龍の鬚を蟻が狙う



昼休み、いつもと同じように加賀見と井上と三上と飯を食ってた。

何で俺が屋上で、ってずっと文句を言っていたけど、今となっては用事が無い限りは来るのが当たり前になった。
井上が毎回職員室に迎えにくるのだから、しかたない。

加賀見と三上の取り巻きとも少し仲良くなった。
担任は3年だけど授業だけなら、他の学年も行くし、ここで飯食うようになってから授業にも出てくれるようになって、誘ってくれた井上に感謝している。
先生というよりは、友達だと思われているが。
まあ、嫌われるよりはいいだろ。

そんないつもの昼休み、俺の頭は小テストのことでいっぱいだった。


屋上の扉が開き、見ると女の子が現れた。

ここに女生徒が来るなんて、滅多に無いことで、全員の注目がそっちに行った。
俺もその子を目で追っていた。

その子はこっちに向かって恥ずかしそうに下を向いて歩いてきた。
そりゃ、これだけ見られればな。

俺、加賀見、井上、三上の円の前までやってきた。
そして、俺と加賀見の間に立ち、加賀見を見ている。

加賀見が見上げると、眉間に皺が寄っていて、機嫌がいいとは、とてもじゃないが言えない顔をしていた。
俺の正面の三上を見ると加賀見の苛つきを察知したのか、苦笑いを浮かべていた。

「か、…加賀見くん」
「………あ?」
「ちょっと話聞いてもらって、いい…?」

少し涙を堪えたように加賀見を見つめる。

女の子は、髪は栗色で、くるくるきれいに巻かれていた。
顔もお人形さんみたいに整っていて、目なんかくりくりで、まつ毛なんかマッチ棒何本乗るんだ?ってくらい長い。
うっすらと化粧もしていて、それがとても似合っていた。

ふわり、と風に乗っていい匂いがした。
香水の匂い。
つまりは、すごく可愛らしい子なのだ。

加賀見と並んでも違和感無いと思う。
お似合い。

さすがに俺でも、この女の子の話が、どういう話かは想像がつく。

「飯の邪魔だ。消えろ」

うわ、きっつい。
さすがに泣いちゃうかな?と女の子を見ると、泣きそうではあったけど、涙を堪えているようだった。

「ご、っごめんなさい。……でも、少しだけで、いいから…」

頑張るねぇ。
そもそもこんな不良の溜まり場みたいなところに女の子一人で来るなんて、すごく勇気のいることだと思う。
みんな見てるし。
あ、俺もか。

それだけ加賀見がすきなんだろう。
だけど、加賀見が次に取る行動は予想できた。
一回言ったら聞かないし絶対拒否で通すだろう。

「加賀見……聞いてやれば?」

勝手に口から出た。
ちょっと自分にビックリした。
加賀見の眉間に皺が寄ったのがわかる。
そんな悪いこと言った?
三上はあちゃーと言うように項垂れた。

女の子は少し嬉しそうに俺を見て、ありがとう、と言うように泣きそうに笑った。

加賀見に睨まれ、前にもこんなことあったなあと思っていた。
陸の話したときだ。
いたたまれなくなり目を逸らすと舌打ちされた。
…なんかごめんなさい。

「行くぞ」

加賀見が声をかけると、女の子は顔を真っ赤にし、小走りで着いて行った。

その後ろ姿を見ながらぼーっと考えた。

俺はあの子に同情したんだろうか?
それとも、あの女の子と加賀見が上手くいけば、自分が加賀見から開放されるとでも思ったんだろうか?

何にしても、俺は人の色恋沙汰に自分から足を突っ込むタイプでは無い。

陸が三股かけたときも呆れはしたが何も言わなかった。
全てそいつの勝手だと思う。

じゃあ何で加賀見には口出ししたのか?
加賀見が俺の生徒だからか?

自分の変化が理解出来ない。
理由がわからない。

俺、訳わかんねぇ。







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