龍の鬚を蟻が狙う


目が覚めて、部屋を見渡すと加賀見はいなかった。
帰ったのか?
外を見るとほんの少しだけ明るくなりかけていた。
俺、どんだけ寝たんだ。

大きく伸びをし、ベッドから出る。
今から寝たら、起きれなくなりそうで風呂に入ることにした。

お湯を溜めて温かい湯船に浸かった。
暖まりながら、昨日のことを思い出してみる。



昨日は加賀見に玄関で押し倒されて、横抱きで運ばれる途中、胸に顔を押し付けられた。
その瞬間、いつもと違う匂いが鼻孔を抜けた。
加賀見の匂いじゃない。
何の、いや、誰の匂いかはすぐにわかった。
昼休みの、あの女の子だ。
香水が移るほど接触した、つまり、そういうことだ。
加賀見は男の俺ですら抱けるんだ。
あんな可愛い子、手ぇ出さないわけない。
俺が加賀見でも同じことする。

なのに腹と言うか胸と言うか、気持ち悪くなった。
ただ加賀見があの子とヤった、それだけ。
だとしたら何だと言うのだ。
俺には関係ない。
加賀見が、俺以外を、抱いた、だけだ。

そもそも、俺が抱かれていることの方がおかしい。
加賀見は女抱きすぎて、男抱くのが新鮮だっただけだろう。
中出ししたいとか、そういう。
俺を、抱きたいんじゃなくて、男の身体を抱くことに興味を持ってるだけだ。

早く俺に飽きればいいって思ったはずなのに。

それに、今回はたまたま知っただけで、今までにだって、俺と平行して関係を持っていた人間がいるかもしれない。
何もおかしいことじゃない。

なのに、なんでこんな胸が痛いんだ。
なんで泣きそうにならなきゃいけないんだ。
昼休みはいい匂いだと思ったあの香水も、もう一生嗅ぎたくない。

俺、どうしちゃったんだよ。

行為中にそんなことを考えていると、妙に鋭い加賀見に感づかれ、何度も言えって言われた。
言えるわけないだろ。
俺だってワケわかんないのに。

加賀見が俺にしたみたいに他の人間にもしたのかと思うとすっげぇ痛ぇよ。
これじゃあ、まるで……



湯船に浸かりながら、自分の世界に入っていると、ガチャッ!っと大きい音がしてビックリした。
音の方を見ると開いたドアの向こうに加賀見がいる。

「…帰ったんじゃねぇの?てかドア壊れんだけど」

どんだけ乱暴に開けたら、あんなでかい音すんだ。

「煙草買いに行っただけ」
「ふーん。俺もう出るからどけろ」
「………」
「……ぎゃっ!何!?高い高い!怖い!」

加賀見は俺の脇に手を入れ湯船から引きずり上げた。
子供にする高い高いみたいな…。

高くて怖くて加賀見の首に腕を絡め、体を寄せると、加賀見の服が濡れていく。
加賀見は気にした様子もなく、そのまま俺を風呂から出し、バスタオルで巻いた。
バスタオルごと抱かれ、俺が暴れることを想定してか、いつもと違って横抱きじゃない。
普通のだっこ。
怪力め。
抵抗すんのもめんどくさい。


そもそも何でいつも横抱きなんだ。
あれか、俺を辱しめたいのか。
そんな人間がいるわけ……いや、加賀見ならありうる。
なんて野郎だ。

一人で納得してると、気になることが出てきた。

「加賀見、風呂入った?」
「シャワー借りた」

加賀見の首元に顔を埋めてみた。
くんくん匂いを嗅ぐ。
うん、あの匂いしない。
加賀見の匂いしかしない。

ほっとして、思わず肩に頬を擦り寄せそうになり、寸前で自分の行動の恥ずかしさに気づいた。
俺、何しようとしてんだ!
あっぶねえぇ!
乙女か!
まじで!
自分がするところを第三者の目で想像し、気色悪くなくなった。






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