龍の鬚を蟻が狙う


もう認めるしかない。
俺はこの理不尽な赤い頭の美形野郎が好きらしい。

行為中は散々苛めて泣かせて、俺の嫌がることばっかするのに、その後の甘やかしてくれる腕が欲しくてたまらない。
抱き締められて心地よかったのも、加賀見の匂いが落ち着くのも、キスされてやじゃなかったのも、すきだかららしい。

あの女の子に助け船出したのだってそうだ。
あれは同情したんじゃない。
自分に置き換えたんだ。
自分と同じような感情を加賀見に抱く女の子が頑なに拒絶されるのをみて、耐えられなくなったんだ。



「あっそ」

どんだけかわいくないんだ、俺。
まあ、今に始まったことじゃねぇけど。


「顔、…真っ赤だぞ」
「…っ!?うるさいっ!」

加賀見の笑い声が上から聞こえる。
俯いて顔を隠した。
なのに顎を掴まれ、強制的に上へ向けさせられる。

「……………加賀見」
「あ?」


「俺も……たぶん、………す、き」


なんだこれ。
めちゃくちゃ恥ずかしい。
たぶんって。
ちゃんと好きなのに。
俺って意地っ張り?

すきって言うだけでここまで照れるって何だ。
中坊か俺は。


「……は」
「………」

加賀見が見れない。
どんな顔してるか気になるけど、それより自分の顔見られたくない。


「本気か?」

嘘なら許さない、という脅しにも聞こえた。
怖ぇよ。

「冗談で、こ、んなこと、…言え、ねぇよ…」
「もっかい言え」
「は!?…やだ!無理!」

加賀見から離れようと腕を突っぱねたら、その手を握られて逃げられなくされてしまう。

「言え」

ニヤッと少し口角を上げていう加賀見は馬鹿みたいにかっこいい。
俺を捕らえて放さない。

「暁」
「っ…!」

俺の髪をすきながら、そっと耳に触れる。

逃がさない、なんて言ってたけどな、俺は逃げる気もねぇしな、逃げらんねぇよ。
お前から離れることなんて出来ない。
むかつくから言わないけど。


何で二回も言わなきゃいけないんだ。
理不尽だ。
言わなきゃ良かった。
うー。


「…っ…だからっ……す、き、…だって…言って、ん、…だろっ…」


恥ずかしすぎて、顔見れなくて、顔を横に向けた。

もうやだ。
何でこんなに恥ずかしいんだ。
どっか悪いんじゃないかってくらい心臓がうるさい。
静まれ、心臓。

あたふたしてる俺をいいことに加賀見は俺の耳にちゅっと口付けた。

「ーーっ!?」

いちいち恥ずかしいことしやがって。
わざとか?

耳を隠したいけど掴まれてて出来ない。


「暁、こっち向け」
「やだ…んっ」

耳の中に加賀見の舌が這ってきて、ヌルヌルする感覚と、ガサガサ大きい音がする。
ぞくぞくぞくっと背筋に電気が走った。

「んっ、やっ!やだっ…ぁっ…」
「こっち見ろ」
「わ、かった、からっ…!」

耳から離れていく加賀見を見た。
俺の顔を見てククッと喉で笑った。
今、思わずかっこいいと思った俺、くたばれ。

「何そんなに赤くなってんだよ」
「だって…」

何でって言われても。
恥ずかしいものは恥ずかしい。


「ニヤニヤすんな!」
「かわいいな、お前」
「…っ!?からかうなよ!」

バカにしてんのか!?

何だこの甘い雰囲気は!
恐ろしい。
くわばらくわばら。

加賀見は慣れてんのかもしれないが、俺は慣れてない。
自分で演出したこともないし、するところを想像しただけで、うすら寒い。
加賀見は似合うが、俺には似合わない。
それに……恥ずかしい。
くわばらくわばら。







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