龍の鬚を蟻が狙う


「やだ、加賀見っ!」

ベッドに投げられ、のし掛かってきた。

「やだって…!…いた…い…」

抵抗しようとすると、手首をさらに強い力で握られる。
痛い痛い。
骨折れる。

それに、なにも言ってくれない。
怖い。

「ぅむっ…ん、ぅう゛…」

無理矢理口付けられる。
握られた方の手の指先が冷たくなって来て、感覚が無くなってきた。

舌が入ってきて昨日加賀見に噛まれて切れた傷を何度も刺激される。
舌で擦られたり、絡められたり、歯で噛まれ、舌が痺れた。

シャツを捲られ、中に冷たい手が入ってくる。
体がビクッと震えた。
無言なのが怖くて抵抗するのはやめて、体の力を抜く。

何で怒ってんの?
俺、なんかした?
無意識に加賀見の気にくわないことをしたんだと思うと鼻の奥がツンとした。

加賀見が離れて、俺の顔を見て少し驚いた顔をした。
ゆっくり手を放してくれる。
握られた手は痺れて感覚がない。
確かめるようにグー、パー、グー、パー開いたり握ったりした。


「何で泣いてんだよ」

え、俺泣いてる?
歪んだ視界に加賀見が写る。

泣いてると気づくと、後から後から涙が出てくる。
しゃくりまで出てきて、ガキみたいだ。
感覚の戻ってきた手で目を擦った。


「…っに…っ…れの、こっ…きらっ…っく…ら、ちかよっ…から…」
「何言ってんのか全然わかんねぇよ。泣くな」

そう言って背中を擦ってくれる。
お前が泣かせたんだろ、という言葉は心に閉まっておく。
深呼吸を何度かして、呼吸を整えた。

「っだからっ…!っ俺のこと、…そんなにきらいなら、っ…も、近寄んねぇ、よ…」
「………」

自分で言ってて悲しくなってきた。
また視界が歪む。
加賀見はなぜか黙ってて、俺は次に言われる言葉を想像して怖くなった。
たまに俺のしゃくりが聞こえるだけの空気に逃げ出したくなる。


「俺に嫌われてると思って、んな顔してんのか?」

加賀見はさっきの怒ってた顔とは打って変わって、嬉しそうに笑っていた。
こんな顔が見れるのは珍しいけど、人が真剣に言ってんのに失礼じゃないか?

「…っ悪いかよ」
「暁」
「…んだよ」

加賀見が俺の耳に口を寄せた。

「お前を嫌いな奴なんていねぇよ」

耳元で言われてゾクッとした。
息が耳にかかる。
心臓うるさい。
また泣きそうになった。


「も、いいだろ…」

加賀見の下から抜け出し、ベッドから離れようとすると、足を引っ掛けられる。

「ひぃっ…」

一瞬、体が宙に浮き、床に転んだ。
手のひらと膝が床に擦れ、体重がかかる。
膝が痛い。

「いってぇ…」

体を反転させ、座り、膝を擦ると加賀見に肩を押された。
ドンッ、と床に背中を打ち付ける。

「うー…痛い…」

こいつさっきからひどすぎる。
俺になんの恨みが…。

俺に覆い被さってる加賀見は、にやっと笑っていた。
俺が痛がってんのが、そんなに楽しいか、この野郎。


「俺な、お前が俺のせいで泣いたり、痛がったりしてる顔見ると、すっげぇ興奮する」
「変態か」
「かもな」

口角が少しだけ上がったのが見えたかと思うと、口に噛みつかれた。

「ふ、む……ん…んぁ…」

口内を加賀見の舌が暴れる。

加賀見から逃げようと、顔を反らそうとすると、後頭部に手を回し、髪をかき混ぜらる。
もう片方はシャツの中に滑り込んできた。

脇腹を撫でられると、腹の筋肉にビクッビクッと力が入る。
加賀見の冷たい手に、どんどん敏感になっていく気がした。







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