龍の鬚を蟻が狙う


「暁、何でここにいんの?」

加賀見越しに三上と話す。

「空気に耐えられなくなって逃げてきた。もう帰りたい」
「何でだよ。次セーラー着ろ。セーラー」

加賀見と三上でセーラー服について語り出した。
おい、なんで俺がセーラー着ることになってるんだ。
俺は着ないぞ。

気分の乗らない俺に、追い討ちをかけるようにケータイが鳴る。
電話だ。
井上だ。
井上には悪いが出たくない…。

「もしも」
「アキちゃーん!ごめんねー!ケータイとデジカメだけに我慢するから帰ってきてー!お客さん来はじめてるよー!」

俺の言葉を遮る井上の声に焦りが含まれている。
帰らないとやばいのがわかる。
だけどこんな姿、人に晒したくない。
でもやるって言っちゃったし。

「俺、行く…」

全く行く気しないが、お菓子のためだ。
仕方ない。

重たい足取りで屋上を出た。


うわ、人だらけ。
一般人も入る時間になり、人ばっかり。
こんな格好でこんな人の中、歩きたくない。

そんなとき、加賀見がちょうどよく、屋上から下りてきた。

こいつに助け求めんのは癪だが、今は仕方ない。
むかつくことに俺より背が高い加賀見なら俺を隠せる。

「俺を隠してください」

俺は素直に頭を下げた。



こいつやっぱ鬼だ。

隠すどころか、加賀見の横に並ばされて歩かされてる。
こいつの隣とか余計目立つだろ!

みんなじろじろ見てくる。
男も女もどいつもこいつも!

ごめんなさい。
俺なんかが加賀見と並んでごめんなさい。

「お前すごいな。めっちゃ見られてんだけど。女だけじゃなくて男まで見てるぞ。どこまで行っても目立つな」

皮肉を込めて言ったけど俺は感心している。
三上と歩いてたらもっとすごいんだもんな。
それだけ見られるルックスなわけだけど。

「いや、お前だろ」

その言葉にサアーと青ざめる。

「変態教師って思われてる!?」
「は?」

そうだよな。
女装した教師が当たり前のように廊下歩いてたら見るよな。
俺、肩幅とかあんまりないし、俯いてたら俺だってバレないと思ってた。
甘かった…。
あああー…明日から俺は女装が趣味とか思われるのか?

「もー帰りてえよ…」

こんな格好で歩くのも、加賀見の横を歩くのも不安で、加賀見のシャツを無意識にぎゅうぅと握っていた。
加賀見がそれに気づいて喉で笑う。
俺もそれにやっと気づいてすぐに手を離した。

「笑うなばか!」

すると加賀見は自分の体で俺の体を隠してきゅうって乳首を摘んだ。

「ひぅっ…」

なななっ、何してっ…!?

キョロキョロ回りを見渡す。
どうやら誰も気づいてないようだ。
それは良いけど、こんなとこで感じてしまったのが恥ずかしくて顔が上げられない。

「何すんだよ!」

加賀見が俺の肩を抱いて耳を寄せた。
俺に近づくとお前まで変態の仲間だと思われるぞ。
周りからきゃああと歓声が上がる。
ーーっ、なんだよ、見んな。

「見せてやれよ。女みたいなのは今の格好だけじゃなくて、乳首触られて感じるとこもだって」
「〜〜〜〜っ、死ね!!」

肩に乗った手を払って加賀見の肩を全力で叩いた。

加賀見くたばれ。
いや、やっぱり俺がくたばれ。


教室に着くと、もうみんな接客していた。
男子も女装を終え、かわいくなってる。
ほんとの女の子みたいだ。
こんな中に俺がいたら浮くぞ。
女子も何かかっこよくなってる。
俺なんか足元にも及ばないイケメンだ。
へこんできた…。

お客さんもけっこう入ってて賑やかだ。
何か改めて文化祭なんだなあって思う。

突っ立ってたら、井上にすぐ接客するよう言われた。

「売り上げ向上のために頑張ってね!」







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