は問いかけた。
「え、てか、暁ちゃんて、…あの先生の暁ちゃん!?」
は?
わかってなかったのか?
「そうだよー!我らが担任アキちゃんです!」
「かわいい。超かわいい」
「気づかなかったよな」
チョコパフェに集中しすぎて会話が全く頭に入ってこない。
食べてる間も勝手に開く脚を、井上は俺の膝を持ち何度も閉じさせた。
もう開いたままでよくないか?
食べ終わり、満足に浸っていると、次の客につくように言われた。
この辺から俺は、ヤケというか、吹っ切れていた。
目を擦りそうになると女子に怒られ、脚を開いていると井上に怒られること以外はいつもと同じになっていた。
次のお客さんは俺と同い年くらいの男二人。
卒業生か?
「かわいーね、ほんとに男?」
「もちろんです」
むかつくことに俺を高校生だと思っているらしく、馴れ馴れしい。
でも、俺は教師だと伝えても、女装してることも、この年になって制服着てることも恥ずかしいし黙ってた。
「ねえ、ほんとに男か確かめさせてよ」
「へ?」
男は俺のペッタンコの胸を撫でた。
「あはは、やめてくださいよー」
嫌なのを顔に出さないようにさりげなく身を引き、手を掴むが、手はしっかり付いてくる。
こいつきもちわるっ。
男の胸触って何が楽しいんだ。
「アキちゃん、休憩入って良いよー!」
井上の声がかかり、ちょうど良かったから立ち上がり、失礼しますと男に声をかけてエプロンを外し、教室を出た。
はあーと一つ溜め息をつき、ほっとしてると
「あぐっ!」
ヘッドロックがかかった。
そのまま引きずられる。
「う゛ぅ゛…」
苦しい。
息出来ない。
こんなこと俺にすんのは世の中に一人しか知らない。
「か、がみ゛…」
ちょっと面貸してもらおうか。
そう言う加賀見の顔は世にも恐ろしい顔をしていた。
怖い。
無理矢理四階まで連れていかれる。
四階は、控え室とか、物置になっていて店とかがないから他の階と違って静かだ。
といっても人はまばらにいる。
何個か明かりが点いている教室がある。
誰もいない教室に押し込まれた。
「ちょ、なん」
「誰彼構わず色目使ってんじゃねえよ」
い、色目!?
そういうの使えんのは俺じゃなくて加賀見とか三上だろ!?
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