龍の鬚を蟻が狙う



井上が飯の時間に暁を屋上に連れてくるのは、ちゃんと意味があることは知っている。
もちろんを一緒に飯食いたいのもあるんだろうが、これは牽制だ。

この学校の不良と呼ばれている奴らは教師にも手を上げたりするから、俺や三上といるところを見せ、暁に何かしたら、俺らから制裁がある、ということを知らしめている。
井上から直接聞いた訳じゃないが、それくらいはわかる。

暁は全く気づいていないが。

周りの連中も、最初は屋上に教師がいるなんて、と物珍しそうにじろじろ見てたが、煙草吸っても特別注意もしない暁に害はないと思ったのか、今では暁と会話もし、暁の授業にも出ていると聞いた。




「ぁんっ…!いいっ、…は、あっ…そこ、いいっ…!」

そして俺は今あの女を抱いている。

名前も知らないし、知りたいとも思わない。

「ひゃっ、あんっ…かが、みく、んっ…!」
「………名前で呼べよ」
「んあっ…!は…りゅうく、んっ!」

同じ言葉なのに、口に出す人間が違うだけで、こんなに違うのか。

どうしてあいつに名前を呼ばれただけで、あんなに気分が高揚するのか。
あいつに求められる度、どうしてあんなに興奮するのか。

「中っ、あぁっ…中だしてぇっ…!」

出すわけねぇだろ。
つーかゴムしてるしな。

何であいつにはあんなに中出ししたくなるんだろうな。
後処理だって楽なもんじゃねぇし。
そもそも暁以外に後処理なんてした記憶がない。
出したら終わりだった。


この女にも何も感じない。
嫌いな訳ではない。
何も感じないのだ。
もう一生この女とヤることはないだろう。
プラスの感情もマイナスの感情もこれから先、持つことはない。

一応勃ったはいいが、イける気がしない。
だめだ。
ちがう。
匂いも、肌の感じも、声も、顔も違う。

暁と会う前ならどちらかと言うと、体も顔も好みに入る。
中々いい女が手に入ったと思っていたかもしれない。
だが、もうだめだ。

俺は極上を知ってしまった。

少しの煙草の匂い。
俺を呼ぶ声。
弱々しく抵抗する手。
少し垂れた目から溢れる涙。

あれしか俺を絶頂には連れていってくれない。
満たされない。



『加賀見……聞いてやれば?』

つまり、俺を何とも思ってないと言うことなのだろう。
むかつく。

だが、ほんとはそんなことは関係ない。
あいつが俺をどう思っていようが関係ない。
嫌われていようが憎まれてようが、俺はあいつを手放す気など毛頭ない。

ましてや、誰かのものになんて絶対させない。
俺から離れたいとでも言ってみろ。
骨でも折って動けなくして、監禁でもなんでもしてやるよ。

逃がさねぇよ、暁。
お前は俺のもんだ。
誰にもやらない。

常に俺はお前に飢えてる。
食っても食っても空腹で欠乏している。
貪っても貪っても足りない。
お前が足りない。

食いつくしてお前は俺のものだと刻み付けたい。
お前が足んねぇ。
あんなにうまいもんは他に存在しねぇ。

俺を満たせるのは、お前だけだ。

甘やかして傷つけて依存させたい。
俺に依存しろよ。
俺がいなけりゃ狂っちまうくらいになれよ。

抱いても抱いても足りねぇ。
暁が壊れるくらい抱きたい。
無意識に俺を求めるようにさせたい。

他の奴には触らせない。
俺しか知らないあのきれいな孔は俺のものだ。
俺が開発したあのいやらしい体も、だ。

ほんとに孕めばいいのにな。
別に暁が女だったらという訳ではない。
あいつが俺から一生離れられないという拘束具がほしい。

あの耳の塞がったピアスホールは本当に苛つく。
噛み千切ってやりたい。
その衝動を俺が開けた胸のピアスで落ち着ける。


ピアスの次は首輪でもつけるか。






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