龍の鬚を蟻が狙う


「嫉妬してんじゃねぇの?」

…嫉妬…?
俺が?

「嫉妬?」
「ああ」

昼休みの会話を思い出す。
加賀見が女の子の話したからか?
それごときで、こんなに…?

誰に嫉妬したんだ?
加賀見と三上にタイプ聞いてくれって言ってきた生徒か?
それとも加賀見に冷められちゃった女の子か?

かあ、と顔が赤くなる。
加賀見をみると、どこか楽しそうに笑っていた。

「ちっ、違う!」

恥ずかしい。
だけど、俺にはもっと気にかかることがあった。

「し、嫉妬じゃない!」
「いや、そうだろ」
「だ、れがお前のために!」
「妬いたんだろ?」

加賀見が俺の髪をすく。
その手を振り払い、逃げようとすると腰を掴まれバランスを崩して床に落ちた。

「いっつー…」

高さはたいして無いから、そうでもないけど。
その上に加賀見がのし掛かってくる。

「重い…!」

マウントを取られて動けない。

「暁」
「なんだよ…」
「妬いたんだろ?」
「違う…」

目にじわじわ水が溜まって、腹のムカムカが気にならないくらい、胸がぎゅーって痛くなった。
手の甲で涙を拭い、顔をブンブン振った。

「暁」
「だって…っ…かがみ、しっと、とか…冷めるって…言ったも…っ…」

上から小さな溜め息が聞こえてきて、もっと泣きたくなった。

やだ。
嫌われる。

加賀見は俺の上から退き、俺の腕を掴んで引っ張り、上体を起こさせ、膝にのせた。
なんかこれ、恥ずかしい。

逃げたくなったけど、加賀見の手が背中に回ってきたから逃げられなくなった。
むかつくことに先を読まれてる。

「冷めねぇよ、お前は別だ」
「…ほんとに?」
「おー」

加賀見が瞼にキスをして、しょっぺ、って言った。
うるさいな。

「暁が嫉妬するとはな」

ニヤッと笑って言った。
ちくしょう。
かっこいい。
むかつく。

「嫉妬ていうか…」
「あ?何だよ」
「…や!何でもない!」

次言おうとしたことを考えて、恥ずかしすぎてやめた。
最近気色悪いぞ、俺。

「あ゛?言えよ」
「やだ!んっ」

加賀見がちゅっ、とキスした。

「言わなきゃ、このまま続きすんぞ」

こいつは悲しいことにやる男だ。
有言実行男だ。
やるっつったら、ほんとにやる。

言うしかないのか?
いや、でも尋常じゃない恥ずかしさだぞ。
……恥ずかしい。

「んっ、」

考えてる間にまたキスされ、唇をペロリと舐められる。
うー。

「わかった…!言、う…」

顔近い。
近い近い近い。

これから言うことを思い返し、絶望的な気持ちになった。

顔が見れなくて加賀見の肩に顔を埋めた。
この行動自体も十分恥ずかしいが、このときの俺は必死すぎて気づかない。

「早く言え」
「うっせぇ。…心の準備してんだよ」

お前、俺の身になってみろ。
もう泣きたい。

何度か深呼吸し、覚悟を決めた。


「嫉妬、というか……ひっ…ひと…ひとっ、……ひとっ、り、じ、め…したく……なったと…いうか…」



あああー!
恥ずかしい!
なんだこれ!
もうやだ!

気持ち悪いよな!
わかってる!
わかってるんだ!

女の子とかが言うなら、かわいいんだろうけど、言ってるの俺だからな。
気持ち悪い。
気色悪い。


加賀見はぐっと俺の髪を鷲掴みして、引っ張り、肩から顔を離した。

「痛っ…」

お前のせいで俺ハゲるかも。


聞いて後悔しただろ。
はっきり、きもいって言って良いぞ。

「もうしてんだろ」

は?
何の話だ?

「えっ?…んんっ…!」

加賀見が口に噛みついてきた。

あれ?
言ったら続きしないんじゃねぇの?






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