龍の鬚を蟻が狙う



ベッドに下ろされて、頭拭いてくれた。
気持ち良さに目を瞑る。
風呂で体温まったし、加賀見の匂いに安心して眠くなってきた。

「暁?」
「ん…ねむ、い」
「寝るか?」
「でも…いま寝たら…、起きれない…」
「起こしてやるよ、寝ろ」
「ん…あり、がと…」

睡魔に負けながら加賀見の肩に額を擦り付けた。
いい匂い。
もっと匂いに近づきたくて首に腕巻き付け体を密着させた。

「おい、襲うぞ」
「んぅ…」

加賀見が暖かくてぎゅってくっつく。
加賀見は溜め息をついて布団をかけてくれた。
おやすみ。



「んぅー…ふぁっ、ん…っ…」

誰だよ、うるせぇ。
それに何か息苦しい。
あと何か舌痛い。
でも眠いから我慢…。

「むぅ…ん、ぁふっ…」

だからうるせぇって…。
誰だよ。

……ん?
んん?
んんんんん?

ぼやける視界に何か写る。
誰?
何?
赤い。
…加賀見!?
近ぇ!

「わっ…んん!いたっ…んはっ…!」

舌が絡められると、痛い。
腹を軽く蹴ったら離してくれた。

「朝から…っ…何を…」
「起きないから起こしてやったんだろ」

…そうなのか?

「つーかお前昨日俺の舌噛んだだろ。切れて痛ぇんだけど」
「いいから、もっかいさせろ」
「は?やだ。……んーっ、ひたっ…ぅむっ…」

ああ、もう気持ちいいし、身を任せちゃおっかな、とか寝ぼけて思った俺の目に時計が写った。

…!?
やっべー!

「はなっ…ん…せっ…!ん、ちょっ、…ま…」

とりあえず力の限り暴れたら少し加賀見が離れて、急いでベッドから脱出した。

「お前起こすのおせぇよ!」
「あ?…早いくらいだろ」
「お前は遅刻あたりまえだからいいけど俺は違うんだよ!」

自己ベストじゃないかという早さで顔を洗い、歯を磨き、スーツに着替えた。

加賀見に部屋の鍵を渡す。

「俺もう行くから鍵かけて出ろ。じゃ、学校でな」

生まれてはじめてあんなに俊敏に動いたかもしれない。
やれば出来る子だな、俺。



学校ではなんとなく加賀見に会いたくなくて避けた。
と言っても井上に誘われた飯断ったりとか、細やかな抵抗。
いつも加賀見としていることを考えたら後ろめたくてしょうがないけど、今日はなぜかいつも以上だ。

別に俺がいなくても加賀見は何とも思わないだろうし、別に何か反応を求めてしている訳ではない。

俺はここでは先生なんだ。


学校が終わって、家に帰って気づいた。
鍵、加賀見に貸したままだ…。
まじかよ。
入れねぇよ。

野宿か。
いやいや、アホか俺は。
車で寝るか?
…バッテリー上がりそうだな。
ネカフェでも行くか。

ドアの前にしゃがんで、これからどうするか考える。

「いや…、陸んとこ、行くか?」

うまい飯食いたいしな、と寂しく一人言を呟いたところでガチャッとドアが開く。
腕が伸びてきて、ドアの向こうに引き入れられた。

「うわぁっ…!?」

ななななんだ!?
泥棒!?

「え、陸?」

さっきまで陸のとこに行こうかと思ってたからか、勝手にその名前が出た。
何となく空気が変わったのがわかる。
冷えた空気。
何で?

暗くてわからなかったが、背丈や体格から陸じゃないのがわかる。

「か、痛っ!ちょっとまっ…」

名前を呼ぼうとした瞬間、手首をすごい力で握られ、引きずられる。
痣になる、なんて言える空気じゃなかった。


電気の着いてるリビングで赤い後ろ姿が見えた。
やっぱり加賀見だ。
何度呼び掛けても返事してくれない。
こっち見てくれない。







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