幼馴染は関係無い。そう言ってくれた彼の目に、嘘は無かったと菫は思っていた。
『やっば間に合わない…!!』
夏休み明け、初日の登校。今日から二学期だというのに、今日は一段と寝癖が酷かった。どう寝たのか不思議になるほど跳ねに跳ねまくった自分の髪と格闘すること15分。いつもならここまで跳ねることはなく、毛先を内側に巻く程度で済むのだが。
何故今日に限って。嘆きながらの格闘の末、結局ダウンスタイルは諦め髪を一つに束ねることにした。もちろん慣れていないからこそまた少し手こずり朝ご飯を抜いても10分オーバー。このままではバスに乗り遅れてしまう。
母が急遽握ってくれたおにぎりを鞄に入れ菫は家を飛び出した。
いつも乗るバスの2本後。バス停から学校まで走ればギリギリ間に合うくらいだろう。息を整えつつ三谷からきていたメッセージに遅れた旨を送り、バス停に着くなりまた駆け出す。まさか二学期初めからこんなことになるなんてと、昨晩の自分を責めながら。
「おー。遅かったな。」
『あーおはよう宮!よかった間に合った…!』
やっとのことで自身の教室が見え、その入口に居た治に挨拶をする。あのギリギリ、むしろ遅刻確定とまで思った時間かれ間に合っただけで大健闘である。安堵のあまり笑いが込み上げてきて、緩む口元をそのままにして視線をスライドさせた。
治の隣には、いつも通りの眩しい金髪。それから何度か見かけたことのある男子生徒。きっと、いや恐らく彼もバレー部だ。2人にも挨拶をすれば、驚きつつも返事を返してくれた。
なんだか侑がじっとこちらを見ているけれど、理由が分からないのでスルーして遅れると漁り始めたバレー部の男子生徒に賛同すれば。彼に背を押されながら歩き出す侑。
そしてその金髪は、振り返ってニコッと笑った。
「おはよう、菫ちゃんっ」
ようやく聞けた挨拶。タイミング的に少しおかしいけれど、自然と呼ばれた名前につい口角が上がる。
名前で呼んでいいかと聞かれてから、会っていなかった。忘れていたわけではないけれどこんなに自然に呼んでもらえるとは。
幼馴染以外の異性から名前で呼ばれることなんて殆ど無かった為に気恥ずかしくもあるが、なんだか彼と仲良くなれた気がして嬉しくなった。
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