買い出しに行く道中よりも、会話らしい会話をしながら閑静な住宅街を歩く。周りに音が無い所為か学校で話すよりも心なしか2人とも声が落ち着いているような気がした。そんな中、侑が口を開く。





「…………今日、何で誘ってくれたん?」





意を決したかのようなその言葉。今日一日菫と向き合う度何か言いたげな顔をしていたのはこのことだったのだろうか。緊張を含んだような声には少しの疑心が乗っているようで。

普段だったら特別気にしたりなんかしないのだろう。友人からだけでなくとも、学校でよく女の子から遊びの誘いを受けているのも知っている。

侑がそう聞いた理由なんて、一つしかない。





『…ほんとはね、クラスで宮と角名の気紛らわせてあげようって話になって今日の花火が決まったんだけど。』

「うん」

『宮くんはどうなんだろうって、頭から離れなくて。』

「え…」

『お節介だってわかってたけど、なんか気になっちゃってさ。それで宮に連絡した時に言ったの。』





気を紛らわせるなんて。他人からすれば、これを同情と言うのだろうか。勿論菫だってそんなつもりはないのだけれど、負けた相手の幼馴染というポジションだからこそそう思われてしまっても仕方がない。それが挨拶とほんの少しの言葉を交わすだけの相手である菫ならことさら。治や角名のように、はっきり"友人"と言える立場では無い微妙な距離。

そしてそれをわかった上で、侑に直接連絡出来なかった。いや、わかっていたからこそ、の方が正しいのか。

それでも菫とてただの"お節介"なんて簡単な言葉で片付けられるほどの気持ちではない。ただ気になったなんて、口で言うほど軽い気持ちでも。けれどそれを侑相手に言うわけにはいかなかった。誰よりも、そのことで悩んでいるのは彼だろうから。

深い意味は無いと言うように侑を見れば、彼は遠慮がち笑ってお礼を言う。

そしてそのまま、ゆっくりと言葉を紡ぐ。





「嬉しいねんけど、あー……気ィ、遣わんとってほしい。俺もほら、あれや、臣くんが幼馴染とか、全然関係ないと思ってるから。」

『……うん、わかった。』





言葉を選ぶように、慎重に。菫の考えなんてやはり侑は気が付いていた。その本音に気付かなくとも、何がこんなにぎこちなくさせているのかも。明確な名前が出たことに、菫はそう感じる。

特に喧嘩することもなかった。そこまで一緒に時間を過ごしたわけでもないのだからというと少し淡白に聞こえるのかもしれないけれど。ただその事実があるからこそ、侑と菫の間の確執なんて一つしか無くて。

こうしてしっかりと言葉にしてくれているということは、またいつも通りの関係を望んでくれている証拠なのだろう。

それを理解して同意を示すかのように笑えば、ずっと引っかかっていた胸のつっかえが取れたような顔をした侑は目を泳がせた。





「あと、ほんまに嫌じゃなかったらでええねんけど……名前で呼んでいい、ですか」





距離を詰めるには呼び方を変えるのが一番。いつか誰かから聞いたそんなことを思い出した菫は、その申し出に迷うことなく首を縦に振った。
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