龍の鬚を蟻が狙う



放課後、三上とその辺をぶらついていたら、10人くらいの柄の悪いやつに絡まれた。
奴等は俺と三上を知っていた。
知ってて喧嘩を売ってきたらしい。


「龍、俺試したい技あんだよ。していい?」

またかよ、と内心呟き、勝手にしろ、と返した。
少し離れたところでしゃがむ。

三上はプロレス技をかけていた。
最近あいつ、プロレスばっかりだな。

俺はあの不完全燃焼なセックスのせいで機嫌が悪く、三上に全て任せ、煙草を吸いながらそれを見ていた。
三上はそれに少し驚いていた。

「珍しいな」
「おう、欲求不満」
「ははっ、昼の女は?」
「足りねぇ」
「若いねー」

と三上がケラケラ笑いながらもプロレス技をかけてるうちに、だいたい片付いた。
一人残ってる。
主格らしき奴だけは手を出さないでおいたらしい。
楽しみは後だ。

そいつは仲間がやられて危険を悟ったのか、懐に手を入れ、ナイフを取りだし、俺に向けて振った。
すると鋭い刃部が日に当たり、きら、と光った。
俺の苛立ちは最高潮。
ゆっくり立ち上がり、煙草を踏みつけ、消した。

「あーあ、やめとけばいいのに」

三上の声が後ろから聞こえた。
俺から離れていく足音がする。
その音が止まるのを確認して、俺は、そいつを睨む。
それだけで、そいつは怯んだようで、ナイフを持つ手が微かに震えていた。

俺は二歩前に出てナイフを持つ右手に向かって足を振り上げる。
するとナイフは手から飛び出し宙を切ったかと思うと地面を転がった。
タン、と音がして三上がナイフを踏んで動きを止めたのがわかる。

「そいつはやるよ。俺は帰る」
「ああ」

三上の足音が離れていく。

足音が聞こえなくなり、目の前にいる、尻餅をついているそいつに一歩一歩近づいた。

「ひ…ひ…やめ……ごめんなさ…」

そう言いながら後ずさっていく。
今更遅ぇよ。
バカじゃねぇのか。
本気で俺に勝てると思ってたのかよ。
身の程知らずな野郎。


ついに背中が壁に当たると俺と目を合わせられないのか何か呟きながらキョロキョロ目を泳がせている。

そいつの前にしゃがみ、目線を合わせた。

「あんたさ、あんな物騒なもん使ったんだから、俺にも使われる覚悟、出来てんだよな?」

俺を見る目が震え、恐怖に染まる。
その目を見ると笑いが込み上げて来た。
楽しい。

「でも、安心していいぜ。あんな先が尖った危ないもの、俺は使ったりしねぇしよ」

そう言いながら、口角を上げると少し目の中の震えが治まった気がした。
俺はポケットを探り煙草を出す。
煙草をくわえ、火をつけ、そいつの顔に煙を吐き出した。
うまい。

目の前の男は煙たいのか、ゲホゲホと咳をしてる。
滑稽。

「俺が使うのは、これ」

そう言いながら、トントンと親指で煙草を叩いた。
パラパラと灰がそいつの脚の間に落ちた。

目の震えがひどくなる。
違う、目だけじゃない。
全身が震えている。
ああ、こいつほんとバカだな。

「どこがいい?あんたに選ばせてやるよ」

顔が青くなっていく。
俺には聞き取れない言葉を小さく震えながら話しているけど、俺の耳にも脳にも伝わらない。

「俺が決めていいんだな?」

上から下までそいつを見た。

「ここなんかどうだ?」

そう言い股間を右足の爪先で踏んでやる。
潰れても構わねぇし押し付けるように踏んだ。

「ぐ、ぃ、ぃ、ゃ、ゃめ、ごめ、や」

俺は自分の唇をそろりと舐めた。

「決めた」

そう言いながら左手の親指でそいつの眉間を押した。
そいつの震えがひどくなり、横にブンブンと首を振る。

「動いたらあぶねぇよ?失明したいなら別だけどな」

そう言うとそいつの体はピタリと止まり、小刻みな震えだけが残る。
煙草と視線が合う。

俺はゆっくり、焦らすように眉間に向かって煙草を近づけていった。

ゆっくりゆっくり。

じりじり、じりじり。


「おい」

寸止め。
あと一秒でも遅かったら眉間と煙草が接触してた。

声の主はザッ、ザッと音をたて俺に近づいてくる。

「暁、」

俺が、ため息をつき立ち上がって振り向くと、暁は俺の右手から煙草を抜き取り、自分の口へと持っていき、吸った。


「そいつ、見てみろよ。危ねぇよ?」

危ない?

前を向くとそいつは白目を向いて気絶していた。
下の方からシャー、という音がして見てみると、失禁していた。
地面に水溜まりをつくり、もうすぐ俺の靴にまで届くところだった。

「…っ!」

驚いて数歩下がり避難して、暁の方を見ると、煙草の火を消し、どこからか見つけたのか空き缶に吸い殻を入れていた。

「じゃあな」

そう言って俺に背を向けて歩いていく暁の手首を掴んだ。

「なに…」
「お前車は?」
「あーそこのコンビニに」
「行くぞ」
「は?え…」







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