プロローグ
今日から三年生の三上比呂(ミカミヒロ)と加賀見龍(カガミリュウ)が教室に入ると、教室内が一気に静まり返った。
二人はそんなことは気にならないのか、会話を続けた。
「龍さ、担任見た?」
「見てねーよ、お前見たの?」
「ばっか、あたりまえじゃん!じゃなきゃ教室来ねーもん」
クラスの者たちは二人と目を合わせないようにしながら、何があっても対応出来るように耳を傾けている。
中村薫(ナカムラカオル)は他のクラスメイトとは違い、特に動じず、視線を一瞬だけ二人に向け、また本に戻した。
「あーお前、去年ほとんど来てなかったもんな」
「進級出来たの奇跡だし。だってあいつ……思い出したらイライラしてきた」
あいつと言うのは去年の担任ことらしい。
怒りを留めておけず、ドン、三上が拳で壁を殴ると、どこからヒッ、と声を押し殺した悲鳴が聞こえた。
「で、そんなに今年の担任は気に入ったのかよ?」
加賀見がそう聞くと、三上はニヤニヤ笑い、得意気に言った。
「かっわいーんだ、これが」
「担任って男じゃなかったか?」
「男!でも可愛いんだって!別に美人!とか女顔!って訳じゃないんだけど、苛めたくなるってか、抱き締めたくなるってか」
「男に興味ねえよ」
「見ればわかるんだって!」
そんなとき、またしてもガラッと扉が開いた。
「みかんちゃーん!」
井上の声を聞いて教室の空気が変わった。
三上は、げっと言って顔を歪め
「お前、その変な呼び方やめろよ」
と井上に返した。
一筋の希望。
加賀見、三上、中村の三人以外の教室にいる全員は井上の登場に救世主!そう思った。
井上は顔が広く、怖がられている二人にも関われる貴重な人物だ。
だからと言って他の生徒を見下すこともなく、誰とでも仲良くなれる、所謂ムードメーカーだ。
「みんなおはよー!一年よろしくー!」
井上が大声を出すと、それを合図に教室の中が二人が来る前に少し戻った。
二人の様子は伺いながらも会話をしたりしていた。
「そういえば担任見てきたよ!」
「あー俺も見た」
井上が報告すると、三上がはじめて井上の話に興味を示す。
井上はえー見ちゃったのー、と残念そうにした。
「龍は?」
「見てねぇよ。興味ねぇし」
「まじ?かわいーよ」
「俺は男をかわいいなんて思わねぇよ。つーかおまえらどーやって見たんだよ」
「「職員室忍び込んだ」」
ガラガラと扉が開いた。
クラスの視線がそっちに向かう。
例の担任かよ、加賀見はそう思い、扉の方を見ると、頭が痺れるような感覚が襲う。
三上と井上の言っていたことの意味がわかった気がする。
三上と井上に視線を向けると二人が加賀見に向かってニヤニヤ笑っていた。
その顔に加賀見は舌打ちを返した。
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