龍の鬚を蟻が狙う


「アキちゃーん、おねがーい」
「やだ。絶対やだ」
「なんでー!?絶対似合うのにー!」

めんどくさいことになった。


うちの学校も文化祭の季節になり、うちのクラスは喫茶店をやるらしい。
ただの喫茶店じゃなくて女装男装喫茶店。
男子が女装、女子が男装して接客するという。

なかなかの懲りようで、男子は顔立ちが中性的で、いかにも似合いそうな数人を女装、女子は、同姓にキャーキャー言われてるような数人を男装させ接客に回し、あとは調理やサポート、客引きに回る。
ほんとに優勝を狙っているらしい。
そこまではいい。

「アキちゃんも接客して?」
「やだ」
「えー!?かわいーアキちゃんみたい!いや!今でも十分かわいいけど!」

なんで俺が。
普通に考えておかしいだろ。
ただ接客ならまだしも、女装すんだぞ。
絶対似合わねえよ。
気色悪いっつーの。

なのに、井上を中心に教室全体がなぜか俺に期待の眼差しを向けている。
なんだよ。
なんでだよ。

あれか、俺を晒し者にしたいのか。
なんて奴らだ。

「アキちゃん、売り上げ一位は景品あるんだよー?」
「あっそ」

景品て別に俺がもらえるわけでもないし。
それに興味ない。

「噂によると豪華お菓子詰め合わせって話だよー?」

まじかよ。
いいなあ。

「俺の分あげるよ?」

井上がそう言うと俺も!私も!と挙手する生徒たちが出てきた。
こいつら、俺の責め方わかってやがる。

ざっと数えて20人は固い。
20人分のお菓子が…。
チョコが…。

「でも、優勝出来るかなんて…」
「アキちゃん、俺に不可能はなーいっ!」

確かに。
井上が呼び込みやったりしたら…。
井上の知り合いがみんな来たりしたら…。

「それにアキちゃんのためなら俺頑張るよ?」

女装だぞ、いいのか?
でも半日我慢するだけで20人分のお菓子…。
いや、でも女装は…!

「アキちゃん、俺逹最後の文化祭なんだよ?」
「そうだよ!暁ちゃんと一緒に思い出作りてえよ!」

…っ、くっそー!
ここまで言われて断れるわけがない。

「…………や、…る」

わああ、と教室が一気に騒がしくなる。
うるせー。





*****

当日、俺は女子に囲まれ、めかし込まれた。
化粧は拒否したが、通らなかった。

「アキちゃん肌きれいだから何もいらないね!」

俺を囲む女子たちは、俺のことなのに、俺の意見を全く必要としておらず、授業中では見たこともないくらい、いきいきしていた。
俺はその勢いに押され、されるがままだ。

目の回りに何かを塗られ、書かれ、睫毛にも何か塗られた。
つけまつげとやらはさすがに拒否した。

服は制服の上にふりふりのレースのエプロンを着せられた。
俺に似合うわけがない。
制服はもちろん女物だ。
うちの女子の制服は、チェックのスカートにセーター、ブラウス、リボン。

制服は井上がくれたんだけど、どこから持ってきたのかも、何も言ってないのに何でサイズが俺にピッタリなのも、謎だ。

この歳になって制服…。
しかも女物…。

カツラも被せられた。
胸くらいまであって毛先がくるくるだ。

俺は何をしているんだ。

目を擦ろうとしたら怒られた。

「目は擦っちゃだめ!」
「えー…」
「あと脚も閉じて!」
「えぇー…」

女子って大変だな。
俺には無理だ。

はい、と声をかけられて完成したらしい。
目の前にいる女子数名に見つめられる。
なんだこれ、恥ずかしい。

「暁ちゃんかわいい!」
「うそつけ」
「ほんとだって!鏡見てみなよ!」

無理矢理手鏡を渡され、恐る恐る覗く。
見たくねー。

「………」
「ね?かわいいね?」
「きもくね?」







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