龍の鬚を蟻が狙う


今日は月曜日。
昼休みのチャイムが鳴った。
俺も昼飯の時間。

「アキちゃーん!お昼だよー!」

ガシッと井上に腕を捕まれた。

「いや、俺は職員室で…」

何を言っても、いーからと言われ、聞く耳持ってくれない。
結局引きずられ、来たのは屋上。
意外に力が強くて驚いた。
どいつもこいつも成長期だな。
井上も加賀見と三上と一緒にケンカしたりすんのか?
いつもニコニコしている井上が人を殴っている姿は想像できない。
というか、したくない。

「アキちゃん連れてきたよー!」

井上が手を上げて見ている方向を見ると加賀見と三上がいた。

三上は女に好かれそうな、きれいな顔をしていて、とにかく美人。
さらに俺でもわかるほどフェロモンが出ていて仕草一つ一つが色っぽい。
なんというか、高値の花?
オレンジの髪の色もとても似合ってる。
色っぽいのにキラキラしてて眩しい。
俺から言わせれば三上は王子だな。

加賀見はなんというか、女はもちろんだが、男で憧れてる奴が多そうだ。
高めの身長に、適度に筋肉がついて男らしい。
顔は整っていて、何だか近寄りがたい雰囲気。
二人が一緒にいると、絵になるなあ、なんて思う。
世の中不公平だ。

屋上は昼休みだけ開放している。
でも加賀見や三上のような人間の溜まり場になっているため、あまり一般の生徒はいない。
怖くて来れないんだろう。
可哀想に。
その代わり、屋上に不良が集まるので、他の校内は安心して食事ができる。

加賀見や三上の他には、加賀見や三上に憧れてるのか、同じような髪の色をしている1、2年生がいた。
加賀見たちとは距離をとってはいるが、チラチラ加賀見たちの様子を伺っている。
加賀見も三上も食べ始めていて、コンビニ弁当だった。

なんで俺がこんなところに…。

井上に引っ張られ、近くに座る。
4人で円になる。

「アキちゃん今日眠そうだね?」
「あー…昨日寝てないからな」

職員室で食べるのは諦めて、弁当を袋から出す。

「あれ?アキちゃん今日お弁当?珍しいね」
「ああ」
「アキちゃんが作ったの?」
「んなわけねーだろ」

俺は料理が破滅的に出来ない。
唯一出来るのが、お湯を沸かすのと、米を炊くこと。
だからカップ麺と、スーパーの惣菜かコンビニ弁当で生きてる。
昼は基本的にコンビニ。
だから俺が弁当なのは珍しい。
その話を井上としたことがあったので、井上は不思議に思ったらしい。

「あ、でも卵焼きは昨日作り方覚えて自分で作った…って、おい!」

俺がちょっと自慢げに話していると、箸が三つ俺の弁当箱に進入し、俺の努力の結晶の卵焼きが三人の胃袋に…。

「あ゛ー俺のおかず…」

怨めしそうに三人見ると、唐揚げやら、ハンバーグやら、トンカツやらが俺の弁当箱に置かれた。
確実に卵焼きとトレードじゃ俺が得してる。
しかも、卵焼きも俺が作った別においしいわけでもない、地味な卵焼きだ。

「おいしいよ、アキちゃん」
「うそつけ」

加賀見は、まあ普通、とか言ってる。
反論出来ない。
むしろ普通は誉め言葉に入るんじゃないか?
俺の卵焼きなら。

三上は、暁が作ったんなら何でもいい、とかキザなこと言ってる。
女に言え、そういうことは。


「じゃあ、他のおかずはどうしたの?惣菜?」
「や、友達が作ってくれた」
「は!?なにそれ!?男!?女!?誰!?」

井上がいきなり大きな声を出したので、俺は弁当箱を落としそうになった。
文句を言おうとしたら、珍しく真剣な顔をしていたので、何も言えなくなって、ちゃんと答えた。

「高校の時の友達。男だよ。ちなみに寝てないのも、そいつといたから」

一瞬、空気が止まった。
加賀見も三上も黙ってこっち見てる。
何だ?


井上の質問は続く。

「…何してたの?」
「…ご飯作ってもらって、一緒に食べて、卵焼きの作り方教えてもらって、話してたら朝になってた」
「…エッチな関係とかじゃないよね?」

真顔で聞かれて吹き出しそうになったのを堪えて答える。

「だから男だって言ってんだろ」
「そっか。よかった。…アキちゃんてどんな高校生だった?」
「どんなって何だよ?」
「髪は?染めてた」
「あ?ああ、染めてた」
「えっ?えっ?何色?」
「金髪」
「えー!?あ!でも似合いそー!絶対かわいい!」
「かわいいって何だよ」
「また染めてよ!」
「いや、さすがにやべぇだろ。…い゛っ!」

三上にいきなり耳引っ張られた。

「暁、ピアス開いてんのか?」

ピアスホールを確かめるように、指でグリグリ揉まれる。

「いや、閉じた」
「何個何個?」

井上は興味津々に目をキラキラさせて聞く。

「二個と三個」
「自分で開けたの?」
「いや、仲良かった奴らに、無理矢理やらされたんだよ。俺は髪もピアスもめんどくさいから、嫌だって言ったのに…」
「アキちゃんの髪とかピアスとかやったのって…昨日一緒にいた人…?」

井上のキラキラだった目が曇ったのがわかった。

「ああ。そもそも、髪の色も、ピアスの数もあいつが一緒にしようって無理矢理…」

ガッシャァアアン、と大きな音がして、ビックリして見ると、加賀見がフェンスを拳で押し付けていた。
こっちを睨み付けてる。
え、俺、何か気に触ること言った?

加賀見の目は怒りに燃えていて普通に怖い。
怒るとこんな顔すんのか。
いつも、柄悪いと思ってたけど、あれは優しい方の顔だったんだな。
思わず、加賀見から目を反らすと舌打ちをして、いつのまにか食べ終わったコンビニ弁当の空を置いて、どこかへ行ってしまった。

三上もいつのまにか食べ終わっていて、煙草を吸っていた。
フェンスの向こうを見ていて、脚は小刻みに揺れ、貧乏ゆすりをしていた。

「俺、まずいこと言ったか?」

井上に聞くと、苦笑いされ、俺の質問は流された。

「ケンカは?した?」
「や、一回腕浅く切られて…それ以来、俺だけケンカさせてくれなくて見学という…」


その後も井上の質問責めは続いた。








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