行こうかと、笑った彼。クラスメイト達は急なそれに何かを言うことはなく、彼の申し出が受け入れられ買い出し係に決定した。

どこかいつもと違った侑に違和感を感じ少しだけ気まずく感じて。ただ侑自ら菫との買い出し係を申し出てきたのだから、侑自身が菫と同じように思っているわけではなさそうだ。

いつも何を話していたのか、自分はどんな調子だったか。すっかりわからなくなってただ無言な中を歩いていると、ひしひしと視線を感じ顔を上げた。





『どうしたの?』

「っえ、あ、なんもないぼーっとしとった。」

『疲れた?ごめんね、折角のオフなのに。』

「ちゃうちゃう!疲れたとかではない、全然ッ」

『ほんと?気遣わないでね?』





自分でも上手く笑えていたとは思う。気を遣わせたくないのは本心だから。それでも合った黒い瞳は一瞬揺れて、言葉を飲み込んだような顔で笑う金髪。キラキラした笑顔ではないそれは一気にあの侑を思い出させた。

彼は、自分と居て佐久早を連想することはないのだろうか。ふと過った考えが菫の頭の中を支配して、当たり障りのない、ぎこちない侑の話に返事をするのがやっとだった。

目的のコンビニについて、リクエストのリストに沿って商品を籠に入れていく。率先して籠を持ってくれた侑にお礼を言えば、またあの言いたいことがあるような笑顔を向けられ菫はわざとアイスのショーケースへと視線を向けた。

表面上は普段通りを振舞えているつもりだけれど。きっと自分も、遠慮したような顔なのだろう。何がこんなにぎこちなくさせるかなんて理由は一つしかないが、簡単に咀嚼できるものではないから。菫がこの話題を口にするのもまた、違うのだ。そしてそれはきっと侑だって気付いているだろう。試合であんなに周りを見ることが出来るのだから、菫一人と対面した時の空気なんて敏感に感じ取ってしまうはず。

それでも侑は、何故こうして自分と2人になる時間を自ら作るような真似をしたのか。気を遣いながらでも話しかけてくれる彼からは、マイナスな感情は感じ取れない。

菫とてこのままの状況は嫌なのだと、きっかけを探していれば。よく好んで食べているアイスを指差す侑。





『じゃあ半分こしようよ。』

「っ…ええな、じゃあ食べながら戻ろ。」

『いいねえ、買い出し係の特権だもんねえ。』





本当に些細な事だった。それでも菫の緊張を解くには十分で、ふっとこぼれた笑みで提案をする。そうだ、確かこのくらい、力を抜いて話していた。彼もなんだか気が抜けたようで、にこっと笑うその姿はまさに教室でよく見た侑。

会計を済ませてコンビニを出ると、侑に手渡された半分のそれを口に含む。





『冷たい美味しい』

「コレ、たまーに食いたくなるよな。」

『わかる。でも二つあるから一回では食べきれないんだよね。シェアしくれる人居てよかったよ。』

「俺も。買い出し来てよかったわ。」





来てよかった。アイスとは別に、そう思ってくれていれば。

口の中で溶けるカフェオレ味のそれと一緒に、ずっと流れていたぎこちない空気も消えてなくなったような気がした。
05
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