龍の鬚を蟻が狙う

はじめて暁を見た瞬間、胸がじん、と痛んだ。
三上と井上が俺を見てニヤニヤしたことに苛ついた。
こいつらは知っている。
この胸の疼痛が何か。
俺の知らないこの何かを。


数学教室から暁の名前を呼ぶ甲高い喘ぎ声が聞こえたとき、何故か苛立った。
少し歩き、苛ついたせいか、煙草が吸いたくなった。
屋上まで行くのが面倒で、そのまま一番近い教室に入った。
窓を開けて煙を吐き出す。
外を見ると真っ暗だった。
煙草を吸おうが関係無く、苛つきは収まるどころが増幅していく。
暁に声をかけられていたから良かったものの、かけられなかったら窓ガラスにでも八つ当たりしていた。


暁の、俺の苛つきも知らず、無神経にも自然に話しかけてくることに、また苛ついた。
こいつを俺の中で乱れさせれば、この胸くその悪さは収まるのだろうか。
その仮説が立ったとき、俺は暁の口を口で塞いでいた。


暁を犯した後、今までに無い快感があった。
暁の声に、顔に、仕草に、興奮した。
全身が心臓ように、血が通っている、脈打つ感覚を知った。

勝敗が見えたのか怯えた表情で許しを請う相手を構わず暴行するよりも、それこそ極上の女とセックスするよりも興奮し、満たされた。
大袈裟な話ではなく生きてきた中で一番満たされた。
過去に頼み込まれて男を抱いたことはあったが、そのときにはこんな気持ちにはならなかった。


気を失った暁を抱え、トイレで暁の後孔に指を突っ込み、自分が放った白濁を掻き出したとき、自分の中の何かがじわじわと浸透していくのを感じた。
俺を満たしていく何か。
女じゃないし、孕む心配が無いから出しただけだったのがこんな結果を招くとは思わなかった。
後処理を適当にして、暁を運び、勝手に車に乗り込んだ。
そもそも、情事後に、相手の後処理をしたことすら、はじめてじゃないだろうか。


目を覚ました暁を画像で脅したのは、正直、暇潰しだ。
理由はわからないが、俺をかつて無いほどの快楽で満たしてくれる教師を支配できる。
いい拾い物をした。
その程度だと思っていた。


だが、次の日、暁に抱きつく井上に対し、異常なほど苛ついた。
抱きつかれ笑っているあいつにも苛ついた。
他人に対して苛つき、心を動かされている自分自身にも苛ついた。

ドロドロした黒い何か。
もちろんプラスの感情ではないだろう。
このイライラをどうにかしたくて、暁を支配したくてトイレに連れ込み、痕をつけた。

その後、自分の行動が、オモチャを取られた子供のようで、経験したことの無い、あのドロドロした黒い感情に腹がたった。
それが紛れるよう、その日の授業は全て屋上で過ごした。


放課後、暁を見つけるとあの黒い感情の正体が知りたくて家に連れ込んだ。

抱くと、不思議なことにあのドロドロが浄化されたような、安心するような感覚に陥った。
そして、あの例の快楽。


正直、この時点で自分の気持ちには気づいていた。







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